「さぁ楽しませておくれ。そなたが苦しみながら死ねば、それだけわしは楽しいんじゃからな」
老人がムチを振るい、それがギルバートの頭へと迫る。
ぶつかる寸前、そのムチは出された剣に巻き付いた。
「誰が、楽しませるか!」
ギルバートが懇親の力を込め剣を引き戻す。
相手は老人、力は弱い。ムチが手元から離れ、地面に落ちる。
ギルバートの剣と共に。
……もはや力が入らなかった。
腹部に開いた穴は、ナイフや剣と言った刺し傷ではない。穴。
生きているのが不思議、立ったところで握る力があるはずは無い。
けしかけた老人ですら自分の手を呆然と見つめる。
「くっ!」
ギルバートが片膝を着き、血を吐く。
「やりおる。が、それが精一杯じゃろうて」
そう言って老人は壷をしまい、ギルバートの背後からは無数の獣の足音がし始めた。
「虫の息の相手に……随分な待遇だ」
ギルバートの皮肉に、老人が凍りつくような笑みを浮かべ。
「いつまで持つか、試してみたくなった」
獣の姿は見えない。頭を上げる力すらも残っていない。
力ずく……。我ながら無茶難題だったと嘆く。
絶望的な考えだけが、ギルバートの脳裏に浮かび、死を覚悟した。
さっと風が吹きギルバートが感じたものは、一際大きな音と、どこかで聞いた獣の咆哮と、誰かの声。
長い形式ばった言葉と、自分を呼ぶ声。
「ギルバート!」「ギル様!」
意識が遠ざかっていった。
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