「若造が。これを取っただけで、安心するとは」
ムチを奪い返し、老人が剣の間合いから遠ざかる。
緩慢とした動きにも関わらず、意識が途切れ途切れで反応すらできなかった。
「一寸の虫にも五分の魂。そやつはちとでかいがな」
老人が不敵な笑みを浮かべ、一点を見る。
ギルバートも、ゆっくりとその視線の先を見た。
アルミラージと呼ばれる一匹のウサギ。特徴は頭部から生えた長い角。
それがギルバートを貫通している。
小さいものには注意しなくていい。それを逆手に取られたのだ。
血を吐き、膝を着く。それでも、目だけは老人を睨む。少しも動かなかったはずだ。
「……どうやって……」
「ふむ、知らないまま死ぬのはあまりに哀れ。
説明してやろう」
老人が懐に手をいれる。
取り出したのは壺のような形の何か。手にすっぽりと隠れる。
水を入れるにしても小さい。
真っ黒だが、白い線で奇妙な模様が描かれている。円で囲ってあるのでおそらく魔方陣の一種だろう。
「これは特殊なマジックアイテムでな、わしの周りの獣どもに催眠をかけることができる。
それも容易に、深く。想像だけでわしの思い通りになる優れものじゃ。
四属の巫女のドラゴンか、もしくはあの娘が何か言っておらんかったか?」
ギルバートの痛みが消え、意識が戻る。体なんてどうなっても良かった。
言葉の中のただ一言。その答えを聞くまでは倒れられない。
「四属の巫女ってのは……何だ?」
老人が笑い顔を崩し、けわしい顔で驚く。
「まさか……知らずにあのような者と?
悪魔とすら呼ばれた、強力すぎる力を持った者と?」
「答えろ!」
「困ったのぅ。口が滑ったが機密なんじゃよ」
嘘だ。ギルバートに無理をさせるためにこんな言い方をしたのだ。
「嫌と言ったら?」老人がにっこりと笑い、ギルバートが剣を動かす。
自分を貫く角を後ろから引き抜き、そのまま持ち主を叩いて気絶させる。
そして、膝を押さえて立ち上がり、剣を両手で構え、
「力ずくだ!」
老人と自分に、大きく宣言した。
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