「随分と無駄なやり方じゃのう」
「無駄?どこがだ?」
ギルバートが老人を睨む。
「魔力の消費どころか、動けなくなるなど言語道断。
このような下等な者どもを助けるために、そのような事を行うのは無駄以外の何物でもなかろう?」
確かに1人動けなくなるのは致命的だ。だが……もっと優先する事がある。
「守るべき物を守らないと、勝ったって意味がないだろ」
ギルバートが腰の剣を握る。
「惚れ直したで!ギル様!」
隣でナデシコが目をきらきらさせ、食い入るようにギルバートを見つめる。目の前に敵がいなければ抱きついていそうだ。
『なかなかいいことを言うではないか。そう思わないか?』
「…………」
『すまない、話せないほど辛いとは……』
かっこいいと思ったなんて、本人の前では口が避けても言えなかった。
「ふぉっふぉっ。その強がりも死んだらおしまいじゃ」
ギルバートが剣を抜き、老人に向ける。
「お前を捕まえれば問題ない!そうだろ?」
「ほお!わしを殺すでもなく、捕まえると!?」
老人が高らかに笑いながら、懐から鞭を取り出す。
「これは新人には本来絶対やらせない難度のミッションだ。
絶対殺すな!無理だったら空に逃げろ!」
ギルバートが剣を構え、小声で、だが強い口調で隣に立つナデシコに話しかけた。
二人とも、向き合ったりせず白髪の老人を見たままだ。
老人も同様。
隙を見せれば先手を打たれる。それが常識。
「ギル様だけがボコボコにするんはずるいんとちゃう?ウチかてムカムカしとるんや!」
ナデシコが手を強く握り締め、武器のみしみしと言う音が聞こえる。
ギルバートもその気持ちは良く分かるのだが、それでも敵が強すぎると思いそう言ったのだ。
はいどうぞと戦わせる訳にはいかない。
「よく考えろよ。やっぱり無理だと思ったら……」
「ギル様の目に、ウチはどう見えとる?」
ナデシコが挑戦的にそう言った。
武器を着け戦う気満々。いつでも逃げられるというのに、そのための羽も話すと同時に消えた。
仕上げに一点の迷いも無い真っ直ぐな、きらきらとした穢れを知らない黒真珠の瞳。
今そこから感じ取れるのは、「許さない」という断罪の言葉。
「……俺の隣にいろ。
絶対に!勝手な行動をするな」
「言われるまでもなくそうするて。
第一……」
ナデシコがそっとギルバートに寄りそい、
「戦い以外でもウチはギル様の言いなりやのに〜」と頬を赤らめ、上目遣いでギルバートに寄りかかる。
「フィソラは、戦いが始まったらブレスで後ろの敵を何とかしてくれ。あとは俺たちに任せろ!」
それを聞き、全員の声が重なった。
『分かった』
「気をつけてね!」
「なぁ、聞いとる!?」
聞いてて本当に誘惑されそうだった。
いよいよ、戦いが始まる。誰も斬ってはいけない。
一方で老人はギルバートたちを殺す気でいる。死ぬかもしれないのは正しい方だけ、なんとも不公平な戦いだ。
白髪の老人が手を持ち上げる。一瞬のはずなのに、スローモーションのようだった。
「ナデシコ!一気に突っ込む、絶対に離れるな!」その声と同時にナデシコも自分の足で立ちあがり、拳を構える。
ピシッという音が鳴り響き、
「今だ!」
二人が走り出した。
次へ