部屋の端に折りたたみ式の机が置かれ、三人が囲む。

一番目立つのはギルバート。顔をしかめている。

向かい合って青い髪でたくましい体つきのアルタイルと、濃い茶色の長い髪で女性らしい体つきのリーリアが座る。

端っこに座るのは、真ん中に座ると扉の破片が刺さって危ないからだ。

折りたたみ式の机は三人で座るにはやや狭いのだが、部屋に有った机は扉と共に大破してしまい木屑の山と化している。

「で、説明してくれるんだろうな」

ギルバートがリーリアを睨み、アルタイルが周りを眺める。

そして問題のリーリアは、ギルバートに微笑み返す。

戸の無い部屋、戸が激しく跳んだせいで入って目の前にあった机とベッドは壊れ、壁にはひびが入っている。

その部屋の惨状を見て、いてもたっても居られなくなった者が1人。

「申し訳ありません……」

アルタイルが神妙な面持ちで頭を下げた。

「いや、あんたは悪くないって」

ギルバートが困り顔でそう言うと、ゆっくりと頭を上げる。

犯人より先に、関係者が謝るってのはよくある話しだ。

しかし……犯人が反省しないと話にならない。

第一アルタイルに何か落ち度があっただろうか?いや、無いだろう。

むしろ、知らん振りもできた理不尽な話に参加しているのだ。賞賛に値すると言っても過言ではない。

そして、

「ごめんごめん!やりすぎちゃって!」

犯人はというと満面の笑顔で机にひじを立てて謝る、いや笑い飛ばす。

それを見たアルタイルが苦悶の表情を浮かべ、

「本当に申し訳ありません」

頭を下げて間を空けずに謝る。

「いや、だからあんたは悪くないって」

「いいえ、リーリアの責任は私の責任でもあります。

この度は……本当に……。

リーリア!ちゃんとあなたも謝ってください!」

アルタイルが、リーリアの頭に手を置き力を入れるが、リーリアは意地でも頭を下げようとしなかった。

アルタイルは頭を下げたままだ。

悪くも無い奴が謝り、一番悪い奴が謝らないのは、見ていて辛い。

「はぁ……。とりあえず、部屋は直してくれるんだよな?」

「はい。

ただ規模が大きいですから、作業は住人であるあなた自身がワイスンさんに伝えてからでないと……」

「それで直るんなら、もういいか……」

半ば諦めて、ギルバートがそう言う。

「悪かったわね。今度なんかおごるわ」

本当に悪いと思っているのだろうか……。

「で、何か用事があったんじゃないのか?」

「そうそう、それそれ!

今度のあなたの任務で私の弟子が一緒に行くことになったから、まあ一つ宜しくって事なんだけど」

リーリアに弟子?

こいつに師匠なんてできるのか?と思ったが、言うのはやめた。

ギルバートが、疲れた頭で考えをめぐらせる。

「まだそんな話は来てないな、どこでそんな話を聞いたんだ?」

「私がワイスンにそうするようにって言ったのよ」

「先にワイスンさんに頼んだんですか!?」

ギルバートより先に、アルタイルが驚く。

普通は先に弟子を頼みに来て、了解をとる。異世界でも、その辺の文化は同じだ。

なぜなら、上司に先に言うと正式な任務となり断れないから。

「聞いたら嫌がるでしょ?だったら逃げ場をなくしてから……」

それが狙いだった。

「重ね重ね申し訳ありませんでした、ギルバートさん」

リーリアがいい終わる前に、早口でアルタイルが謝る。

「それに先にあなたのところに行ったわよ。戸の前に服置いてあったでしょ?」

「あれお前か!名前かいてなかったぞ!」

「名前も書かずに送ったんですか!?」

「ちゃんと書いてなかった?胸元に大きく書いといたんだけど」

「俺のを書いてどうする!?」

「とりあえず誰かの贈り物って事は伝わるでしょ?だから着てんだろうしね」

「う……」

確かにギルバートも誰かの贈り物だと分かって使ったのだが、どうにも釈然としない。

「いいですかリーリア」と子供を諭すような口調でアルタイルが話を切り出した。

「贈り物だとしても誰からのものか分からなければ、安心して使えません」

リーリアからと分かっていたら余計使えなかった。

「そして何より失礼だと思いませんか?礼儀正しく丁寧に送るからこそ贈り物なのですよ?

名前も書かず声もかけず、ただ扉の前に置いていく物を贈り物と呼べますか?」

「う……」と呟き、何とか言い返そうと唇を震わせるが何も言えなかった。

「……悪かったわよ……。けどうちの弟子の事頼めない?」

「私からもお願いできないでしょうか?あなた達になら安心して任せられるのですが……」

「そうそう、あなたなら何が起こっても絶対あの子を守ってくれるでしょ?」

「そうだな……」とギルバートが少し考えたが、もう答えは出ている。

「別にいいぜ。大したことじゃないんだし」

ただの弟子の付き添いを、基本的にお人よしのギルバートが「あなたなら」とまで言われて断るはずが無いのだ。

「それにディニウル山では随分と助けても……」

『ギルバートさん。至急ワイスンさんのところへお願いします』

ギルバートの言葉を遮って、部屋中にアナウンスが流れる。スピーカーは壊れずにすんだらしい。

「じゃあ行ってくる。後は任せてくれ!」

ギルバートが立ち上がり、部屋を出た。

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