「ナデシコ……、今日はごめんね……」
水浴びを終えて着替えた後に、アイリスがそう言い出した。
「いきなり何や!?なんかの罠か?」
ナデシコが素っ頓狂な声を上げてアイリスを見る。
「違うわよ!……私、……悪くも無いあなたに怒ったりしたし……。
さっきだって、……先にあなたのことを悪く言ったりして……」
うつむいたまま、言いにくそうに言葉を述べていく。
ナデシコはそれを見て、苦笑いを浮かべ。急に真面目な顔になり。
「……ウチも言い返したんやし、お互い様やろ。
それよりウチこそ謝らなあかん」
「なんのこと?」
アイリスが不思議そうに尋ねる。
「ウチどうにもかしこまったん苦手でな……。
さん付けやら、ですます調とかついやめてまう癖があって。
アルタイル師匠にはいつも怒られとるねんけど、気が抜けるとついこうなってしもて……。
せやから、今も先輩達にこんな話し方してもとるし……」
出てきた言葉は、アイリスの予想とは違った。
アイリスの方こそ、今日はずっとイライラしていたし、大人げ無かった。
「私今日、何一つあなたの手本になる事できてないし、そう見えても仕方ないわよ……。
それに……私は先輩より友達になりたいからそのままのほうが嬉しいし……」
照れながらそう言うと、ナデシコが静かになる。考え事をしているようだ。
「……1つ聞きたいんやけどええか?」
やがて、ナデシコがアイリスの目を見つめそう言った。真剣だった。
「なに?言ってみて!」
ようやく先輩らしい事ができると、 喜びいさんでアイリスが聞き返す。
「ギルバートの事どない思っとるん!?」
「べ、別に!なんとも思ってないわよ!」
完全に不意をつかれ、アイリスがあわてて答える。
「じゃあ!ウチが告白してもええやんな!?」
ナデシコの顔はずっと真剣そのものだ。
アイリスの胸が痛んだ。
まるで小さな針が刺さったかのような、そんな痛み。
「……うん……」
何があったのかもわからなかったが、胸のもやもやを押し込めてそう答えた。
でも、1つ忘れていた事に気づき訂正する。
「でもパートナーにはしないで!
ギルバートは私のパートナーなんだから!」
「そんなん嫌や!一緒におりたいし、組み直すんは当たり前やん!」
付き合い始めたらずっと一緒に居たい。
別の人とパートナーを組んでいるとそうも行かない。
ただ、アイリスも引き下がれない。
「じゃあ!告白なんてしないで!」
「そんなあほな話があるかいな!」
『二人とも、いい加減にしたら……』
「黙ってて!」
『……』
ドラゴンが、乙女二人の威圧感に負けた。
ハァ……。
突然、ナデシコがため息を吐く。
「……よう考えたらウチがそんなんしても意味無いやん」
「え?どうして……あっ!」
「今からそんなことをしても、ギルバートは全て仕組まれた事と思うはずやん。
むしろ、マイナスにしかならへん……。
諦めるしかないんやろな……」
辛そうにうつむくナデシコ。
「……私だって、いざという時にはあきらめるしか……」
ナデシコがアイリスを見る。
「だって、もともとギルバートがパートナーを選ぶのを止める権利なんて私には無いでしょ?
パートナーだから口を出せるって言っても、ギルバートがそうしたいなら止めてもわだかまりが残っちゃうから……」
「やったら……二人とも動けへんって事……」
『なぜそうなるのだ?』
フィソラが話しに入る。
『アイリス、これから話すことをナデシコにも伝えてくれ』
「う、うん……」
『好きなのならば、これは命じられた事ではないと明言してから、近づけばよい事だ。
あんな事のために、諦める必要は無い』
アイリスがそっくりそのまま、ナデシコに伝える。
ナデシコは少し考えた後、そうかもといった顔で頷く。
『アイリス、お前の場合は遠慮しすぎだ。
パートナーであり続けたいという願いを通して、なぜ悪い。
ギルバートに、そう伝えればよい話ではないか。
その後を選ぶのはギルバートだが、それを伝える権利はあるはずだ。
それに、もともと恋とは勝ち取る物だ。ナデシコはギルバートを狙い、アイリスはそれを阻み勝負すればいい』
「だから!私の場合は恋じゃないわよ!」
突然アイリスが大きな声を出したので、ナデシコが驚いた様子でアイリスを見つめる。
フィソラのほうをむいていたアイリスも、ナデシコに向き直った。
「でも、……ギルバートは渡したくない。勝負よナデシコ!」
ナデシコに手を差し出す。
「絶対負けないから!」
「ウチこそ!」
ナデシコも手を伸ばし、握手を交わした。
次へ