「よっしゃ!完成や!」
ナデシコが、お詫びに料理を作ると言い出したのはついさっきだ。ずいぶんと手際がいい。
それに、騙されて怒るかもしれないと思ったが、アイリスは怒ってないようだ。
むしろ、ナデシコがアイリスの前でも素で話せるようになって、プラスだった。
「ウチこれでも結構自信あんねん!」
これでも、ってのはドジの事だろうか。
ナデシコが料理を運ぶ。
鍋焼きうどん。おいしそうだ。
絶対に見かけで判断したら駄目だ!
俺の前で料理を作った女性で、その料理が旨かった事は一度も無い。
まあ戦う女性に家庭的なものを求めるのが、無理な相談だ……。
イス代わりの石の前に料理を運び、最後に特大のフィソラの分を運ぶ。
最後にナデシコが席に着き
「「「いただきます」」」同じ言葉なのに、えらくトーンが違う。
手を合わせ礼儀正しくしつつも、明るく言ったのはアイリス。
すでに箸を掴み、今にも飛び掛りそうに言うのはナデシコ。
初めてアイリスと出会った時にも思ったが、礼儀を気にしなくなると、女性は変わる。
俺としてはこっちの方が気が楽だ。そして、
箸も握らず手も合わせず、暗いのは俺。……自分で作りたかった。
「美味しい!」というのはアイリスの声。
アイリスの舌は信用できない。自分の料理も食べてるはずだ。
「はほ、くふぁは、ほひふへ!」
「は?」
ナデシコがうどんをすすりながら、話す。理解不能。
ただ美味しそうに食べている。ちゅるん、という出るはずのない可愛い音の後で
「ごめんごめん、はよ食わな伸びるで!」
あれだけ美味しそうに食べられると、なぜだか試してみたくなるから不思議だ。
ただ、美食を求めるというより、怖い物見たさなのが残念だ。
意を決して、箸を掴む。うどんを摘まみ、口へと運ぶ。
「……うまい」
本当に美味しかった。
荷物を増やさないために、ほとんど何も持ってきていない。
砂糖と塩ぐらいだ。
けど、うまい。
確かめるために、もう一度ゆっくりと口に運ぶ。
「……うまい」
「そないゆっくり食いよったら、伸びるて!」
ナデシコがこっちを見ている。
「リーリアの弟子なんだよな?」
リーリアの料理はアイリス並らしい。2回に一度は走馬灯が見える。
少ない食材から料理を作る方法は伝わる。
「これを教えてくれたんはアルタイル師匠やからな。
内緒やけど、師匠のは食えたもんとちゃうで!下手にも程がある!」
「知ってるさ」と言うと「ご愁傷様」と手を合わされた。
アルタイルなら俺と同じように自分で食事を作ってるはずだからな、道理で。
「ウチは師匠とちごて家庭的やねん。
自分で言うのもなんやけど、美味しいやろ?」
「ああ!よくこんなのできるな!」
そう言いつつ、また口に運ぶ。
絶品だ。こんな晩飯を食べたのは何年ぶりだろうか。
……泣けてきた……
「どうしたの!?」
「どないしたんや!?」
アイリスとナデシコが慌てて立ち上がり、俺の前に来て心配そうに見つめる。
「なんでもない……」
我ながら情けない。久しぶりだったから感動した。
「ねぇナデシコ、言いにくいんだけど……なにか入れ間違えてない?」
「何でウチ!?」
あれ!?やばい雰囲気……
「だってそれ以外に無いじゃない!」
カチンときたようで、ナデシコが立ち上がった。
「大丈夫や!食べるもんには特に気いつけとるし、何もしてない!
アイリスこそ、ウチに恥かかせようと小細工してへん!?」
「私はそんなことしないわよ!」
アイリスも負けじと立ち上がり。って、おい!
「そういえば、私を騙したお詫びを、まだ聞いてないんだけど!?」
「ウチこそ、ギルバートが泣いたんを責められてんけど!?理由もなしに!」
お、おい待て!どっちもどっちだ!
「二人とも落ち着け!」
「「黙ってて!」」
「……はい」
止まりそうに無い……
「フィソラ!いつもみたいに止めてくれ!」
フィソラが黙って首を横に振る。無理という事だ!
まともには食えない運命なのか?
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