第3章:ナデシコの秘密


ここまで道なき道を歩いてきたが、そろそろ暗くなってきた。

そろそろ宿を探したほうが良いと判断し、ギルバートがアイリスに話しかけた。

「なあアイリス、フィソラを召喚してくれないか?

そろそろ洞窟か、最低でも開けた所を見つけないとやばいだろ?」

さっきのこともあるので、幾分いつもより丁寧だった。

ビーストガーズは動植物を守るための組織でもある。

その場所の木を伐り、休めるようにするのは簡単だが、そんなことをしたら自分を逮捕しなければならない。

「いい?」

『もちろんだ』

「お願いね。フィソラ!」

光の玉の中からフィソラが現れ大きな羽を広げると、飛んだ。

「ウチも行って来ます!」

間髪入れず、ナデシコがそう言って二人の前に立つ。その瞬間、背に翼が生えた。

茶色に黒の混じった斑模様の翼で、ちょうど身の丈程度の大きさだろうか。

服は突き破っている。薄着だったのはこのためでもあった。

「どないしたんですか?」

ナデシコが振り返ると、二人とも目を見開いたまま固まっていた。

しばらくそのまま黙り込む。

「鳥獣との半獣か?」

ようやくギルバートが声を出す。

体の一部を変化させる。そんな事が出来る人間は少ない。

アルタイルのようなどちらかに変身する能力の方が少ない、と言えば確かにそうだが、それでも希少な力だ。

しかも変身が早い。翼が生えたのは一瞬だった。

ナデシコが「あっ」と小さく言って。

「ごめんなさい、言うてませんでしたね。ウチはフレズベルクとのクウォーターなんです」

クウォーターとは4分の1という意味。半獣より人間に近い者を指す言葉。

ただ、通常ならば変身はできずせいぜい力や生命力が少し強くなる程度のはずである。特異体質だろうか?

「フレズベルクってどんなだ?」

「え!え〜っと……」

急な質問にアイリスが考え込む。ギルバートはそのまま黙っていた。

こういう質問で、アイリスが分からなかったことはないからだ。

「確か巨大なワシで、魔獣の中ではトップクラスの速さを持っていて。

あとは、自由に風を起こす事もできたと思うけど……」

ナデシコに話を振る。

今度はナデシコが少し驚いた様子で、

「おうとります。残念ながらウチは風を起こせへんけど、飛ぶんだけは。

やから」

と言って二人に背を向け、

「行って来ます!」

一度羽ばたくと風が吹き、二人ともとっさに目を閉じた。風がやみ、上を向く。

何とか人だと分かるくらいの、所を飛んでいた。

それにしても……速い。

風属性に変化したフィソラとどちらが速いのだろう。もうすぐ見えなくなりそうだ。

と、アイリスがあることに気づき、青ざめた。

「ナデシコって、昨日道に迷ったんじゃないの!?」

「そういや。そうだったな」

ギルバートの声に。慌てた様子は無い。

「落ち着いている場合じゃないでしょ!?」

とはいえもうただの点だ、声は聞こえないだろう。……なぜだか点が大きくなってきた。

『私にぶつかってきたが、これはいったい……』

気絶したナデシコが、フィソラにくわえられていた。

アイリスが胸をなでおろす。

「今ナデシコを心配しただろ?」

ギルバートが、少しだけ意地悪な言い方をしてみた。

アイリスが顔を背けて、

「……うん」

そして、ゆっくりとギルバートの目を見、小さな声で、

「……さっきは、ごめんね」

その一言で十分だった。

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