周りを見渡せば、青々と繁る木々や藪ばかりで、今にも何かが飛び出してきそうだ。
上を見上げても、空はほとんど見えない。木々が多いために隠れてしまっている。
そんな密林の中、一際明るく話している二人がいた。
「師匠からすごい人だって聞いて会うん楽しみにしとったんです!」
「リーリアがそんな事言ってたのか?」
「よう話してましたよ。5メートルのゴーレムを切り裂いたとか言ってて。
そんなすごい人やて聞いて、もっと怖そうな人や思とったんですけど、こんなに楽しい人やなんて!」
ナデシコが見つめると、ギルバートは少し照れながら、
「ありがとな。でも、ゴーレムに関してはリーリアの協力が無かったら無理だったぜ!」
「そんでもすごいですよ、5メートルですよ!
ウチやったらもう、怖くて怖くて。逃げてまうかもしれませんよ」
「あれぐらい頑張れば、誰でも何とかなるさ。俺の武器が剣で相性がいいのもあったしな。
そういや武器は何なんだ?もし剣なら、」
ずっとこんな感じだ。
ギルバートのすぐ隣をナデシコが歩いている。
二人とも楽しそうに笑いながら、任務の話やら修行の話やらに花を咲かせていた。
ずっと二人で手をつなぎ、通りにくい場所もギルバートが教えて通っていく。
対してアイリスは、その少し後ろを1人で歩いている。
ひどく足が重かった。
「あれは、フィソラもいないと駄目だったじゃない」
『確かにそうだが……、私の攻撃もリーリアの攻撃も決定打ではなかった』
フィソラと愚痴を話しながら、アイリスが歩く。二人を見れば見るほどイライラしていくが、目は離せない。
余所見をした隙に、解散!、なんて聞こえたら洒落にならない。
『……気にしなくていいのではないか?
あのギルバートが、お前を守るという約束を忘れるとは思えないのだが……』
昔、ギルバートは命をかけてアイリスを守った。フィソラの言うとおり、生半可な事でアイリスを捨てはしない。
だが、
「女性関係が絡んでも?」
『………』
フィソラが悩む。
守った後に風呂を覗こうとしたのも事実。この事に関してだけは、絶対に信用できなかった。
『おそらくは大丈夫だ!きっと、いや、たぶん…………』
「少しずつ弱くなってるわよ」
『……もしかしたら、大丈夫かもしれない……』
「何話してんだ?」
いつの間にか、ギルバートがアイリスのすぐ近くにいた。
ほったらかしにしてしまった事を気遣い、声をかけたのだ。
だがアイリスは、
「何でもいいじゃない!そっちはそっちで楽しく話してれば!」
驚いたのでそんな言い方になってしまい、ギルバートから顔を背ける。
アイリスに、後悔の念が浮かんだ。
せっかく、仲直りのチャンスを作ってくれたのに……。そう思うと申し訳なく感じた。
「そんな言い方せんでもええんとちゃうん!?」
呆然とする中、ナデシコが怒って言い返す。カチンときたアイリスが、ナデシコを見る。
「せっかくギルバートさんが、あなたに話しかけたのに!」
「あなたのせいでこんな事になってるんじゃない!
これ以上、私たちの問題に首をはさまないでよ!」
アイリスがナデシコを睨みつける。ナデシコも負けずに、睨み返す。
時間が止まったようだった……。一人も動かない。動けない。
『……アイリス、今のはお前が悪い』
フィソラが、静かにそう告げた。
「何よそれ!私が悪いって言うの!?」
「だろうな」
「何よ!ギルバー……ト……」
ギルバートの目が、冷たい。珍しく真剣な表情。
「今のは言いすぎだ!ナデシコがお前に何かしたのか?違うだろ!?」
「……」
ギルバートは恋人でもなんでもない。
それなら、誰かと仲良くなるのを邪魔する権利も、もともと無い。
パートナーにしても、ギルバートが決める事だ。アイリスの考えも、厳しい言い方をするならワガママだ。
何一つ、ナデシコを責められない。
それにギルバートは、仲直りしようと歩み寄った。なら、こうなったのは誰が悪いのか。
考え終えたアイリスがうつむき、ギルバートの顔がゆるむ。
「俺を真剣にさせるなよ。顔が痙攣しそうだ」
そう言って、また前を向く。ナデシコがギルバートの服を持っているが、いつの間にか手はつないでいない。
ギルバートから、手を離していた。
「………」
『頭は冷えたか?』
「ごめん……、時間をちょうだい……」
そう言ってアイリスは、二人の後を歩き出した。
足が重い。さっきの倍は重かった。
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