後ろから並々ならぬ雰囲気を感じ、目が覚めた。
敵意!いや殺意!
この宿に何が起こった!?
剣は離れた机の上、今から取りに行っても間に合わない。気配はすぐ近くだ。
どうする?素手でやるしかないのか?
覚悟を決めて、一気に立ち上がりつつ掛け布団を飛ばし、気配の方を振り向いた。
「……おはよう」
アイリスが見事に布団をキャッチして、ぶちキレていた。
……敵より厄介かもしれないな……。
「何で怒ってるんだ?」
アイリスが黙って指をさす。俺の隣?
「……遅れてごめんなさい……許して……。
……お願いや……羽むしらんとって〜………」
ナデシコ!?
うなされているらしい。羽をむしるって、どんな夢だ?
いやそれよりこれ、俺の布団だよな!?
「どうなってんだ!?」
何か気に触ったらしい、アイリスがさらに怒った。
「こっちが聞きたいぐらいよ!節操無し!」
布団を投げ返された。
何をどうやっ………ても誤解するよな、この展開は……。
だが、あわてる必要はない。俺には今までの信用という大きな武器が有る!
アイリスは賢いし、落ち着いて話せば分かってくれるはずだ。
「誤解しないでくれ。今始めて会ったんだ」
「だったらこれはなんなのよ!?まさか、夜中にナデシコさんが布団に入ってきたなんて言うつもり!」
「それなんじゃないか?」
昨日酒を飲んだ覚えも無い、会った覚えすらない。
記憶はハッキリしてるし、それしかないよな。
「あなたが誰と何しようが関係ないけど!昨日頼まれた弟子に手を出すとは思わなかったわよ!」
「だから、誤解だ!俺は何もやってない!」
そろそろ信じてくれよ……。
『アイリス、昨日ナデシコが着いたのは深夜だ。カーテンが閉まっていたとはいえギルバートも寝ていたのではないか?』
「なら、トイレに起きた時にでも誘って、自分と寝るように仕向けたんじゃないの!?」
酷すぎる!
だいたいどうやってそんな嬉し……やばい状態にするんだ。
「なぁもしかして俺って、そんなに信用が無いのか?」
『かつて風呂を覗いておいて、あるはずが無いだろう』
「無いわよ!」
「おい!」
「そうよね!ギルバートに限ってそんな事!」とか、いくらでも言う事があるだろ!
「……あの〜」
ナデシコが起きていた。寝ていた姿勢のまま、俺とアイリスを交互に見ている。
これだけ騒げば当然か。
「………おはようございます」
驚いた様子で、そう言う。
何はともあれ、これで解決だ。
「なあアイリス」
「何よ!」
そんなに怒るなって……。
「本人に聞いてくれないか?」
それにしても昨日といい今日といい………二日連続で厄日か?
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