「んーーーー!」
アイリスが起きて、背伸びをする。
5時ごろだから、まだかなり早い時間だ。
目をこすり、少し考え窓を開ける。朝日が差し込み気持ちがいい。
だが、アイリスの目的はそっちではなかった。
「おはよう、フィソラ。どうだった?」
真下のフィソラに声をかける。
『おはよう。来たのだが部屋にいないのか?』
フィソラが答える。
眠った時間は遅かったが、ドラゴンの睡眠時間は人より短い。
少し前にもう起きていた。
アイリスが部屋を見渡す。耳を澄ましてみるが誰かが歩くような音もしない。
「居ないみたい」
「そうか、おそらく風呂にでも行ったのだろう。宿屋からは出ていないはずだ」
「そうね、ありがとう。じゃあ、私は私で準備しないとね!」
そう言って窓から引っ込み、備え付けのクローゼットから服を取り出す。
リュックの中に入れたままだとしわになるので昨日のうちに取り出し、丁寧にしわを伸ばした後掛けておいた。
ギルバートは鞄の中に入れたままかな、と考えなぜだか自然に顔がほころぶ。
いつもはスカートだが、今日はジャングルに入るためズボンにした。
ゆったりとした造りの長ズボンで、非常に動きやすい。
外が暑そうなので上は袖の無いシャツ。腕はローブが完全に守ってくれるので気にしなくていい。
着替えた後は洗面台で顔を洗い、歯を磨き、鏡を見ながら髪を整える。
早起きしたので時間はたっぷりある。せっかくだからと、いつもより念入りに整えた。
持ち物も全て確認したし、もういつでも行ける。
用意している間に6時になった。そろそろいい時間だ。
後はギルバートを起こさないといけない。朝ごはんはギルバートが作っている。
任務で出かけた時のいつもの日常だが、これだけはアイリスを困らせていた。これでもかというほど起きない……。
戸を開けて廊下に出る、昨日のうちに借りていた鍵を使いギルバートの部屋に入った。自分で起きる気は無いらしい。
入ってすぐ布団が目に付く。
あまり乱れていないが、頭からすっぽりと入っている。目立つ銀の髪が少しも見えない。
心なしか、いつもよりふくらみが大きい気がして、布団の中は面白い格好かもしれないと、アイリスは思った。
「朝よ!ギルバート!」
少し大きめに声を出しながら布団の上からゆする。起きない。
いつもの事だ。この程度で起きたら、世界が滅びる。
ギルバートが起きるのは身の危険を感じた時だけ、と言う事もよく知っていたが、どうやればいいのか分からない。
「起きて!」
言いながら布団をめくる。
「ギルバー…………………………」
アイリスが絶句した。いつもの日常とは違う。
あまりにも違う。
ギルバートの隣に、女の子が眠っていた。
短くも綺麗な黒髪、端整な顔立ち。どこかで見た顔。
ナデシコだ。
「………バカ……」
小さくつぶやく。
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