第1章:壊された平穏
まっすぐな廊下。右には部屋がいくつも並んでいるが、左側は吹き抜けだ。
吹き抜けの向こうには、鏡かと思うほどそっくりな廊下。
そんな廊下を、銀髪でオッドアイの一際目を引く若者が歩いている。
そんなに目を引くにもかかわらず、誰も声をかけない。誰もいないからだ。
どうして誰もいないのか。
朝早いからだ。
そして、その目を引く若者ギルバートは、今日こそゆっくりと体を休めるつもりだった。
自主訓練の時間が、1週間ごとに45時間もノルマとして与えられるが、それも3日間とさっきの一時間で終わらせた。
あとは、部屋に戻り寝るだけだ。恋しい布団が待っている。
そして後4日間。急な任務以外は思う存分寝る事も、食べることも、遊ぶ事もできる。
ギルバートは部屋の戸を開け、中に入り、そのままベッドに倒れこんだ。
まだ冷え切っていない布団はとても温かく、きっと天国の雲よりふわふわだろうと思えるほどだ。
もう少しだからって張り切って早く起きすぎたな。ちょっと反省をしながらもぞもぞと布団にもぐリ込む。
動きが止まる。パジャマに着替えるのを忘れていた。
このまま眠りたいと思ったが、汗だらけで寝ても気持ちが悪い。仕方なくゆっくりと立ち上がった。
出してきたのは、水色の布地に青で何とも言えない面妖な模様が描かれたパジャマ。
今朝丁寧に袋詰めされ戸の前に落ちていた。
落し物ではないだろう、ちゃんと「ギルバート様へ」とパジャマの胸元に書いてある。
ちなみに一文字が手のひらサイズで、しかも赤で書いてあるため異様に目立つ。
直に布地に書いてあって簡単には取れない、さすがに恥ずかしく思い洗おうとしたのだがあきらめた。
どうも油性マジックのようなのだ。一度の洗濯では落ちないし、何度も着て自然に薄くなるのを待つのが得策だろう。
パジャマは部屋でしか着ないし、誰かに見られる事も無い。いつかは着るんだしな。
本当は寝ぼけながら脱ぎ散らかしたパジャマを探すのが面倒なだけだったが、そうやって無理やり自分を納得させた。
とりあえずは寝るのが先決。それに着替えて布団に入った。
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