「長老様。アイリスは!」
茂みの向こうから現れたのは、シリアじゃった。
「……もう間に合わぬ……見送る気じゃったのか?」
「こ、このわたしがわざわざ?そんな事あるわけ無いじゃない!」
……見送る気じゃったな。知っておるぞ、そなたは嘘をつくとき、丁寧語で話せんようになる。
「彼は元気そうでしたか……」
ギルバート殿モテモテじゃな………。シリアのこの姿を見せてやりたいわい!
下を向いて、耳まで赤くなったシリアなど何年ぶりじゃろうか?
「あの者が、寝込む事はまずないじゃろうな。寝込ませようとしてもおとなしくしとらん!」
「そうですか……ありがとうございました。もう戻ります」
それだけ言って……村の方向へ戻っていった。今は傷ついておるようじゃが、もともとがあの性格じゃ。
すぐに立ち直るじゃろうて……。今はそれより……わしの隣のこの者じゃな。
「長老様、僕はどうすればよかったのでしょう……
あそこで……明るく……答えた方が良かったのでしょうか……それとも……」
「今考えている事を、ありのまま伝えれば良かったか……じゃろ?
村を出る気じゃな……」
「……」
彼らしい………おそらくは……
「アイリスを犠牲にして手に入れた幸せに甘えても良いのか……そう思うのじゃな?」
「はい……。ただ、そうまでしてアイリスがくれた物を、簡単に捨ててしまうのも……」
それはそうじゃ。これだけの覚悟で、アイリスがくれた幸せじゃからな……。
粗末に扱うのは、失礼に当たる。その通りじゃ!
レグルスは、下を見たまま……もう少し、自分勝手でも良いではないか。
「今まで、多くのことに耐えてきたのじゃ。少し甘えても誰が文句を言おうものか。
気の済むまでゆっくりして、それから考えればよいじゃろう」
彼の事じゃ、こう言ってもあれこれと考えるはずじゃ。3年以内にアイリスの許へ行くじゃろう。
レグルスが、苦しむ道を選ばねばならぬ理由がどこにある。
好意は素直に受けても良いから、好意なのじゃ。素直に受け取るのも良いじゃろう。
「ありがとうございます。でも、本当に良いのでしょうか……」
「わしには、駄目な理由が思い浮かばん。やりたい様にやればよい」
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