言われるままに、着いて行った。そうせざるを得ない……。
花畑で何をする気だ?採って食われそうな気がする……。
まさか、花は俺への手向け!やばい!つじつまが合った!
後ろを向いた。食われてたまるか!
「……レグルス」
「はい……」
今の俺は……まな板の上の鯉だな。
駄目だと解っていても、アイリスの顔が浮かぶと逃げられない……。好きにしろ!
「着いたわ。中央に立ちなさい!」
命令かよ……。
きっと中央には魔方陣がある。俺はきっとカレーにでも変えられる……。せめてフォアグラぐらいには……。
「そこから絶対動くんじゃないわよ!今から私が何言ってもよ!」
ああ解ってるって、どうせ一度死ぬはずだったんだ。これもアイリスを守るためか……
……せめてキャビアに……トリュフでもいい!
シリアが大きく息を吸った。呪文まで使うのか……、こりゃ本気で世界三大珍味に……
「わ………わたしの……」
そんな始まり方の呪文あったか?大体呪文の一人称は「我」だ。
「わたしの家に住んでいいから、この村にとどまって!」
……………………は?……
顔を真っ赤にしてそう言われてもな……
「それはどういう……」
「だから!わたしと暮らしてって言ってるのよ!ナメクジ男!」
「誰がナメクジだ!いきなり意味分からないことまくし立てやがって!」
とりあえず食われなかったとしても、いきなりナメクジ呼ばわりだ。一体何が言いたい!?
「純情な乙女にこれ以上言わせる気!気が利かない男ね!!やっぱりナメクジ並みに鈍いわ!」
怒鳴りだす。怒ってんのか?これぐらいで?
「鈍いのは自分でも解ってるっての!要するになんなんだ!?」
アイリスの楽しい風呂覗きを捨てて来てるってのに、いきなり訳解らない事言いやがって!
大体なんで顔が真っ赤なんだ。気合入れるぐらいなら、もっと解りやすく説明しろ!
「……好きだって言ってんの!悪い!?」
どこでどうしたらそうなる……。
「どうしてだ?会うことすらほとんどなかっただろ?」
「死にかけてでもわたしを庇ってくれたからよ!まさか断る気じゃないわよね?
アイリスさえ居なければ、私が村一番の美少女。私だって十分きれいよ!」
俺の答えは決まってる……。こういう時は、はっきり言った方がショックも少ないだろう。
「断る!俺はアイリスが好きなんだ!」
「何でよ!?顔は負けてるけど、胸なら勝ってるわよ!」
改めて見ると……確かにでかい。
どう考えても俺と同年代のはず、このでかさは反則だ。F?
しかもスタイルがいいから、不自然さがない……。理想的な、ボン、キュッ、ボン!
「あんな洗濯板に負けるはずないわよ……さあ言って!どっちがいい!」
背をそらして胸を強調してきた。正直なところ、この胸は捨てがたい……。
とはいえ、胸と比べるのがアイリスなら……結果は見えている。
「アイリスだ!」
驚きの表情を浮かべ、シリアがしゃがみこんだ。
顔を両手で隠し、肩が細かく動いている……。
「もういいわ!絶対後から後悔するに決まってるんだから!」
「しない!」
シリアがさらに泣き出す……。はっきり言った方がいい……はずだよな……。
「何よあの女!このわたしより顔がいいうえに、強いドラゴンを召喚して!
私だってあれだけ顔と力があったら、あなたを振り向かせられたのに……」
それはまずない。俺がアイリスを選んだのは顔でなければ、まして力でもない。
もちろん、アイリスの力が要らないかといえばそうじゃない。
顔も完全に俺好み。それでも一番大事なのは……あの優しさだ。
シリアには……いや、ほとんどの女性にあれほどの優しさはない。
それに、アイリスにも欠点はある。自分ひとりですべてを背負い込もうとするし……胸が無い!
アイリスが完璧だから、選んだわけじゃない!あの優しさだけで十分だ!
シリアが急に立ち上がり、俺にびしっと指を突きつけた!
「絶対仕返ししてやるんだから……覚悟してなさいよ!」
目に涙を溜めながら、それでも強く言い切った。
「……悪いけど俺、明日この村を出るぞ。しかも朝早く……」
「そうよね……アイリスと一緒に行くのよね……」
さっきの強気はどこへやら……ため息をついて下を見る……。
「双眼鏡……」
まずい……!見られた!
「……あなたが走ろうとしてた方向って……露天風呂が……。
良かったわ、あなたに振られてて。仕返しもできるみたい!ランド!出てきなさい!」
『了解』
土が盛り上がり、人一人が乗るほどのドラゴン………。
ドラゴンなんだよな……茶色で甲羅があって頭が甲羅に引っ込んでる姿でも。
鱗がある亀はいない……。地面と甲羅は離れてるしな。
ところでふられたショックはどこへ行ったんだ?
「約束覚えてる?アイリスとレグルスに手を出すなって……。
それに加えて、優しいわたしが、二人を守ってあ・げ・る!
約束したからには、アイリスを変質者の魔の手から助けないと。あなたもそうして欲しいでしょ?」
変質者ってのは俺か?
「代金は前払いで、あなたの悲鳴。お礼はいらないし、渡す事もできない体になるわよ……」
俺をにらむな、鏡をにらめ!ホラー映画にでも出てきそうだ……。お化けじゃなくて殺人鬼の方。
心を殺したレグルスでも比べ物にならない、元の性格が悪いからな……。本気で殺される?
「そうだ、逃げてもいいわよ。
どうせ追いついて叩きのめしちゃうし、今度はレグルスの事をばらすなんて野暮な事しないから」
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