「ヴァイスドラゴンを召喚し従えし者、すなわち闇を従えし者なり。
その男、闇の王となる者なり。
これがすべてじゃ。この伝説が本当なら、レグルスは闇の王ということになる。
ただし、レグルスを見ている限りここで言う闇とは属性を表す物ではないかと思えてならん」
もし属性を表すだけなら、大した事じゃない。属性はただ力の方向を決めるだけの物だ。
闇属性は、攻撃に特化した魔法や影を使う魔法で、詠唱が短い。ただそれだけの事だ。
「それでも、闇とは悪しき者を表す言葉としても受け取れる……。
ギルバート殿、わしがそなたをレグルスの家に泊めなかったのは、この心配があったからじゃ。
どの刺激が、レグルスを悪の道に走らせるか分からんからの……」
これだけ状況が合う伝説と、それから読み取れる問題点。
回避しようとするなら、できるだけ刺激を与えず普通の暮らしをするべき……というのが普通の考え。
長老も、そう考えたのだろう。ただし、
俺達がそう考えるとは限らない。
「ウロボス様!本当にそう思うのですか!?」
アイリスの声が響く……。悲痛な叫びだ。
「今までレグルスは、ずっと耐えてきました……。
この度の事件だって、私の事を考えてくれていました。自分のためだけにやった事ではありません!
それでもまだ、彼が信じるに値しないと……本当にそうお思いですか!?」
アイリスのいう通りだ。もしレグルスが悪い意味での闇の王なら、とうに村を滅ぼしていたはずだ。
今回、村を滅ぼそうとはしたが、原因は何だ……。アイリスの幸せだったはずだ……
悪しき者……そんな、身勝手な奴じゃない……。
「……わしは、この村の長老じゃ……。常に最悪の場合を考えねばならん……。
わしはずっとレグルスを陰から見守っておった。
ギルバート殿、そなたを助ける事ができたのも、崖下から監視していたからじゃ」
長老の声は沈んでいた……。
「わしはレグルスが、悪しき者だとは思えん……。彼にわしの命を任せても良いと思える」
「だったらどうして、そんな心配をするんです!信頼しているなら、監視も俺を離す必要もないはずでは!?」
「言ったであろう……わしは長老、常に最悪の事態に備えねばならん。
わし一人の判断で……、村人全員を危険にさらすわけにはゆかんのじゃ」
ようやく気づいた……。長老は、レグルスを心から信じている。
監視や余計な心配は全部、長老である以上仕方なかった……。
気になって後ろを見た。アイリスはもう泣いていなかった。
最初と同じで、真剣な眼で長老を見ている。
「わしがそなた達にこれを話したのは、
万に一つの確立でレグルスが暴走した時、ヴリトラを止められるのがフィソラしかおらぬからじゃ。
何かあった時には、頼んだぞ」
「わかりました、私とフィソラに任せてください」
力強く返事をするアイリス。覚悟がうかがえる。
ただし、大事な事を忘れてないか?
「なあアイリス。村を出るのに、どうやってレグルスの状態を知るんだ?」
何か考えているんだろうけど……。俺の頭じゃさっぱりだ。
「………………どうしたらいいの?」
笑顔で聞き返すな!分かるわけないだろ!
「アイリス。悪いけど、俺の頭じゃ無理だ。自分で考えてくれ」
アイリスが下から俺を覗き込む。一番かわいく見える角度、その角度で目をキラキラさせ俺に近づく。
そんな目をしても無理だって!そもそも俺が聞いた質問だろ!?
「長老。何かないんですか?」
「今は気にせんでも良い。3年以内にわかるじゃろうて!」
「なんだそりゃ?」
「わかりました」
それでいいのかよ!
まあ……本人が納得しているなら、俺がどうこう言っても仕方ないか。
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