「ギルバート!寝てたんじゃないの!?」

アイリスが俺を見る。寝ててたまるか。

「大事な話なんだ、聞かないわけにいかないだろ?」

そう言って長老に向き直った。

「今からの話には俺も加わります。それから、さっきまでは何を話していたんですか?」

「今からの話は、わしとしても聞いてもらいたい。それからさっきまでは、アイリスのこい……」

長老の声が急に止まった。後ろから妙な気を感じる……。

「……アイリスに、鯉の飼い方を教えておったのじゃ。他の事は、アイリス自身に訊くとよい」

鯉?それが重大な話なのか?まあいいか、俺が聞くべき話には、間に合ったようだしな!

「これから話すのは、ヴァイスドラゴンとその主人についての、古くからの予言じゃ」

ヴァイスドラゴン、つまりはヴリトラ。その主人ってのはレグルスの事で間違いないな。

「ヴァイスドラゴンなる暗黒竜。人を食らい、世を暗黒へと導く存在なり。

その竜を召喚せし者、その体に取り込まれその生涯を終えん。

きわめて冷酷にして、凶暴。強きドラゴンの1つなり

これが、ヴリトラの本来の姿じゃ……おかしいとは思わんか?」

どこから否定すればいいんだ?あえて言うなら、すべておかしい!

どこからそんなことになる。俺たちに、そんな姿を少しでも見せたか?

最初であった時、俺はヴリトラの頭をなでた。たぶんあれはお辞儀だ。

今回の悪事も、レグルスに従っただけのはずだ。そうでなければ、なぜレグルスが倒れた時点で降参したんだ。

さっきもだ。人を食うならさっきの集会でなぜ人を襲わなかった。老若男女、人で言うならフルコースだ。

目の前にフルーツの盛り合わせがあったとする。俺なら間違いなく、桃に飛びつく!

極め付けに、レグルスは生きている。主人を取り込んでいない。むしろ従っていると言った方が正しい!

「ヴリトラがそんな風に見えるんですか?……ウロボス様……あなたも村の人達と……同じように……。

ヴリトラを信じられないのですか……」

後ろを見ると、アイリスが泣いていた。うつむいたまま、涙が床に落ちていく。

彼女にとってヴリトラは、数少ない信頼出来る存在……。それが今、否定された。

それも、もう一人の信頼していた人物に……。泣いても当然だ……。

「どうか泣かんでくれアイリス。わしはヴリトラを信じておるし、村人のした事は許される事ではないと思っておる。

ヴリトラが何か1つでも、自分のために行動した事があったじゃろうか……。無かったはずじゃ。

とにかく今は、予言の続きを話したほうがよい。次に出てくるヴァイスドラゴンは……ヴリトラそのものじゃ」

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