村に入ると、何人かの村人がこちらを見た。
誰も近づこうとはしない。怖れているのもあるだろうが、アイリスが捕まっているおかげだろう。
長老に聞いた話だと、俺が行く前には石をぶつけられていたみたいだしな……。
「わしの家で待っておれ。すぐに村人を集める」
そう言われて、長老の家に入った。
「なあアイリス。このあと俺はどうすればいいんだ?
何かすることがあれば言ってくれよ!」
この後の事を何も聞いていない。打ち合わせはしておいた方がいい。
「……ただ長老の話を聞いてて、何が起こっても。頼むわよ」
静かに、それでも強い口調。笑顔も無い……。まるで何か、思いつめたような……。
「なあ、本当に俺と一緒に来る事を言うだけなのか?」
アイリスがぴくりと動く。平然を保とうとしても無駄だ、分かり易すぎる。
「………そろそろ、教えてくれてもいいだろ?」
いくら俺でも、さすがに気づく。隠すなら、もっとうまく隠せよ。
まず間違いなく、アイリスは何らかの理由で不幸になる。長老はそれが分かっているからこそ、声が重くなった。
確実に不幸になる作戦。
とんでもない作戦を考え付いたもんだ……。もう少し自分を大事にしろ!
「………なんでもないわよ、大した事じゃないわ……」
それなら、ますます話してくれてもいいはずだ。
これも嘘だな。
「アイリス、さっさと……」
「無理ですね……」
黙っていたレグルスが声をかけてきた。
「今のアイリスは絶対話してくれません。こうみえてかなり頑固だから……。
……ねえアイリス。僕はこれからやる事が何なのか、想像がついてる……。
いつもなら確実に止める……。
でも僕は君に負けたんだ……。君の意見は、聞く必要がある。そうしないと、フェアじゃないよね……」
確かにそうだ。レグルスはあの戦いに勝ったら、革命を起こした。
ならアイリスだって、勝った時には何か事を起こしてもいいはず。
あれは、自分の思いを通すための戦いなのだから。
「でも……もし君がいいなら、僕はもう一度事を起こしてもいい。
あの方法なら、君も僕も幸せに……」
「それは絶対駄目!」
言い終える前に、強い口調でアイリスが否定した。
「やっぱりそうだよね……。ごめん」
「いいのよ……私を心配してくれたんでしょ?ありがとう。
聞いてたとおりよギルバート。私は絶対話さないし、止まる気も無いわ!」
強い口調。決心は固そうだ。
レグルスが止めても、止まらなかった……。俺が止めても無駄だろう。
どうしても止めるなら、レグルスのように力づくという事だ。
まずそれはない。俺がアイリスに剣を向けるなんてまずない。
任せるしかないな……。どうなっても、守ってやる、それが俺のやるべき事だ。
「分かった。頑張れよ」
小屋の戸が開いた。
「用意できた。外の台の上で話すと良い……ギルバート殿、後のことはよろしく頼みますじゃ」
「もちろんです」
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