「暗き闇よ その者我に仇なす者なり 光を奪い闇へと誘え ダークネスクローズ」

光を吸収するほどの闇。それが一筋の布のような形で私に迫る。

確かあれは目潰しの呪文。でも、今の私なら!

今の私にはクイックウインドがかかっている。避けたフリをして、レグルスの後ろに回った。

こんな簡単に後ろを取れるなんて、……とにかく今がチャンス!

何度も同じ手は通じない。これで決めないと。

「これで、終わりよ!」

右手に持った楯を振り下ろした。

野を吹く一陣の風 我が眼前に立つ者を捕らえよ ウインドチェーン

振り向く事も無く、レグルスが本を持っている方の手を、私に向けた。

私の体を何かが絡めとる。動けない!何も見えないのに!

「これで終わりだね」

レグルスが私に向き直る。フィソラの助けも期待できない、私の力じゃ、どうしようもない。

「さっきのは、単純すぎだったよ。いくら速くても、どうするかわかっていれば簡単に動ける」

あれしか手がなかったのよ………。

「だからこそ僕は動かなかった。捕縛魔法を確実にかけるためにね

風の捕縛魔法は、見えないのが特徴……。実戦経験が無いと、どこに風の鎖があるかわからない。

君には解けないよ」

解ってるわ。でもここで負けるわけには行かないのよ!何とか……

『アイリス。大丈夫か!?』

「フィソラ!何とかなる?」

もしかして勝った!それなら今からでも!

『すまない。助けにいけそうに無い。今ここで離れれば、ヴリトラがそちらへ向かう』

ここで眠らされでもしたら………

もう少し、もう少しの間だけ、お願い。きっとフィソラは勝って助けに来てくれる!

「そろそろ。終わりにしよう」

駄目!私はあなたを止めないといけないのに………。

今更、言葉で止まってくれるとは思えない。私は結局、彼を止められないの………?

涙が落ちた。気がついたら、いなくなったギルバートのことを考えていた。

私を守ってくれたもう一人の人。

もう彼はいない……私を助けてはくれない………。

誰も、今の私を助けられない……。

レグルスを止める事も出来ず、ここで眠っているなんて……。お願い……幽霊でいいから、……私を守って………

癒しをつかさどりし水よ……

眠りの呪文、これを受けたら………すべてが終わっちゃう!

いつまでも待ってるって言ったじゃない………、嘘だったの……。

かの者に安らぎの時を……

全部嘘だったの!?私を守ってくれるんじゃなかったの!?私じゃなくてシリアをかばって死んだじゃない!

違うなら……今すぐ、生き返ってよ……。私を守ってよ……。

与えたまへ スリープ

「ギルバートの嘘つきーーーー!」


「誰が嘘つきだって?」

「え?」

洞窟の入り口からの声は……間違いない。

レグルスも、呪文の詠唱をやめて見ていた。

フィソラも、ヴリトラも、戦いが止まっていた。

あの日の、そのままの姿で、ギルバートがそこにいた。

「アイリス!約束どおり守りに来たぜ!」

涙が、止まらなかった…………。

本当に……来てくれた。

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