風呂はかなり気持ちよかった。

岩で囲まれた天然温泉、加えて屋根もない露天風呂。

壁も、男湯と女湯を隔てる岩一枚。脱衣所は小さな個室。ほとんど景色をさえぎる物はなかった。

後ろを振り向けば、一面の森と、その先の崖。前を見れば、草原にたたずむいくつかの小屋。

この温泉を設計した人は、入る人の気持ちがよく分かっている。

いい景色を楽しみながら入る、露天風呂の基本がしっかりしていた。

風呂を満喫したあと、俺は大騒ぎになっていたところに向かった。予想通りだ。

ちょうど皆が帰りだした頃で、野次馬もほとんどがいなくなっていた。

「あら、犯人が現場に戻ってくるってのは、本当なのね」

声に振り向くと、昨日の三人の一人。黒髪の女がいた。

「犯人ってどういうことだ!何があったんだ?」

「知らないふりしても無駄よ。イドロットを襲ったのはアイリスに決まっているわ!

もう少しうまくやったらどう?ま・さ・か、昨日の喧嘩だけであんな大怪我させるなんて、やっぱり悪魔ね」

笑う。イドロットが襲われたなら、仲間が襲われたって事じゃないのか?

「よくそんな平然と笑っていられるな。イドロットは仲間じゃねえのか?」

「あんなの一度だって、仲間だなんて思ったことないわ。あなた達を追い出すって目的が同じだっただけよ」

そうか、やっぱり思ったとおり。こいつらの性格は最悪だ!

「俺達じゃない!そんな事言ってる暇があったら、さっさと自分の身を守れよ」

「ご忠告、どうもありがとうございます。お礼にいい事教えてあげるわ。悪魔の使いさん!」

ムカつく言い方だ。丁寧語って……言い方でここまで悪く聞こえるのか。

「ほとんどの村人はあの悪魔がやったと思っているわ、エンシェントドラゴンの足跡が見つかってるもの。当然よね!

それにレグルス、化け物でいいわね。化け物は昨日家が燃えて行方不明。

そんな人が、人を襲う暇はないわよね。いまごろ、住むところが見つからず、野たれ死んでいるかもね!

だから、事実に関係なく、次に同じ事件があったら……

あなた達……村を追い出されちゃうわよ。さっさと誰か襲われないかしらね〜

わたしがあなた達に成りすまして、気に食わない人襲っちゃおうかしら!

それともう1つ教えてあげるわ!フフフ、わたしって自分で惚れ惚れするほど優しいわ!」

「結構だ!もう言いたい事は言っただろ!帰れ!」

怒鳴った後、そのまま背を向けて帰ろうとした………。

「化け物の家を燃やしたのは、わたし達なの。綺麗だったわ!崩れていく彼の家」
女とはいえ、胸倉を掴んで殴り飛ばしたい衝動に駆られた。

こいつの挑発だ。ここで殴ったらこいつの思う壺だ。

乱暴者と思われれば、俺達がやったという噂が真実味を帯びる。

「よく覚えておく!さっさと帰れ!これ以上何かやってみろ。俺はレグルスほど優しくない……」

それだけ言って、家まで帰った。

アイリスは、確かに夜遅く外出していた。フィソラは、どこに行っていたのか知らない。

もちろん二人を疑う気はない。他の誰かだ……………レグルスも違うと信じたい。

だが、彼女の言うとおり村人はそうは思わないだろう……

これで何か証拠でも出れば……、アイリスとフィソラが見られていれば……

村人は、確実に俺達を追い出しにかかる………

そんな事を考えながら………玄関の戸を開けた。

次へ