「フィソラ。食べ終わった?」

ステーキを食べ終え、ケーキを運んできたアイリスが、外に呼びかけた。

『食べ終わったのだが、……すまない。もうおなかがいっぱいだ。

二人で食べてくれないか?』

「何言ってるのよ!今日ぐらいケーキ食べてよ。少しだったら入るでしょ!」

『すまない』

外から大きな物が風を切る音。フィソラが飛んだのだろう。

「フィソラはおなかがいっぱいで食べないそうよ!いつもの事だけど、今日ぐらい食べて欲しいわ!」

少し怒った様子でアイリスがそう言った。

「仕方ないって。ケーキが嫌いなんじゃないか?」

「でも昔は食べてくれたのよ。仲良くなろうと最初の頃は頻繁に作っていたから……

そういえば、念話を覚えてから一度も食べてくれないわね………」

残念そうだ……。

「とにかく食おう。食べたい奴が食べればいいじゃないか」

「そうね。今はそれでもいいわ」

今って……後々食べさせる気なのか……

フォークを持ち目の前のショートケーキを眺める。

見た目は美味しそうなショートケーキ。甘そうなにおいもする。

フォークを刺してみるが、スポンジもふわふわだ!

料理も上手なのか。完璧な女の子だな!

一口目を口に入れた。

「んっ……………」

何だこれ!?何を入れたんだ?

「ねえ、おいしい?」

アイリスが俺に尋ねるが、どう答えればいいんだ?

クリームは生魚!スポンジは納豆の味……。二つの奏でる不協和音………。

「……おいしいよ。ところで何で作ったんだ?」

何とか耐えたが、これだけは訊かないといけない。妙な物が入ってる可能性もある。

「普通の小麦粉と苺。それと搾りたての牛乳よ。美味しく出来てて良かったわ!」

そんなはずないだろ!と突っ込みを入れたくなるが、満面の笑みで喜んでいる………無理だ!

「ところであとどれぐらいあるんだ?まだまだあるのか?」

頼むから違うと言ってくれ!

「フィソラの分も作ってたから、まだまだあるわ!どんどん食べてね!手始めにこれ食べて!」

そういって差し出すのは、手付かずのアイリスのケーキ!なぜそうなる!

「自分の分は食べろよ!せっかく作ったんだしさ!」

「私はいいの。喜んでくれる人に食べてもらうのが一番よ!

食べて!」

満面の笑み。天使の微笑みが小悪魔に見える………。

ああそうか、フィソラがどこかに行ったのは………。念話が使えるようになってから食べないのは………。

すべて理解した。

そりゃそうだよな、言葉が伝えられれば断る。断りきれなければ逃げる。

満面の笑みで、アイリスが席を立ち向こうの部屋に向かう。レグルスがお茶を淹れに言った部屋、キッチンだ。

そういや……レグルスがお茶を自分で淹れたのも…………………あり得るな。

すぐにドラゴンが食べるサイズ、ウエディングケーキのような大きさの物を持ってくるだろう。

そして、すべて俺に譲ってくれるんだろう………。

誰か!俺を助けてーー!

あとでレグルスに聞いたのだが、鹿肉はうまいらしい。なぜだかアイリスが作ると妙な味になるそうだ。

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