『アイリス!村はどうだった?少しはマシになっていたか?』
「全く変わってないわ!相変わらず感じ悪い所!」
怒ったようにアイリスが言った。念話は、俺には分からない。だが、アイリスは普通に言葉で話している。
村のことを話しているのだろうな……。俺だって出来る事なら、二度と出かけたくない!
そういえば、フィソラの全身を見るのは初めてだ!
高さは3m位、大きな翼もある。
鱗に覆われた体。背中には背びれ。眼は青い。ここまでなら普通のドラゴンだ。
かわいい顔、その額には、色のちがう5つの水晶が付いている。
額に水晶が付いたドラゴンを見るのは、初めてだ!
「なあ、アイリス。この水晶はなんだ?」
「私にもよく分からないの。エンシェントドラゴンの特徴らしいんだけど……
フィソラ自身も分からないそうよ……」
「レグルスはどうだ?知らないか?」
彼は、読書家。だったら、こういう事には詳しいはずだ
「僕も分かりません。ただ、対になるヴァイスドラゴンにさえ、水晶は付いてないんです」
そうなのか、そういえば、ヴァイスドラゴンのヴリトラってどんな奴だ?召喚が使えるって言ってたな……。
「なあ、レグルス。ヴリトラも紹介してくれないか?」
「いいですよ!二人とも少し離れててください」
俺とアイリスが離れると、持っている本を、前に突き出した。
「ヴリトラ!」
本が光ると、目の前に黒い玉が出現する。徐々に色が薄くなり、消えた後にはフィソラにそっくりなドラゴンがいた。
姿はほぼ同じ。ただし額に水晶は無く、黒い体、眼は紅かった。
『念話が聞こえないことが残念でならない……。始めましてギルバート殿。ヴリトラと申します』
ヴリトラは俺に近づくと頭を下げた……。その動きはゆっくりで丁寧だった。
「よろしくな、ヴリトラ」
自然に手が伸びた。ドラゴンの頭をなでる。俺への警戒心も無いようだ。
ヴリトラが首を持ち上げ、フィソラを見た。
『久しいな、フィソラ……。村には来ぬのか?』
『アイリスは、争いを嫌っているからな……。村人を刺激するわけにはいかない』
『そうか……、強き力を持ちながら、なぜ我々は隠れねばならぬのだろうな…………』
『隠れるのは、強い力を持つからこそだ。……仕方ない……』
『………』
『ところでアイリス。ギルバートさんは、今後どうする事になった?』
「私達の家に泊まるわよ。家族が増えてにぎやかになるわ!」
アイリスが微笑んで言った。1人と2匹の動きが止まる……
なかでもレグルスは、俺を指差したまま、固まっている。
『すまないがアイリス、もう一度言ってくれないか?聞き間違えたようだ』
「ギルバートが私の家に泊まることになったの。これから毎日楽しくなるわ!」
ほんの少しの静寂。そして妙な空気。再び固まった……。
「この人、家に泊めるの!?本気かいアイリス!」
『長老様は何を考えておられるのだ!見知らぬ男を、女の家に泊めるなど……』
『その通りだ!アイリス、今からでも遅くない。断って来たらどうだ!』
ほら見たか。これが当然の反応だ。長老がどうかしている。
「大丈夫よ。フィソラが守ってくれるでしょ?」
『それはそうだが……しかし………』
「大丈夫よ、フィソラ!ドラゴンに勝てる人なんてそうはいないわ!」
ドラゴンに守ってもらうって、この場合ボコボコにって事だよな……。何気に過激だな、アイリス。
ふと見ると、レグルスはあいた口がふさがっていなかった。ショックだろうな………
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