アイリスの家に向かう森の中、俺は話す気になれなかった。
あれほど手痛い歓迎は初めてだ……。ましてや俺の恩人と、その友人へも……。
アイリスとレグルスは、平気なようだ……。いや、そんな訳ないか……、そう装っているのだろう。
さっきのアイリスの泣きそうな顔、レグルスの悔しそうな顔……。平気だとは思えない。
「どうかしたんですか?」
ふっと気が付いて顔を上げると、二人が俺を見ていた。
「ちょっと考え事をしててな。気にしなくて大丈夫だ!」
「ねぇギルバート。無理しないでね……あれだけの悪口。聞いてるだけで嫌になるでしょ?」
アイリスの言うとおりだ、だが二人とも確実に俺より辛い目にあっている……。
それに、しばらくはここで暮らすのだ。長老に話を聞いてから俺は心に決めていた。俺がアイリスを守る!
助けてもらった恩ではない。頼まれたからでもない。一目惚れだった………
たとえ、アイリスがパートナーでなくても、惚れた女性を守らず何が男か!
あの悪口としばらく付き合っていくのだ。こんなところで根を上げてどうする!
「ほんとに大丈夫だって!それよりまだ着かないのか?」
「そろそろ着くわ。二人ともゆっくりしていってね!」
アイリスが笑顔で返す。
「そういえば、アイリス。俺に丁寧語を使わないのか?」
いつの間にかアイリスが俺と普通に話している。
ギルバートのあとに「さん」もつけていない。俺もこの方がいいけど、急にどうしたんだ?
「私達のために村の人に怒ってくれたもの!信用していいわよね?」
そんな事で、俺を信用していいのか?俺が悪い奴だったらどうすんだ!
「僕たちを助けてくれる人なんて、村には居ないから……。味方が増えて嬉しいんですよ」
レグルスが、小声で説明してくれた。そうか……俺もそんな風に見てもらえるようになったか。
「これからよろしく、ギルバートさん」
動きを止め、レグルスが笑って手を差し出す。その手を握り、こう返した。
「ああ、こちらこそ、よろしくな!」
そう言ってまた歩き出す。大勢の村人に嫌われたが、今日はいい日だ。大切な仲間が、二人も出来た。
数本の木を通り過ぎると、アイリスの家にようやく着いた。家の前にはフィソラが立っていた。
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