20体のゴーレムを15分で倒し、素早く、静かにゆっくりと走る。

目の前に、アイリスの結界魔法エリアディフェンションの壁。温泉を中心に一定範囲を包んでいる。

「さすが、アイリス。良く分かってるぜ。俺が来るのも予想済みか。まあ、前にもあったしな」

前は、アイリスとフィソラの故郷。風呂に着く前に、不審者と間違われ、村人に魔法で攻撃された。

だが、今ここに村人はいない。今度は失敗しない。

「ウオリャー!」
ばれないように、小さな声で気合をいれ剣を振り下ろす。

気持ち良い音と共に、バリアーが破れる。

今の俺は誰にも止められない。もう少しで、温泉だ。あんなもの食わされたんだ、見ても罰は当たらない!

そしてまた進む。木々で見えないが、温泉まであと少し。

あと…………5メートル………4メートル………3メートル……2メートル…1メートル!!

あの太い邪魔な木の向こうは温泉!俺はその木へと迫る。

そのとき、突然横から何かが飛び出す。

フィソラであった。

10分前

「フィソラ、ギルバートが来たらボコボコにしといてね!」

『アイリス、そこまでしなくてもいいんじゃないか?』

温泉の近くまで来た時、アイリスはフィソラに語りかけた。

「だめよ!もし来たら死なない程度に、ぶっ潰して!」

『人間とは、どうしてそんなに裸を見せるのを嫌うのだ?我らなど、常に裸なのだがな』

ドラゴンも、グリフォンも服を着ない。だが、人間は服を着るように進化した。他の生き物には分かるまい。

「とにかく、痛い目に合わせてやって!エリアディフェンションをかけておくから、それが破られたら連絡するわ」

『来ないで欲しいものだな……。仲間を傷つけるのは、楽ではない……』

「残念だけど、必ず来るわ。気持ちは分かるけど、頼むわよ!」

そういうとアイリスは、温泉へと向った。

そして今、アイリスの予想通り…。

『すまないなギルバート。アイリス曰く、死なない程度にぶっ潰せ、だそうだ。加減はするが、生きろ!』

その恐ろしい声も、俺の耳には届かない。

「フィソラ、見逃してくれないか?もう少しなんだ!頼むよ!」

フィソラが足を持ち上げる。影が俺の上に落ちる。

「何すんだ!仲間に攻撃するのか!この鬼!」

この声でアイリスが気づく

「やっぱり来たのねギルバート。絶対来ると思ったわ!どうする、今戻れば何もなかったことにしてしてあげる!」

姿は見えないが、温泉に浸かったまま、話しているのだろう。やっぱりその木の向こうか!

「冗談じゃない!こんな事で引き返せるか!一目見るまで戻らない!」

「そう、せっかく歩み寄ってあげたのに。フィソラ、やっちゃって」

『そういうわけでな、守るのが私の役目、もちろん入浴中もな!』

フィソラが迫る。だが、今の俺は無敵。ドラゴンとはいえ、無属性のフィソラに負けはしない。

俺は剣に鞘をつけたまま振り下ろす。俺の剣で斬ったら本当に死んでしまう。

フィソラも爪で受け止める。そのまま、力比べをする俺達だったが

そこには思わぬ副兵が、

「本当にこんな男っているのね……煩悩の塊」

振り向くと、そこにはリーリアがいた。頬が桃色に染まり髪が濡れている。風呂から上がりたてのようだ。

「……もう上がってたの?」

「そのまま抑えててね!」

俺の言葉を無視し、無情にも呪文を詠唱する。

熱く燃える火炎よ、燃え盛りて敵を討て “ファイアボール”

リーリアの体の周りに、8つの火の玉が浮かび、次の瞬間俺へと迫る。

俺の体が火に包まれたのは言うまでもない。

…………

アルタイルによると、フィソラが俺を連れてきたらしい。急いで治療し、事なきを得たという。

その後、アイリスから罵声を浴びせられたが、…武士の情けだ聞かないでくれ……。

「何考えてんのよ!バカ、マヌケ、ヘンタイ、色魔、エロガッパ」

「美人の入浴は見なきゃ失礼な気がして……すまん。許して…」

「ふざけんじゃないわよ!明日まで引っ張る気はないけど、今日は言いたいこと言わせてもらうわよ!」

「頼む勘弁してくれ!お前がそういうときには、ほんとに加減なしで何でも言うんだから……」

「当然の報いよ!当然手も出るわよ!」

俺は何をされても、アイリスに手を出す気にはなれない。今日は好きなようにされるのだろう……。

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