それからアイリスは、リーリアを誘い、すぐに料理を作り出した。

俺達のいる方向に背を向けているから、何をしているかは分からない。

だが、わざわざ見に行く必要は無いだろう!きっと美味しく作ってくれている。リーリアが一緒だし!

日が沈み、辺りが暗くなってきた頃、

「ギルバート、アルタイルさん。自信作ができたわよ!」

アイリスの声だ。とても明るい、やっぱりいいのが出来たのか!

意気揚々と走る。

食事場は、崖の中央に作っておいた。座りやすい石を4つ並べ、フィソラのために地面をならしただけだが……

行ってみると、もう全員、石についていた。フィソラも、いつでもいい、といった感じだ

「早く食べましょうよ。それとも私達の料理は食べられないってこと!」

リーリアが、そんなことを言うが、ありえない。俺はこの時間を楽しみにしてたのだ。

「そんなはず無いだろ!むしろ楽しみで仕方ないさ」

そういって席に着く。リーリアが料理を持ってきた。

見た目はいかにも美味しそうなカレーだ。唯一違うのは、具がやたらでかい。

「あれ、アイリスとリーリアは食べないのか?」

俺とアルタイル、そしてフィソラの分しか運ばれていない。

「私達は、温泉に入ってから食べるわ!その頃には味が染みてもっと美味しいわよ!」

「そうか、じゃあ先に食ってるよ」

『「「いただきます!!」」』

いっせいに一口めを、くちに運ぶ。具はでかいが、噛み応えがあって美味しいだろう。俺も口に入れる。

『「「………………」」』

フィソラの額にしわがより、アルタイルの顔が青くなる。俺も……きっとそんな感じだ。

「ギルバートさん、これ、アイリスさんが手伝ったんですよね……」

アルタイルが青い顔で苦しそうに話す。まるで毒入りを食ったかのようだ。

いや、その通りかもしれない。

「こちらこそ…、リーリアが手伝ったんだよな」

俺達は互いに察した。

二人とも死ぬほど料理が下手だったのだ

「みんな、どうしたの?」

俺達の様子に気づいたアイリスが声をかける。

『アイリス……何を入れた?』

「えっと…ニンジン、ジャガイモ、納豆、飴、ガム、キムチ、スイカ、あとは隠し味に、卵。普通よね?」

フィソラが何を聞いたのか、なんとなく分かった。皿を探ると丸く硬いもの、割っていない……。

『悪いが、持ってきた非常食を食べよう。明日に差し支える』

「何よそれ!不味いって言うのー!?」

『…もはや、この世のものではない……。すまない、私としてもこのようなことは言いたくないのだが…』

「あっそう!ねえ、二人は食べてくれるんでしょ!」

アイリスは、あのキラキラした、子犬のような目でみつめる。そしてリーリアは、俺達をにらんでいる。

「ああ、美味しいさ。なあ、アルタイル」

断れば食べなくて良かったのだろう。だが…、それでも…、アイリスのあの目を裏切れない!

それに、アルタイルも断れないだろう…。あわれだが、二人なら一人当たりの量も減る。

「すいません。ごちそうさま……」

おい、俺を置いてくな。この流れは……!

アイリスとリーリアが迫る。手には鍋いっぱいのカレーとご飯。顔には笑みをたたえている。

「あなたは食べてくれるのよね!気にせずどんどん食べてちょうだい!私達の分は気にしないで、非常食を食べるわ!」

「いや、リーリア。非常食は非常時のためのものだ。こんなところで食わず。二人ともこれを食べてくれ」

俺は必死だった。この鍋いっぱい食わされたら…死ぬかも!

「そんなこと気にしないでいいのよ。美味しく食べてさえもらえたら、私達は本望よ!」

「いや、そんなこと言うなよアイリス。三人で食おう!な?そうしよ?」

だが二人は止まらない。リーリアが、手にした鍋からカレーを入れる。

アイリスは、釜ごとご飯を持ってきて皿に入れる。

「「さあ、食べて!」」

その日、二人の美女に囲まれた天国のような空間で、それでも俺は地獄を見た。

余談だが、そのとき後ろで、アルタイルとフィソラが手を合わせていたそうだ。

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