「フィソラ、変身よ」
『アイリス、もう大丈夫なのか?』
「大丈夫よ、心配かけてごめんなさい」
アイリスが指輪の穴に琥珀を入れると、フィソラの体が輝きだした。
光が消えたとき、体中にひび割れをつくり黄緑色に輝くフィソラが現れた
地属性のドラゴンであるダイヤモンドドラゴンに変身したのである。
体中のひび割れの奥には、もう一層の鱗がある、しかも、表面の鱗には感覚がない。まるで鎧をまとったかのようである。
その変身で俺もアイリスに気づく。
敵から目を離さないよう、振り向かずに話しかける。
「アイリス、大丈夫だったか?」
「ええ、大丈夫よ心配かけてごめんなさい」
「無事ならいい、俺は、お前の目の前にいる限り、お前の楯になる。もうそばを離れるな」
「……ありがとう…」
小さく、聞き損ねそうな声で、アイリスが言った。
さてアイリスも復活して、戦いの準備は整った。俺は最初とは違う気持ちで、敵を切りつける。
だが、斬っても斬ってもダメージがない。相手はマグマと言うドロドロの液体である。残念ながら斬撃は効かない。
「くそ、フィソラ頼む」
体の周りにダイヤを呼び出し敵にぶつける。それがダイヤモンドドラゴンの必殺技である。
だがフィソラは動かない。
「どうしたフィソラ、何で攻撃しないんだ」
叫んだ途端、フィソラが黄色いブレスを吐いた。
ダイヤモンドドラゴンのもう1つの技は、ダメージこそないものの敵の動きを封じる麻痺ブレスである
『ダイヤはしょせん炭素だ、あれだけの熱では、燃えるだけでダメージはない。これなら動きを止められる』
「ギルバート、ダイヤは効かないから、ブレスにしたって」
「解った。なんとなくだが理解した」
敵の動きが止まり、一撃必殺のリーリアの呪文詠唱が始まる。
「泉に湧きし聖なる水よ、この地に集まり玉となれ、水の精霊ウンディーネの力を借りて、その身に力を宿し、拘縛せよ ”アクアプレッシャー”」
敵の周りに無数の水の玉が現れる。だが、敵の体に触れるたびその熱のせいで、蒸発してしまう。
「リーリア、何でこのチャンスを逃すんだよ」
「何言ってるの、文句言う前によく見なさいよ」
よく見てみる、敵がだんだん黒くなる。そうか、冷やしているのだ。
そして、10個ほどぶつけた頃、敵の体は固まっていた。
「仕上げね!」
残った水の玉同士をぶつけ大きな玉にする。それをぶつけると敵が中に入った。
「”プレス”」
水の玉が小さくなり、敵が押しつぶされる。水圧が発生しているのだ。
残ったのは、指の先に乗る程度の黒い小さな塊であった。
「よし、勝った。アイリスも無事だったし、まあ、良かったんじゃねえか!」
そう言いつつ皆集まると、アイリスが急に頭を下げた!
「皆さんごめんなさい。私の意地のせいでこんな事になってしまって、本当にどう謝っていいか!」
今にも泣き出しそうな声であった。これで反省していないのならば、宝塚○劇団に入れるだろう!
「もう、いいですよね。十分反省しているようですし」
アルタイルが俺たちを促した。が、そんなことする必要も無かった。
「別にいいわよ。怪我した時点でよく分かったでしょ!」
「俺もかまわない、無事だった事だけで十分だ」
『私も同じだ。親切心から始まったことで責める気は無い』
自らが、危険行為をし、そのせいで自らが、傷ついた。もう罰は受けている。
それが、俺たちの考えであった。
「皆さん、ありがとうございます」
また泣き出してしまった。
竜を従える民族でも、強がっていても、彼女はかわいい女の子である。
泣きたいこともあるだろう。
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