こんな奴らに作戦など必要ない。
それに陰りの見えてきた天候の下で長期戦になればこっちが不利になる。
俺はまず一番近い奴に斬りつけた。
「ふんっ!」
迷わず一閃。
敵は悲鳴も上げられずに倒れた。そこから雪が鮮やかな血の赤に冒される。
「ウオォォォォォォォォォ!!!!!!!」
仲間がやられた事を理解した他のソルビーストが怒りの咆哮を上げ襲い掛かってきた。
咄嗟に振り向き剣を構えなおした。
正面から二匹…左右に一匹ずつ…距離は少し遠め…。
よし…。
正面の二匹に左手を向けて、力を込めた。
「真空の刃よ…切り刻め!!!」
俺の手から鎌鼬(カマイタチ)を伴った旋風が解き放たれる。
ストリーム…俺の使える数少ない魔法の一つだ。
狙い通り正面の二匹は吹き飛んだ。
あの二匹は後回しだな…。
その間に右の一匹が直進し、左の一匹は獣の跳躍力を発揮させて首を狙ってきた。
「ふっ…単純だな」
俺はまず右の奴に立ち向かった。
「オオオォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」
雄叫びとともに普通の獣よりも強固で鋭利な爪を繰り出した。
俺は間髪で左に回避する。
すれ違ったソルビーストは止まるやいなや雪にゆっくりと伏した。その位置も赤く染まり始める。
そいつの末路を確認する前にもう一匹の方に向いた。
着地してこちらに向き直そうというところか。
「遅い!!」
もう一匹との距離を詰め…
斬
「キャオォォォォォ!!!」
敵に手を打たれる前にこちらが殺る…俺はこの手法で今まで生きてきた。
無駄だとわかって剣を振るって血を払う。
…昔の自分じゃ、こんなの考えられなかったな…。
昔と今を比較し、自嘲していた。
…さて、もうそろそろ来るか?
一度魔法で押しやった二匹が視界内に入ってきた。二匹とも寒さを凌ぐ体毛の一部が赤く染められていた。
傷を負ってスピードは減退しているが、身体的に劣っている人間にとって速いことには変わりない。
戦闘中にも関わらず俺は空を見上げた。
大分雲の色が黒い…もうそろそろどこかに非難しないと…。
早く終わらせるべくこちらからも走った。
「ガァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「はあっ!!!!!」
二匹ともほぼ同時に飛びこんできた。怒りで直線的にしかこない。
残り三歩…二歩…一歩…
「ふん!」
剣が右から左へ軌道を描く。
「ギャアァァァァァァァ!!!!!」
まずは一匹…。
「はっ!」
間髪入れず濡れた剣を翻す。赤い剣閃が斬り裂く。
もう敵の断末魔の叫びもいちいち覚えてられない。
「………」
はっ…何も残らない。
いや…あるのは血まみれの自分と肉塊…だが何故だかもう気にならなくなってしまった。
―…こんなに汚れたんだ…俺…―
こんな惨劇の中心にいても涙は一滴も頬を伝わない。
「…早くしないと…っ!?」
いきなり右腕に激痛が走った。
俺は左手で右腕を掴んだ。
指の間から裂け目が覗いた。完全に回避したと思っていたのに…。
「まずいな…。」
どんなに小さな傷でも放置するのはよくない。こんな過酷な環境なら尚更だ。
それに相手は獣兵…爪に毒が含まれているかもしれない。
「どこか早く避難しないと…。」
血を拭った剣を背中の鞘に収め、再び歩き始めた。
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