向林 忠晃(和歌山県)
実際には、とっさに発問を変えたこともあった。
毎時間、「今の自分の考えを書きなさい。」と指示をして、全員の考えをノートに書かせていくべきだったと反省している。
授業の組み立て(発問・指示をどの順序で出していけば良いのか)、意見が複数に分裂した時にどう導けば良いのか、
この2つの難しさを改めて感じた。
きつねが「よしよし、おれのうちに来なよ。」と言う時、きつねはどんな顔をしていますか。読みながら、やってみなさい。
子ども達の意見は次の4つに分かれた。
ア.笑顔(多数)
イ.いつもの顔(4人)
ウ.へんな顔(4人→1人)
エ.にらみながら笑顔(5人→2人)
「へんな顔」がよく分からなかった。発表してくれた子達も表現できない。
そこで、やんちゃ君が表現してくれた。爆笑だった。
もう一度意見分布をみる。(→の右の数字。ウとエが減る。)
教科書のキーワードは「きつねは、心の中でにやりとわらった。」
きつねの顔が不自然ではいけない。ひよこに警戒心を抱かせてしまう。
だが、笑顔で言ったのか、いつもの顔で言ったのか、書かれていることからは分からない。
よって、前2者が正解であると説明した。
■次を中心発問にしようと考えた。
きつねの気持ちがガラリと変わったのは、どこですか。また、どう変わったのですか。
初めこの発問をした時、子ども達の意見は4つに分かれた。
次時、もう一度聞くと、子ども達の意見は次の5つに分かれた。
ア.p.25 l.7 「やさしい? やめてくれったら、そんなせりふ。」(4人) 食べよう→優しい
イ.p.30 l.6 かみさまみたいにそだてた。(3人) 何となく
ウ.p.30 l.12 ある日。くろくも山のおおかみが下りてきたとさ。(4人) ぼうっとなった→勇気が湧いた
エ.p.31 l.4 「いや、まだいるぞ。きつねがいるぞ。」(1人) (当日欠席のため、「どう変わったのか」不明。)
オ.p.31 l.6 きつねの体に、ゆうきがりんりんとわいた。(18人) ちょっと照れた→戦う
それぞれに意見を言ってもらう。
その後、意見分布をみる。ほとんど移動がなかった。
■そこで、次の時間に、次の発問をした。
どうして、きつねは「はずかしそうにわらっ」たのですか。
次の6つの意見に分かれた。
ア.三人を食べられなかったから。(6人)
イ.おおかみに勝てなかったから。(5人)
ウ.三人を助けようとして、おおかみに負けて、照れたから。(0人)
エ.三人を食べようと思ったが、最後に三人を守って、いいことをしたから。(4人)
オ.三人を守ろうとしたが、おおかみに負けたから。(6人)
カ.おおかみと戦い、三人を守って、いいことをしたから。(11人)
ここで、おおかみにきつねが負けた、と考えている子が多いことに気付く。
■4〜7の段を引用する(教科書どおりに改行)。
4の段 ある日。くろくも山のおおかみが下りて
きたとさ。
「こりゃ、うまそうなにおいだねえ。ふん
ふん、ひよこに、あひるひ、うさぎだな。」
「いや、まだいるぞ。きつねがいるぞ。」
言うなり、きつねはとび出した。
きつねの体に、ゆうきがりんりんとわい
た。
おお、たたかったとも、たたかったとも。
じつに、じつに、いさましかったぜ。
5の段 そして、おおかみは、とうとうにげていったとさ。
6の段 そのばん。
きつねは、はずかしそうにわらってしんだ。
■試しに、次の発問をした。(これは、荒谷卓朗氏の発問「きつねはたたかいに勝ったのですか。負けたのですか。」が頭にあり、とっさに思い付いた発問。)
きつねはおおかみに勝ったのですか、負けたのですか。
ア.勝った。(14人) おおかみが逃げたから。
イ.負けた。(20人) きつねが死んだから。
イの理由として、「きつねが死んだから」と言っているが、きつねとおおかみの戦いが終わった時点では、きつねはまだ生きていた。
なのに、「きつねが死んだから」という意見しか出なかった。(時間的な前後関係を把握する力の弱さを感じた。)
「おおかみが逃げたから」と発言してくれた子は、日ごろ国語の学習にあまり集中できない子である。
■発問88を、とっさに変えた。
おおかみは、「きつねのおきゃくさま」なのですか。
これも、お客様ではないという意見が圧倒的だった。
□単元終了時の子どもの考え(「『きつねのおきゃくさま』を勉強して」という題で、次の4つについて書いてもらった。時間が足りない子には、宿題とした。)
◆きつねの気持ちがガラリと変わったのは、どこですか。また、どう変わったのですか。
・男児A:「やさしい? やめてくれったら、そんなせりふ。」 食べようとする気持ち→優しくて照れた気持ち
・男児B:「いや、まだいるぞ。きつねがいるぞ。」
・女児A:31ページに「きつねの体に、ゆうきがりんりんとわいた。」というところで、初めひよこ・あひる・うさぎ(向林注:以降は「三人」と表す)を食べようとして、悪い気持ちでいたのに、最後は、おおかみからみんなを守って、いい気持ちで、「みんなを食べたりするより、助け合ったりする仲間が欲しい。」だから、きつねは、仲間がいた方がいいと思います。
・女児B:どこかは、すごく難しかったです。それは、いろいろちょっとずつ気持ちが変わっていったからです。最初はひよこたちを食べようとしてて、次は仲良しになって食べることを忘れて、次はおおかみから守ろうとして戦ったからです。
・女児C:「きつねの体に、ゆうきがりんりんとわいた。」というところで、初め三人を食べようと思っていて、最後三人を守ったから、こう思いました。
◆どうして、きつねは「はずかしそうにわらっ」たのですか。
・女児D:おおかみと戦って、体がボロボロで、恥ずかしくて、恥ずかしそうに笑って死んだ。
・男児B:最初、食べようと思ったけど、食べられなかったから。
・男児C:戦って(三人に)褒められたからだと思いました。教科書には書いていないけど。
・男児D:きつねは最初は三人を食べる気だったけど、三人に優しい、親切、神様みたいなと言われて食べようと思っていたけど忘れてしまった。三人を助けようとしておおかみと戦った。自分の悪い心が恥ずかしかったから。
・男児E:三人を食べようとしたが、三人が優しいきつねと思っていたから、きつねは三人に見られたからと考えました。
・女児E:きつねは最初、三人を食べようと思っていたけど、いきなり自分が助けようという気持ちになって助けてあげました。だから、自分が思いもしないことをやってしまったことに対して、ちょっと恥ずかしかったからだと思います。
・男児F:きつねは三人を守ったから、恥ずかしそうに笑って死んだ。
・男児G:最後に、三人の顔を見たから、笑って死んだ。
・女児F:最初きつねは、三人を食べようと思っていたけど、おおかみから三人を自分で助けようという気持ちになったことに対して、ちょっと恥ずかしかったからだと思います。
・女児C:戦って体がボロボロで恥ずかしくて、「はずかしくてしんだ。」と思います。
◆きつねはおおかみに勝ったのですか、負けたのですか。
・女児G→きつねは負けてしまったけど、心の底では勝ったと思います。
・女児C→きつねは、体は負けたかもしれないけど、心の奥では勝ったと思いました。
◆おおかみは「きつねのおきゃくさま」なのですか。
・女児H→三人は、おおかみに勝てなかったら食べられないと思ったからだと思いました。この戦いはとても大事なことだから大事なお客様になると思いました。
・女児I→おおかみがきつねのお客様だったら、きつねとおおかみが戦う訳がないと思いました。お客さんじゃなかったら、「おお、たたかったとも、たたかったとも。」と書いてあったから、きつねのお客様じゃないと思いました。
・女児C→おおかみは、ただ三人を食べにきて、きつねが飛び出してきたから戦っただけであって、「きつねのおきゃくさま」ではない。(戦っただけやから、そう思う。)
◆その他
・女児J→最初、三人を食べようと思ったけど、くろくも山のおおかみがおりてきて、急に三人を守ろうとしておおかみと戦った。
・男児H→きつねは(三人を)食べようとしていたけど、食べませんでした。それは食べることを忘れていたからです。次に、おおかみと戦ったのは三人を守ろうとしたからです。
・男児I→初めは三人を食べようとしていたけど、最後には三人を守って、驚きました。
・男児J→最後きつねが死ぬと思わなかった。すごく難しかった。