0.はじめに

 「英語で化学」ではありません。化学の言葉の多くは、江戸時代のおわりから明治にかけて日本語に、つまり「漢字」に翻訳されたものです。辞書をめくってもとの言葉の意味や派生語、語源などをたどる楽しさをいっしょに味わってみませんか。

1.化学 chemistry

 最初は、やはりこの言葉でしょう。この言葉は、錬金術alchemy からきています。鉄や土から高価な金を作ろうとした錬金術はことごとく失敗に終わりましたが、そのときに得た物質についての知識が現在の化学の基礎となりました。alchemyのal はアラビア語の冠詞で、alcohol、algebraなどのいくつかの物質の名前になっています。江戸時代には化学のことを「舎密」と書いて「しぇーみ」と言っていましたが、これはオランダ語のchemie(ヘミ)を音訳したもので、現在でもフランス語ではchimie、ドイツ語ではChemieといいます。形容詞は、化学的 chemicalですが、chemicalsとsがついた形では化学薬品を意味します。化学物質でも特に医薬品の場合にはpharmaceutical productsやpharmaceuticalsで、薬学や薬局を意味するpharmacyからきています。大学の薬学部は the pharmaceutical departmentとなります。最後に、科学者はscientistですが、化学者はchemistで、錬金術師はalchemistです。

2.物質 substance

 化学という学問は物質の性質を研究するものです。和英辞典で物質という言葉を引くとmatterとsubstanceの二つがでていますが、matterはある空間を占める物体に対し、substance はものを構成する実質的内容の質を示すので、日本語では「物質」という同じ言葉でも化学で使うときはsubstance のことが多く、物理で使うときはmatterであることが多くなります。materialは名詞では原料を、形容詞としては物質的にという意味があり、物質主義 materialism、物質文明 material civilizationなどの派生語があります。substance の形容詞形のsubstantial は、「実体のある、実在する、本当の」という意味ですが、substantiveは「独立の、自立の」となります。

3.元素 element

 ラテン語、Latinの「第一原理」からきた言葉で、(全体の中での必要な)要素、 成分、構成部分を表します。element は全体を形作る成分や要素の一つで, これ以上分けることのできないことを示すことが多く、化学では「元素」または「成分元素」を意味します。「元素」は原子が知られる以前からの概念ですが、現在では物質を構成する基本としては原子があるので「元素」は「原子の種類」と考えることができます。類語のfactor はある現象や事柄などの要因となるものです。four elementsというと、古代の自然哲学者らが自然界を構成していると信じた四大(元素)のearth, water, air, fireを示します。また、「初歩、入門」という意味もあるのでelement の形容詞形elemental は「元素の」、elementaryは「基本の、初歩の、初等の」となり、elementary prticle で素粒子を、elemntary school で小学校を意味します。

4.構造 structure

 分子の形や原子の並び方などをいい、ドーナツdoughnutのような環状構造ならring structureです。動詞として「構成する」というときにはstructureもありますがconstituteがよく使われます。リストラ、restructureのreは動詞またはその派生語に添えて「再び」「…し直す」をあらわして、本来は組織などを再構築することですが、組織を縮小して人員整理をするイメージで使われています。形容詞のstructuralは、「構造上の」となり、構造改革 structural reform、構造言語学 structural linguisticsなどの言葉があります。

5.単体と化合物 simple body and compound

 bodyを「体」と訳すのは好みではないのですが、化学ではそうなっています。 simpleを「単」としたのはSimple body is constituted from single species of atom.だからでしょう。単体と対になる「化合物」はcompoundですが、compoundには動詞として混ぜ合わせるという意味がありThe new plastic has been compounded of unknown materials. (その新しいプラスチックはこれまで知られていなかった材料を混ぜ合わせて作ったものだ。)のように使うので一般には「混ぜもの」という感じがあり、化学でいう化合物だよと強調したいときにはchemical compoundとしたほうがよいでしょう。「化合」には、組み合わせたものをを意味するcombinationを使い、「化合する」はcombine with〜で表現します。例えば、Hydrogen combines with oxygen to form water.(水素は酸素と化合して水となる。)のように。

6.物質と混合物 pure substance and mixture

 純物質は純粋物質ともいい、pureはラテン語「清潔な」の意からきた言葉です。化学で使う「(まじりけのない意味で)純粋な」のほかに(汚れ、バクテリアなどのない意味で)きれいなという意味もありpure air きれいな空気 という使い方もしますが、「純粋な」という意味でとると空気はmixtureなので矛盾してしまいます。pure をpure chemistryのように学問に対して使うと純粋化学となり、逆に応用化学はapplied chemistryとなります。化学の国際機関であるIUPACは、International Union of Pure and Applied Chemistryの略です。pureの派生語としては、名詞としてpurity純度、動詞としてpurify精製する、があります。また、Puritan 清教徒は、英国のエリザベス時代に英国国教にあきたらず, 国教会を purify しようとしたカルヴァン系のプロテスタントの一派の人たちのことです。純粋なというpureの反対語はmixedという形容詞で、混ざったものという名詞がmixtureです。動詞のmixは「混ぜる」の意味ではもっとも一般的な語で、結果的に各要素が(大体)一様なものになる時に用います。mingleは分離して識別できる要素を混ぜ合わせる、mergeは混合して各要素が区別できなくなるまたはひとつのものを他の中に吸収する、blend は異種のものを混ぜ合わせて希望の品質のものを作り出すとそれぞれニュアンスが異なるので、ジュースなどを作るときに使う「ミキサー」は米語ではblenderとなります。

7.分離と精製 separation and purification

 separationは、separate分離する、という動詞の名詞形で、separateにはもともと結びついたりからみ合っていたものを一つ一つ切り離すという意味があって、separate cream from milk (クリームを牛乳から分離する。)というように使います。もう一方のpurificationは、purifyの名詞であと少し残っている不純物impuritiesを取り除いてpure substanceを得るという意味です。

8.濾過 filter

 分離や精製をするために、いろいろな操作operationをします。ろか(濾過)filterは、フェルトfeltが濾過に用いられたことからきた言葉で、名詞だけでなく濾過するための装置もfilter、さらに動詞としてHe filred out [off] all the dirt in the water.(彼はその水のよごれを全部濾過して取り除いた。)というようにも使います。ただ、濾紙はfilter paperなので、「コーヒーフィルター」というと濾紙ではなくコーヒーを濾過する装置?ということになります。さて、漏斗はなんと「言う」でしょう。

9.蒸留と分留 distillation and fractional distillation; fractionation

 蒸留するdistillは、ラテン語の「下に落とす」の意からきた言葉で教科書の図ならリービッヒ冷却器Liebig condenserからポタポタと液体が滴っているところが元の意味です。しかし、Whiskey is distilled from malt.(ウイスキーは麦芽から蒸留される。)というように現在では操作全体を示します。また、distilled waterは蒸留水を、distllerは、蒸留する人だけでなく蒸留器を、distillateは蒸留物を、distilleryはwhiskeyなどの蒸留酒製造所を意味します。fractionationは、a fraction of a marble statue(大理石の像の破片)のように破片や断片を意味するfractionから、fractionにするというfractionateという動詞ができて、そこから分留という意味の名詞fractionationができたのでしょう。もちろん、fractionationで分かれたものはfractionです。蒸留の場合は、distill off the impurities.(蒸留して不純物を取り除く)というように不要な部分を取り除くことに重点がありますが、分留では、各成分に分けることに重点があります。数学でfractionというと分数を表します。

10.原子 atom

 ギリシャ語、Greekの「分割できないもの」に由来する言葉ですが、二十世紀のはじめに電子や陽子といった素粒子elementary prticleに分割されてしまいました。現在では、elementary prticleもクォークquarkとよばれる5種類の粒子から構成されていることがわかっています。形容詞はatomicですが、この形容詞には比較級はありません。atomicを使った単語としては、atomic bomb原子爆弾、atomic theory原子論などがありますが、原子論を哲学的な意味で使うときはatomismとなります。atomの動詞、atomizeは、「原子にする(それ以上分けられないくらい細かい粒にする)」という意味になり、香水吹きのような噴霧器をatomizerといいます。

11.原子核 nucleus

 nucleusは、「ものの核心、中心」というのがもとの意味で原子だけでなく細胞cellの核もnucleusになります。複数形plural(pl.)はnucleiでsはつきません。このような変化をするものとしては、半径radiusのpl.がradiiなどがあります。形容詞はnuclearでnuclear weaponが核兵器、nuclear power plantが原子力発電所、nuclear fissionが核分裂、nuclear fusionが核融合、nuclear familyが核家族のようになります。変わったところでは「核保有国になる」がgo nuclearです。陽子protonや中性子neutronのようにnucleusの中に存在する粒子を核子nucleonといい、「〜子」のところが〜onという語尾になっています。neutronは電気的に中性neutralである粒子という意味です。

12.電子 electron

 電気のelectricは、琥珀(こはく)を摩擦すると電気が起こることからギリシャ語の「琥珀」を意味する言葉elektronに由来しています。electricの名詞形は、電気electricityです。真空放電の実験でelectricityを帯びた粒子particleが流れていることとわかり、その粒子の名前がelectronとなりました。electronの形容詞はelectronicでe-mailのeも電子メールelectronic mailからきたものです。electricと似ているので注意しましょう。electricの連結形(他の名詞や形容詞に直接つく形)は、electro-でelctrochmistry電気化学、electronegativity電気陰性度など多くの言葉があります。

13.同位体と同素体 isotope and allotrope

 英語では全く異なる言葉なのに日本語ではまぎらわしいというのがいくつかあります。isotopeはギリシャ語のisos 「同じ」とtopos「場所」から作られた言葉で周期表の上で同じ場所に入るという意味なので、As all atoms of an element have the same number of protons, isotopes differ in having different numbers of neutrons.となります。iso-は「等しい、同じ」という意味の連結形でisobar「等圧線」、isothermal 「等温の」などがあります。反対に、allo-には、different or different kindsの意味があり、the existance of an element in two or more different formsをあらわすallotropy「同質異形」からきたのがallotropeです。

14.質量数 mass number

 理科では、質量massと重量weightははっきりと区別されていて、押したときの手応えがmassで、重力の大きさがweightといえます。つまり、宇宙へ行って無重力になってもmassは変わりませんが、weightはなくなります。massは「大麦で作ったケーキ」からきて、「(一定の形のない)大きなかたまり」を意味します。現在ではthe massesで大衆をあらわし、msss media、mass communicationマスコミなどがあります。形容詞はmassiveで、Massと大文字で始まると「ミサ」の意味になります。

15.イオン ion

 An ion is formed by an atom gaining or losing one or more electron.なので負の電荷negative chargeをもっている電子を得るgainと陰イオンanionになり、失うloseと陽イオンcation(発音に注意!)になります。化学では正と負は、positiveと negativeで、陰と陽は、陰極cathodeと陽極anodeのようにcatho-、ano-で表します。テレビの(日本で言う)ブラウン管は、後ろの陰極から出た電子の流れ(陰極線cathode ray)が前面の蛍光体に当たって光るので陰極線管CRT,cathode-ray tubeといいます。ionの動詞「イオン化する」は、ionizeで、その名詞ionizationはイオン化エネルギーionization energyように使われます。空気清浄機などについているionizerもionizeから派生した言葉です。

16.周期律 periodic law

 eraやepoch は根本的な変化や重要な事件などで特徴づけられる時代を、age はある大きな特色またはある権力者に代表される時代を意味するのに対して、ラテン語で「ひとまわりの道」に由来するperiod は、長短に関係なく期間の意味をしめす一般的な言葉で、その形容詞としてはperiodic周期的とperiodical定期的があります。原子を原子番号の順に列べるとperiodicityがあらわれるのでperiodic lawといいます。「定められたもの」というところからきたlawは「法」を表わす最も一般的な言葉で, 権力に裏付けられ服従の義務のあることを意味し、ruleは秩序・機能などを維持するために守るべき決まりを意味します。よって、ボイルの法則 Boyle's lawのように自然科学上の法則はすべてruleではなくlawになります。では、漢字の「法」、「律」、「令」はどう違うのでしょう。

17.周期表 periodic table

 周期表で横の元素の並びは周期periodですが、縦の元素の列びは族groupといいます。これはフランス語のgroupe「固まり」からきた言葉で、「集まり」を表す最も一般的な言葉です。他に「集まり」を表す言葉には、herdは一緒に生活する家畜や動物の群れ、droveは一緒にぞろぞろ移動する家畜の群れ、packは猟犬やオオカミなどの群れ、flight は飛ぶ鳥の群れ、flockは羊、ヤギ、ガチョウ、アヒルなどの群れ、swarmはハチやアリなどの大群、schoolは一団となって泳ぐ魚の大群などがあり、だからメダカの学校なのかと納得してしまいます。tableはもともと「厚板」の意味で、引き出しがなく一枚板などでできているところがdeskと区別されます。「ごちそう、料理」の意味に使われて、the pleasures of the table 飲食の快楽, 食道楽や、host's table「主人が決めた料理」からホテルやレストランのコースの料理をフランス語でtable d'hote といったり、またa table of cardplayers トランプをしている一座の人々のように「テーブルを囲む人々」の意味となります。ここでは「表」の意味で、かけ算の九九の表はmultiplication tableといい、12x12=144まであるのをアメリカでみたことがあります。ちなみに、実験台はtableではなく、laboratory benchです。

18.化学結合 chemical bonding

 「縛る(bind)」からきた言葉にはbandとbondがありますが、band「縛るもの」の意味から「ひも、なわ」となり、a rubber band 輪ゴムのように「(桶の)たが、環」や帯状のものとしてズボンのベルトのこともバンドというようになりました。またbondの方は、縛ることによる繋がりからthe bond of friendship 友情の絆(きずな)や、enter into a bond with…と契約を結ぶ(約束に縛られるから)、さらにpublic bond公債のように債券もbondとなります。また、接着という意味で接着剤をボンドといったりします。化学では、価標のことをbondといいます。動詞としては、Those plastics will not bond together.(そのプラスチックは接合しないだろう)のように使われます。

19.単結合、二重結合、三重結合 single bond, double bond and triple bond

 二重double、三重tripleというのに関連した言葉を集めて見ると、四重のquadrupleのあとは、quint-、sext-、sept-、oct-などがあり、多重はmultipleとなります。スキー場のリフトで4人乗りのものを、quadといいますが、5人乗りならquintになるのでしょうか。接尾語suffixがletの形ではdoublet対(つい)の片方、triplet三つ組(の一つ)、quadruplet 四つ組(の一つ)、quintuplet 五つ組(の一つ)、sextuplet六つ組(の一つ)があります。音楽に関連したものでは、独唱[奏]がsoloで、以下duet、trio、quartet、quintet、sextet、septet、octet、nonetと続きますが、電子殻に8個の電子が入ることもoctetといいます。他にも(テニスなどの)singles(2試合あれば何というのでしょう)とdoublesなどがあります。残念ながら、五重の塔は five-storied pagodaとなります。

20.電子殻 electron shell

 the hard outer coveringがおおまかなshellの意味で貝殻だけでなく薬莢なども表しますが、ここではa spherical space around a nucleusを示しています。sphericalは、「球」を意味するsphereの形容詞で、sphereからは、大気(圏)atmosphere(蒸気の取り巻く所)、生物(圏)biosphere、lithosphere岩石(圏)などがあります。

21.結晶 crystal

 ギリシャ語の「氷」の意味からきた言葉で水晶を表していましたが、水晶がきれいな結晶であることから、一般的に結晶をcrystalというようになりました。よく似た言葉にquartsがありますがこちらは石英で、quartsのうちできれいな結晶になっているのがcrystalという関係になります。形容詞はcrystallineで、眼球のレンズ(水晶体)はcrystalline lensとなり、動詞はcrystallizeで、Water crystallizes to form snow.(水は結晶して雪となる)のように結晶化するや具体化するという意味があります。そこから、「結晶になること」は、crystallization結晶化で、recrystallizationが再結晶、「結晶になったもの」はcrystalloid 結晶質で、ならないものはcolloidコロイド(膠質)と言葉はどんどん広がっていきます。さて、水晶占いは?

22.化学式 chemical formula

 元素記号、the (chemical) symbol for an elementで物質を表現したものを一般的にchemical formulaと言いますが、表現の方法によって分子式molecular formula、組成式empirical formula、構造式structural formula、示性式rational formulaなどがあります。molecularの名詞はmolecule分子で、structuralの名詞はstructureです。では、empiricalとrationalの名詞は?  formulaは「形」を表すformからきた言葉で慣習的やり方や処方などを意味しますが。数学では公式を意味し、化学ではthe chemical formula for water(水の化学式、つまりH2O のこと)のような使い方をします。複数形はformulaeと不規則に変化します。formからはたくさんの派生語ができていて、名詞のformation(構成、配列)や形容詞のformative(形成の)が、そして形容詞のformal (公式の、形式ばった)からは、formality、formalize、formalization、formally、formalism、formalist、formalistic...と際限もなく出てくることが辞書を引くとわかります。

23.共有電子対 shared electron pair

市場占有率としてshareという言葉が使われますが、名詞としては「取り分、分担」となり、動詞としては「分ける、共有する」となります。ここでは二つの原子に共有されたelectron pairとなり、非共有電子対ならunshared electron pairとなります。pair対に似た意味の単語、つまり、類語synonymにはどのようなものがあるかを調べたいときに役立つのが、thesaurusです。索引indexでpairを引くとDUALITY二重(性)の項目に載っていることがわかり、そこを見るとduplicity polarity two deuce couple both twain twins gemini brace yoke...とあり、双子座はgeminiだったとか、体育の先生が「じゅーす」と言っていたのがdeuceだったのかというのに気がついたとき、eureka!(I have found it.)となるのです。

24.分子間力 intermolecular force

 international が国と国との関係を表すように接頭語prefixとしてのinter-はbetweenやamongと同じく「中、間、相互」などを意味します。interで始まる単語はたくさんあります。interestingの動詞、interestも「間に存在する, 関係する」の意味からきた単語で辞書を見ると興味や関心だけでなく「利害関係」というような意味もあることに気づきます。

25.配位結合 coordinate bonding

 acting together「共に」という意味のprefix、co-と、ordinare(Latin、配列する)からできた言葉で形容詞としては、「同等の」という意味がありますが、結合の実態はOne atom gives both electrons to form the shared electron pair.なので、動詞の「調整する、対等になる」などが近いと思います。日本語が「配位」となっているのは、「配列する」から位置を決めて配置するという意味でつけたのでしょうか。

26.極性 polarity

 poleには、二つの意味があって、一つはラテン語の「くい」からで、fishing pole釣りざおやtotem poleのように棒状のものを表し、理髪店の店先でくるくる回っているのもbarber's poleとpoleで表現します。もう一つはギリシャ語の「軸」からで、the North Pole北極のように「極」を表します。ここから形容詞のpolarが、polar expedition 極地探検、the polar star 北極星(Polaris)、polar molecule極性分子、nonpolar molecule無極性分子のように使われ、さらに、名詞としてpolarity、動詞としてpolarize(極性を与える)、さらにその名詞としてpolarization分極があります。

27.ダイヤモンドとグラファイト diamond and graphite

 diamondとgraphiteはともに炭素carbonのsimple bodyで、互いにallotropeの関係にあります。辞書を引くとdiamondは、ラテン語のadamant(堅硬石)の頭部のa-が取れた形からできたとあるので、次にadamantを調べるとギリシャ語の「最も堅い 金属」の意からとなっています。つまり、Diamond is the hardest substance known.(ダイヤモンドは知られている物質のうちで最も堅いものである。)ということになります。では、a diamond of the first waterとは、どういう意味でしょう。graphiteの方は鉛筆の芯などに用いられ、-graphy「記述したもの」として、geography地理学、biography伝記などが、-graph「描いたもの」として、lithograph石版画、photograph写真などがあます。棒グラフbar graphのgraphもここからきています。graphicは、graph の形容詞形でgraphic designというように使われます。

28.金属 metal

 ラテン語の「鉱物metallum」からきた言葉です。現在では鉱石よりもそこから取り出された金属の方に意味が移っていて、noble metals 貴金属、heavy metals 重金属などと使います。そして、もとの鉱石にはケルト語系のmine(形容詞はmineral)が使われます。mineには地雷という意味もあり、mine sweeperは地雷探しとでも訳せばいいのでしょうか。形容詞はmetallicで、metallic element金属元素、metallic voice 金属性の[きんきん]声があります。そして、金属の性質を研究する学問がmetallurgy冶金(やきん)で、非金属がnonmetalとなります。

29.自由電子 free electron

 自由というとfreeが思い浮かぶかもしれませんが、freeに名詞形はないので、freedomが答となります。freeには「自由な」の他に「無料の」のや-freeと後ろについて「〜のない」などがありますが、free wayは信号traffic lightがない分だけfreeなのかな、free ticketはお金を払わなくてよい分だけfree なのかなと考えると、「縛りがない」というのがfreeかなと思います。free electronのfreeは、free to move between the metal ion.なのでしょう。最後に、free marketは、「自由市場」と経済学に出てくるような言葉で、ガレージに出てくるのは、flea marketです。

30.結晶格子 crystal lattice

 園芸店で植木鉢などを吊すものとしてラティスlattice(格子)を見かけます。もともとは、a framework made of thin strips of wood or other material placed across each other.なものですが、結晶模型のball and stick modelを見ていると格子のようにも思えてくるわけです。そこで、stickからballに目を移し、二次元の平面planeから三次元の空間spaceへ言葉の意味を拡張してa regular arrangement of points in space with a pattern that can be recognized.(認識されうるパターンを伴った空間内の規則的な点の配列)と大きく風呂敷を広げてしまえば、結晶格子crystal latticeはa lattice with atoms, molecules, or ions at the points of the lattice.と、格子の点のところに原子や分子、イオンが入ったものとなるのです。

31.モル mole

 物質量amount of substaceをあらわすときには、原子や分子をアボガドロ定数Avogadro constantだけ集めてひとかたまりにしたものを1molといいます。このモルmole(単位の記号はmol)はラテン語のmoles(塊)からきた言葉で、moleの形容詞であるmolarは、「モルの」ではなく「モルを単位として物質量で割った」という意味で用いられ、モル質量molar weightは質量を物質量で割ったものということになり1モルあたりの質量を、モル体積molar volumeは1モルあたりの体積を示します。分子moleculeも同じくmolesに由来する言葉で、-culaがついて縮小形となり、小さなかたまりとして分子を意味します。moleを辞書でひくと土竜(モグラ)、ほくろ、防波堤などの単語も見つかります。

32.化学反応 chemical reaction

Our eye reacts to light.(我々の目は光に反応する。)というようにreactは、反応するという意味の言葉です。「〜と反応する」というときにはreact with〜と化学ではよく使いますが、反発という感じの反応にはreact against〜となるようです。re-actになると「やり直す」に意味が変わります。reactの名詞がreactionでchemical reaction化学反応、allergic reactionアレルギー反応のように反応を意味します。物理では、action and reactionで「作用と反作用」というような使い方もします。形容詞は、reactiveで「反応しやすい」となり、反応物はreactantで、reactorは反応装置という意味もありますが、原子炉として使われることも多くあります。

33.化学反応式(化学方程式) chemical equation

 equation方程式は、equal to〜(〜と等しい)のequalの名詞です。化学反応では、reactantsとproducts生成物の間で原子の数が変化せず等しいというconservation of atoms(原子の保存)が成り立つので、つまりIn the reaction, atoms are neither created nor destroyed.(反応において原子は生成も消滅もしない)ので、equationとなるのです。では、Law of conservation of massは何と訳せばよいでしょうか。

34.水素 hydrogen

 hydrogenは、「水を作るもの」からきた言葉で、水を表すhydroの部分と、名詞連結形で「…を生じるもの」を表す-genからできています。hydro-に似たhygro-は湿気を意味しhygrometer湿度計、hygroscopic吸湿性のようになります。hydro-で始まる言葉には、hydrofoil水中翼船やhydroelectric dam水力発電ダムなどがあります。hydrofoilのfoilはアルミホイルというときのfiolで、もとの「葉」の意味から金属箔のようなぺらぺらしたもの、ここでは水中翼を表し、hydroplaneというと水上飛行機になります。水素のisotopeの2Hはdeuterium重水素ですが、この言葉はdeuceと同じく2をという意味の言葉からつけられたものです。

35.ヘリウム helium

 1868年に太陽光線を調べることで地上では未知の元素として発見され、ギリシャ神話で太陽の神heliosからきています。helio-は、「太陽の」という意味で使われ、太陽が中心にあって地球が回っているという地動説はthe heliocentric theory、ひまわりはhelianthus(sunflower)などがあります。同じ太陽の神もローマ神話ではSolで、moleに対するmolarと同じように「太陽の」という意味の形容詞はsolarとなり、太陽系solar system、太陽暦solar calendar、太陽電池solar batteryなどがあります。現在、一般的に太陽を表す言葉はsunで、Sunday、sunnyの他に日時計sundial、日光浴sunbathなどがあります。さて、目玉焼きのことをsunny-side upといいますが、このsunはどこからきたのでしょう。

36.リチウム lithium

 リチウムはNa、Kなどと同じアルカリ金属元素の一つで、他のアルカリ金属元素が灰から見つかったのに対し、このリチウムは葉長石という石から発見されたので、石という意味のlithosから命名されたものです。lithoで始まる言葉には、lithology岩石学、lithosphere岩石圏・地殻、lithograph石版画などがあります。石がlitho-なら、木は?と思って辞書をみるとxylo-とあり、xylograph木版画、xylophone木琴などが見つかります。

37.炭素 carbon

もとは、ラテン語の「炭」からきた言葉です。フランス語で炭素はcarboneで、よく似たcharbonが石炭と木炭の両方を意味します。英語の辞書でcarbonを引くと、炭素という意味はあっても「炭」の意味はなく、石炭はcoal、木炭はcharcoalと別の単語になっています。ドイツ語になるとcarbonに似た言葉なく、炭素はKohlenstoffとなり、Kohleはcoalと同じく「炭」、Stoffは「素」で文字どおりですが、Kohleの意味は広く、石炭も木炭も炭素も含んでいます。carbonの派生語としては、carbonic炭素の、carbonize炭化する、その他にcarbonated drinks炭酸飲料、carbondioxide二酸化炭素などがあります。

38.窒素 nitrogen

 nitrogenは硝石nitreからきたもので、KNO3である硝石に窒素が含まれていたことによります。だから、nitrogenをそのまま日本語にすると窒素ではなく「硝素」になってしまいます。派生語をみるとnitric窒素の、nitrify窒素と化合する、nitride窒素と化合したもの(窒化物)などがあり、nitric acid 硝酸、nitroglycerinニトログリセリンなど窒素を含む物質につながりを見ることができます。フランス語ではazoteでアゾ染料のアゾ基-N=N-はここからきているのでしょう。ドイツ語ではStickstoffで、息がつまるstickと素Stoffからできていて、日本語の窒素はこれを訳したものと思えます。英語で「窒息させる」は何というでしょう。

39.酸素 oxygen

すいすい草ともいうカタバミoxalisは、「酸っぱい」という意味のoxysからきた言葉で、oxygenは「酸の素」という意味になります。ドイツ語では、SauerstoffでSauerは英語のsourにあたる言葉ですから、これも「酸の素」になります。しかし、現在では酸の性質は水素イオンによることがわかっているので、酸素は「酸の素」ではなくなっています。派生語としてはoxidize酸化させる、oxide酸化物、oxidation酸化(作用)などがあります。光化学スモッグで話題になるoxidantオキシダントは、酸化作用を持つ物質ということで、reactantと同様の変化でできています。

40.ハロゲン halogen

 ギリシャ語のhals塩と-genからできた言葉で「塩の素」ということになります。それでは、塩素はどうなるかということになりますが、塩素chlorineは黄緑色という意味のchlorosからきた言葉で塩素ガスが黄緑色をしていることによります。葉緑素をchlorophyllというのも、クロレラchlorellaが緑色なのもchlorosが語源です。蛍石fluorite、CaF2から取り出されてのがフッ素fluorineです。fluoriteは他の物質と混ぜて溶けやすくするのに使われたものでその名前はflow流れるからきています。flood 洪水も古期英語「(水の)流れ」の意からきた言葉です。特に、the Floodとすると「ノアの洪水」となります。日本語で「蛍石」というのは加熱すると蛍のように発光することからきていて、蛍光fluorescence、蛍光灯fluorescent lumpなどが派生しています。臭素bromineはbromos悪臭から、ヨウ素iodineは紫という言葉がもとになっています。日本語のヨウ(沃)素はドイツ語のjodヨードを音訳したものでしょう。

41.希ガス rare gas

 希ガスrare gasの他にも、貴ガスnoble gas、不活性ガスinert gasという言い方があります。ネオンneonは「新しく」見つかったので、neo-「新…」から、クリプトンkryptonはなかなか見つからなかったので、kryptos「隠された」から、キセノンxenonは、xenos「見知らぬ」(英語ならstranger)からきています。関連した言葉には、the Neolithic era 新石器時代、cryptonym匿名、xenophobia外国人嫌いなどがあります。

42.アルカリ金属 alkali metals

 水素以外の1族元素は全て金属metalで、水と反応しアルカリ性を示すので、alkali metalsといいます。ナトリウムNatriumはドイツ語で、天然のアルカリ(炭酸ナトリウム)natronからきています。また、この物質はソーダsodaとも言うので、英語やフランス語ではsodiumとなります。alkaliはアラビア語の「灰」からきた言葉で、ドイツ語のカリウムKaliumは手軽なalkaliとして使われた草木灰(主成分は炭酸カリウム)から取り出されたことから、alkaliからalがとれてできた言葉です。英語やフランス語のpotassiumは、草木灰が、草木を壺potで燃やして灰ashにして作られていたことから草木灰をpotashということに由来しています。ルビジウムrubidiumは、炎色反応flame reactionで赤い色redを出すので、her ruby lips(彼女の真紅のくちびる)のように赤いという意味を持つルビーrubyからつけられたものです。フランス語で赤いはrougeでそれが英語になるとlipstickの意味になります。

43.アルカリ土類金属 alkali earth metals

鉱石(鉱物)を焼いたあとのかすが石灰calxでここから発見された元素がカルシウムcalsiumです。炭酸カルシウムでできた鉱物が方解石calcite、焼いて灰[粉]にすることをcalcineといいます。マグネシウムmagnesiumは、ギリシャのマグネシア地方で産出したmagnesia(マグネシア、酸化マグネシウム)から発見されたことによります。earthは太陽、月、星に対しての地球で、globeは人間の住む世界としての地球で丸いことを強調するので、The earth goes (a)round the sun.という文脈ではglobeにはなりません。また、(天空に対して)地上を(海に対して)陸地を表します。 magnesiumやcalsiumは、alkali性を示しますが、calxやmagnesiaが水に溶けにくく陸地に存在するところからalkali earthとなります。earthには他にもいろいろな意味があるので一度調べてみてはいかがですか。

44.リン(燐) phosphorus

 リンは、空気中の酸素と反応してあわく光るので、ギリシャ語の「光を運ぶもの」からきています。派生語としては、phosphoresce燐光を発する、phosphorescent燐光性の、phosphorescence燐光などがあります。神話の世界では、ギリシャ神話のフォースフォロスPhosphorは暁の明星(morning star)の擬人ですが、これはローマ神話ではLucifer に当たります。フランス語で似た単語を探すとluciol蛍があり、蛍のおしりで光っている物質をルシフェリンluciferinといいます。光を表す言葉には、phosの他にphotがあり、photograph写真、photochemistry光化学などがあります。光を発するものはluminaryで、名詞はluminescence、luminaire(フ)は照明設備になります。神戸のルミナリエもこのあたりの言葉でしょう。蛍は英語でfireflyですが、〜flyの単語を探すと、butterfly(魔女がチョウの姿をしてバターやミルクを盗むという迷信から?)、cabbage batterflyモンシロチョウ、dragonflyトンボ、greenflyアブラムシ、mayflyカゲロウなどがあり必ずしもflyはハエだけではないようです。

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