かぼちゃの日★みに★2

 

 

 

「いいか、キラ。お菓子を貰うには呪文がいるんだ」

「じゅも〜?」

 

かぼちゃのはりぼてを被ったラスティと、『マジカル☆ラクス』のドレスを着たキラ。

…そして、耳と尻尾を付けさせられた俺。

 

「そう、呪文。“Trick or treat”って言うんだよ」

「とりっくりーと!!」

「そうそう。それをみんなに言うんだ」

「あい!!」

 

元気に手を上げてキラがいい返事をする。

いつも素直ないい子なんだけど、お菓子が絡むととてもいい子になるからなあ…

 

「みげちゃ、とりっくりーと!」

 

両手をくっつけて、差し出してくる。

俺はキラの手のひらにキラ用の(いつも持ち歩いている)キャンディを落としてやった。

 

「あ〜となの」

「どういたしまして」

「じゃ、その調子で皆に言おうね、キラ」

「ぁい!」

「じゃあ、誰から行こう?キラは誰がいい?」

「ん〜〜、きぁちゃは、たいちょのとこにいきたいの」

『隊長!?』

「あい」

「…いきなりそうきたか…」

「キラは機関部以外フリーパスだからなぁ…」

「隊長は今の時間だとブリッジか?」

「たぶんね…」

「…しょうがない…キラ、来い」

 

しゃがんで、キラに視線を合わせて、腕を広げてやる。

そうしたら、花が開いたように笑って飛びついてくる。

その軽い身体を抱き上げて、肩に乗せた。

 

「みげちゃ、わんわ?」

 

俺の顔が近くなったからか、頭の上に付いた耳に興味を示す。

というか、触りたくてうずうずしてる?

 

「違うが…キラには同じに見えるかもな」

「わんわ〜〜vv」

 

機嫌よくキラが犬耳を触ってるうちに俺とラスティはブリッジに移動する。

正直、キラは会う人間すべてにさっきラスティから教わった“呪文”を言うだろうし。

そうなったら、隊長のところに着くのはいつになるか…

 

 

 

「おや、キラ君じゃないか。それにお前たち、なにかね、その格好は」

 

仮面の隊長が不振げに俺たちを見る。

言い出したのはラスティだし、乗り気なのもラスティだ。

けれど、大喜びなのはキラで、ラスティが行く予定のなかったブリッジを提案したのはキラだ。

俺とラスティはどう説明したものかと顔を見合わせた。

 

「あのね〜らしゅはかぼちゃんでみげちゃはわんわでね、きぁちゃはらくすちゃなの〜」

「ミゲル」

「はっ」

「キラ君の言っていることを聞いてもいいかね」

「は。本日はハロウィンでありますから…」

「そ〜なの!はろいーなの!!きぁちゃ、じゅも〜ゆうの!!」

 

俺と隊長を見比べていたキラが話に入ってくる。

ハロウィンで思い出したらしい。

けれど、さすがに隊長相手にこの態度は駄目だろう。

 

「こら、キラ」

「いい。だいたいわかった。キラ君、呪文とやらを言ってくれるかな」

「ぅ?」

「ブリッジなのでこんなものしかないがね」

 

隊長が出したのはクッキーの缶。どうしてここにそんなものがと言いたくなるが、キラが一人で

ここに来た時用のおやつなんだろう。

 

「くっき〜〜vv」

「キラ、なんて言うんだっけ?」

 

クッキーに目を奪われているキラを見かねてラスティが助け船を出す。

おそらく、一刻も早くここから出て行きたいんだろう。

はりぼての中のラスティの顔が手に取るようにわかってしまう。

 

「う〜っと、あ!とりっくりーと!!」

「よろしい。今度その服を着てゆっくり遊びに来なさい」

「あい!!」

『失礼致しました!』

 

クッキーを貰えてご満悦なキラを脇に抱えて、俺たちは逃げるようにブリッジを出た。

 

 

 

「あ〜びっくりした…」

「全くだ…心臓に悪い…」

「う?」

「なんでもないよ。次はどこに行こうか?」

「ん〜〜…あ〜にこゆなの〜〜」

 

キラが指をさした方を見てみれば、若草色の髪をした(見た目は)温厚そうな同僚。

 

「…なんですか、その格好は。」

「今日はハロウィンだろ」

「そういえば、そうでしたか。ああ、もちろんキラちゃんはかわいらしいですよ」

「きぁちゃ、かわい?」

「ええ、とっても。そこのはりぼてや、犬とは比べ物にならないくらい」

「はりぼてっ!?」

「犬っ!?」

『おいっ!!』

「何か文句でも?」

 

にっこりと笑顔で言うニコルに俺たちは絶句する。

逆らったりしたら何をされるか……っ

 

「あのね、きょうね、はろいーなんだって。だからね、きぁちゃ、らくすちゃにへんしーしたのよ」

「そうなんですか〜。ハロウィンなんでしたら、キラちゃん何か言うことがないですか?」

「あっ!とりっくりーと!!」

「はい。じゃあこれどうぞ」

「あーと!」

「ゆっくりお茶、しましょうね。キラちゃんの好きなココアで」

「ここあ〜」

「ええ、約束です。」

 

にっこり笑いあって指きりをしている二人に俺はなんとなく面白くない。

キラの一番好きは俺なのに。

 

「…ひと段落したところで、だな」

「なんですか、僕とキラちゃんの邪魔をしないで下さい。犬」

「い…っ」

「ま、まあまあ…」

「……まあいい……他の奴らを見なかったか?」

「ディアッカなら食堂で見ましたよ」

「でぃあ〜?」

「行くか?」

「あい」

 

キラがとたとた歩き出したので、後ろを付いて歩く。

抜かしてしまうとキラは意地になって俺の前へ転ぶのに小走りで出るから。

後方で、ラスティがニコルにお菓子を強請っていた。

…お前の方が年上だろう…

 

 

 

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