かぼちゃの日★みに★3
てくてくと、ハロの杖を振りながらご機嫌で歩くキラ。
なにやら、呪文のようなものを呟いている。
たぶん、『マジカル☆ラクス』の呪文なんだろう。
なんていうか、微笑ましい。
「まってよ〜〜」
「う?らしゅ?」
「置いていくなんてヒドイっ」
「ひどいもなにも…年下にたかるなよ…」
「今日はハロウィンだからいいんだよ」
「どーゆー理屈だよ…」
いつもいつも自分で持ち込んだのがなくなると誰かにたかるくせに何を言ってるんだか…
大抵被害にあうのは俺かニコルだ。
俺はキラ用のおやつをそれこそ大量に持ち込んでいるし、ニコルはお茶をするのが日課になってるから
結構まめに補給物資を頼んでいる。
まあ、ニコルにたかると後が怖いしな…
それでもたかろうとするラスティは怖いもの知らずとしか言いようがない。
「ミゲルにキラじゃん。なにお前らその格好」
「でぃあ〜」
「今日はハロウィンだろ」
「仮装パーティでもあるわけ?」
「…にたようなもんだな。言い出したのはそこのかぼちゃだ」
「かぼ…?おおっ!?」
俺がディアッカの後ろ示すと、つられる様にディアッカも後ろを向く。
そうすると、ディアッカの目に映るのは巨大なかぼちゃ。
突然現れた(ように見える)かぼちゃに驚くディアッカ。
実際はラスティが気付かれないように背後に移動しただけだ。
「Trick or
treat!」
「その声、ラスティか…?」
「That's right!!」
「きぁちゃも〜〜!とりっくりーと!!」
「そーゆーわけで、ディアッカ、Trick or
treat!」
「とりっくりーと!」
「だーーっ!わかった!わかったから二人で迫ってくるなっ!!」
『わぁいvv』
語尾にハートマークでも付いてそうな喜びようだ。
キラはまだ小さいから違和感はないけれど、ラスティはなぁ…
ほんとーにキラと精神年齢同じくらいか………
「ったく…今日届いたばっかで俺だってまだ食ってないのに…」
「そりゃ悪かったな」
「全くだ。ミゲルも大変だよな〜お子様二人の面倒」
「キラだけなら苦にもならないぞ」
「…ラスティか」
「ラスティだな」
うんうんと、納得しあう。
生まれたときからラスティの面倒を見ている俺はともかく、寝食をともにしている
とはいえ、一緒にいる期間の浅い同僚にここまで性格を把握されていると言うのは
どうなんだろう。
「あ、これこの間プラントで新発売のチョコレートじゃん。食べたかったんだよね〜」
「ちょこ〜〜」
「キラも嬉しい?」
「きぁちゃね〜ちょこすきなの〜」
うっとりとチョコに目を奪われているキラ。
頬なんかりんごのように赤くなっている。
「…っ」
「でぃあ〜?」
感極まった顔でディアッカはキラを抱きしめた。
………をい。
なんかたやすく想像できるんだが…
「ミゲル、キラを欲し…」
想像したとおりの言葉を最後まで言わせず、蹴り飛ばし、キラを取り返す。
こいつも要注意人物だ…っ!
隊長といい、ニコルといい、どうしてこう…っ
「誰がやるか!!」
「う?」
「気にするな、アスランを探そうな」
「あしゅ?」
「そう」
「あしゅ〜vv」
「ラスティ、そいつ適当に転がしといてくれ」
「らじゃ!なんなら、パイロットスーツなしで宇宙遊泳させてみる?」
ラスティの一言にディアッカは顔面蒼白だ。
…ざまあみろ。俺からキラを取り上げようなんて100万年早い。
「あしゅ〜〜vv」
「よお、アスラン」
休憩室のコーヒーメーカーの前でアスランを見つけた。
嬉しそうに、その背中に飛びつく。
…やっぱり、おもしろくない。
「キラ、ミゲルも…ってどうしたんだ?その格好」
「はろいーなの〜」
「はろいー…?ミゲル…」
困ったように眉を寄せながら俺に目で訴える。
キラ語を訳してくれというあたりか。
こいつもキラと同じで視線の方が雄弁だよなぁ…
アスランのこんな顔、出会った当初からじゃ想像できない。
銀髪の同僚じゃないが、鉄面皮のいけすかない奴だと思っていたから。
思えばこれもキラ効果なんだろう。
「ハロウィンだ」
「ああ、今日…」
「だからね、あしゅ、とりっくりーと!」
にこにこしながらキラがアスランの背中から顔をのぞかせる。
キラはふかふかの頬をアスランの頬にくっつけて何が貰えるのかと目を輝かせて待っている。
「…ええっと…」
「あしゅ?とりっくりーとよ?」
「えっと…ごめん、キラ」
「う?」
「キラにあげるものがなにもないんだ…」
「はぅ…っ」
があんと効果音が聞こえてきそうなキラの顔。
アスランもそんなキラの顔を見て、似たような表情になってしまっている。
「おかし、なぁの?」
「き、きら…っ」
うるうるとキラの瞳が潤んでいく。
もちろん、わたわたとアスランは焦って、キラをあやそうとする。
…俺も最初はああだったよなぁ…
だからと言って、アスランを助けようとは思わないが。
「キラ、キラ。泣かないで。そうだ、お菓子じゃないけど、ハロなら作れるよ」
「…はろ?」
「そう。トリィの友達」
「とりぃのおともらち?」
「うん。何色がいい?」
「きぁちゃのすきないろ?」
「そうだよ。キラは何色が好き?」
「…みげちゃのいろ」
キラが、アスランの腕の中から俺に向かって手を伸ばす。それに答えて、キラを抱き上げてやると
きゅうっと俺の首に抱きついてきた。
「ミゲルの…ってオレンジ?」
「きぁちゃ、みげちゃいちばんなの。だから、だからね…」
「わかったよ、キラ。オレンジ色のハロだね。楽しみにしていてね」
アスランはキラの頭をひとなでして、休憩室を出て行った。
これから徹夜でキラのために作るんだろう。
嬉しそうにハロと遊ぶキラが容易に想像できて頬が緩む。
…それにしても、俺が一番だからオレンジが好きだなんて。
ものすごい殺し文句だ…
「キラ、いつまでもベソかいてないで、イザーク探そうな」
「いじゃ?」
「そう」
「いじゃはおかしくれゆ?」
「ああ。キラが来るの待ってるよ」
「ほんと?」
「ああ」
「きぁちゃ、いじゃみつけゆの」
「そうそう。その意気だ」
民俗学に詳しい銀髪の同僚は、今頃厨房を借り切ってキラのためのおやつを
製作中だろう。
“ちびに添加物ばかり食わせるな!!”
と怒鳴られたことは記憶に新しい。
「…いじゃ、どこ…?」
探す場所がわからず、キラは困ったように首をかしげた。
「いじゃ〜」
ハロ杖をふりふり、あっちの部屋をのぞき、こっちの部屋をのぞく。
しらみつぶしに探すことにしたらしい。
イザークのいる場所は間違いなく厨房だけど、キラのその仕種が可愛らしくて、
しばらく見守ることにする。どうせ、このまま行けば厨房だし。
「いじゃ〜、いじゃ〜、いじゃ〜く〜」
猫の子を呼ぶような感じで、ついに厨房にたどりつく。
同じ調子で覗き込んだキラの身体がふわりと浮かんだ。
「ちび…、俺の名を安売りするな!」
「あ〜、いじゃ〜〜vv」
イザークが猫の子よろしく、キラの襟首を掴んで持ち上げていた。
キラはと言うと、イザークと視線が合うのが嬉しいのかご機嫌だ。
「ミゲル!ちゃんとちびの面倒を見ていろ!保護者だろう!!」
「お前だってラスティと同レベルの保護者だろ」
「な…!?」
「違うのか?」
「…っ もういいっ!ちびを連れて食堂で待ってろ!!」
「はいはい。行くぞ、キラ」
なんだかんだ言って、きっちり保護者の自覚あるんだよな、イザークは。
でも、それを認めたくないから、キラのことをちびとか言っている。
…まあ、保護者の自覚がなかったら、キラにおやつなんか作ったりしないだろうけど。
「う?いじゃ〜とりっくりーと!」
「わかっている。今作ってるからおとなしく待ってろ」
「ちなみに、今日はなに?」
「…ハロウィンだしな。パンプキンパイだ」
「ぱんぴゅぴん…」
パンプキンと言えないキラに苦笑する。
いくらたくさんしゃべれてもキラはまだ小さいし、仕方がない。
早く大きくなってたくさん話せたらと思うけど、実際そうなったらきっと寂しいし。
「かぼちゃだよ、キラ」
「かぼちゃん〜」
「そういうことだ!おとなしく待ってろ」
「あい!!」
食堂の、キラ専用(ラスティが作った)の椅子に座らせてやると、キラは早速戦利品を確認しだす。
クッキーにチョコにキャラメルにキャンディ。
色とりどりのお菓子がテーブルの上いっぱいに並ぶ。中には、いつ貰ったのか分からないものまであった。
…胸焼けしそうだ…
「キラ、オレンジジュースとりんごジュースどっちにする?」
「きぁちゃ、りんごちゃん〜」
「わかった」
ハロウィンをしだしてから、何もキラに飲ませてないことに気付いて、ドリンクを取りに行く。
お菓子を貰うのに夢中で喉の渇きに気付いていないんだろう。
キラのりんごジュースと、自分にコーヒーを入れて戻った。
「キラ」
「んにゅ…」
「キラ?」
再度呼びかけてみても、返ってくるのは意味のない言葉で。
ほんの数分の間にキラは熟睡してしまっていた。
「…あれだけはしゃげば疲れるか…」
ラスティと同じようにキラははしゃいでいたから、疲れるのも当然だ。
だいたいにして、ラスティや俺と体力の差が違う。
「…とりっくりぃと…」
「夢の中まで貰ってるのか」
ふにゃふにゃ言いながら眠るキラの頭を撫でてやる。
そうしたら、キラが笑う。
その笑顔に嬉しくなった。
キラが風邪を引かないように。
俺の、短い緑の上着をかけながら、
キラが起きたらイザークお手製のパンプキンパイを皆と一緒に食べようと思った。
…ただし、誘ってやるのは、かぼちゃ大王とイザークとニコルとアスランだけだ。
隊長とディアッカは俺のキラには悪影響だからな!!