かぼちゃの日★みに★

 

 

 

「で〜きたっ」

「ラスティ?」

 

ラスティのえらく機嫌のいい声に端末をいじっていた手を止めて、ラスティの方を向いた。

そこにはかぼちゃのはりぼてを頭からかぶって黒いマントを身に着けたラスティ。

 

「…なにやってんだ?」

「何って、今日はハロウィンだよん」

「ああ…」

 

好きだよなあ…、こいつ。

…お菓子が貰えるから当然か

キラと精神年齢あんま変わんないよなあ…

 

「ねえ、キラは?」

「もうすぐ帰ってくるだろ」

 

トリィを連れてほてほてと散歩に出て行った幼子。

一人で歩かせられるのはひとえに、アスランの作ったマイクロユニットがあるからで。

カメラとレーザーがついているキラの頼もしいボディガード兼友達だ。

端末のモニターを切り替えると、俺たちの部屋のプレートが映る。

 

「…帰ってきた」

「ほんと?」

「ああ」

「たーぃまなの〜」

 

ごきげんで部屋の中に入ってくる。

俺も、椅子をくるりと回転させてキラを待つ。

……が、いつまでたっても飛びついてこない。

見ると部屋の入り口でぴしりと音がしそうなくらい固まっていた。

 

「…キラ?」

 

不思議に思って声をかける。

そうするとあっという間に顔の半分は目じゃないかと思うくらい、大きな紫の瞳からぽろぽろと涙が零れる。

 

「き、き、きらっ!?」

「キラ?」

 

俺も驚いたが、一番焦っているのはラスティだ。

泣いているキラを抱き寄せようと手を伸ばす……。

 

「……ひ…っ」

 

か細い悲鳴をあげて、キラはラスティから逃げた。

 

「なぁんでだよぉぅ……」

 

ラスティは手を伸ばした状態で固まっている。

…ショックだよなぁ…泣かれるばかりか、逃げられてんだから。

 

「どうしたんだ?」

 

足にべったり張り付いたキラを膝の上に抱き上げて問いかける。

 

「…っく…かぼちゃんのおばけ〜〜」

 

しゃくりあげて、それだけ言うとうわあああんと大声で泣き出してしまった。

 

「…ラスティ、そのはりぼてだ」

「ええっ!?自信作なんだよ!?怖くないだろ?」

「いやぁああん」

 

ますますキラは俺に抱きつく。小さな、もみじのような手が白くなってしまうくらいに

俺のシャツを握り締める。

 

「泣くなよ、キラ」

 

ラスティがはりぼてを脱いでいる間に、キラの手をシャツから離させて、強く握ってしまったがために、白く、体温の下がった指先に11本キスを贈る。

 

「みげちゃ、くしゅぐったぃの〜」

 

さっきまで泣いていたのにそれだけでくすくす笑い出す。

…地球の天気みたいだよなぁ…

 

「キラっ」

「らしゅ〜」

「きらぁvv」

 

かぼちゃを脱いだラスティにキラは嬉々として飛びつく。

かぼちゃ=ラスティなんて露ほどにも思っていないんだろう。

というか、気付いてない…?

 

「きら〜、俺のこと嫌い?」

 

黒い衣装はそのままに、キラを膝に座らせながら首を傾げる。

 

「…そんなにショックだったのか」

「あたりまえ!!」

「ぅ?」

「俺のこと好き?」

「しゅき!!」

「何番目?」

「ぁぅ…みげちゃのつぎ!」

 

しばらく考えて、笑顔で答えた。

はっきり言って、嬉しい。

キラをひきとってすぐは、煩わしいだけだったのに、感情の変化に

自分でもびっくりだ。

それにしても、なんでこんなに可愛いんだろう。

きっと俺はこの笑顔を護るためならなんだってできてしまう。

 

「…アスランは?」

「あしゅ?」

「そう。何番目?」

「みげちゃのつぎ」

「じゃ、イザーク」

「ぃじゃ?みげちゃのつぎよ?」

「…ミゲルだけ特別ってことじゃないか…わかってたけどさぁ…」

「当然だろ。それよりハロウィンするんだろ?」

「はろいー?」

「そうだよ。ハロウィン。お菓子、好きだろ?」

「しゅきーvv」

 

小さな手を興奮して赤くなった頬にあてて、うっとりしているキラに、俺とラスティは顔を見合わせて苦笑した。

 

「でもな、キラ。変身しないとお菓子は貰えないんだ」

「へんしー?」

「そう、こんな風に」

 

言いながらラスティはキラの目の前でかぼちゃを被る。

 

「きゃぁあ〜かぼちゃんのおばけぇ〜〜」

 

再びしがみついてぴいぴい泣き出すキラを宥めながら、あれはラスティだと説明してやる。

キラの目の前でラスティがかぼちゃを脱ぐと、納得したのか泣き止んだ。

 

「らしゅ、かぼちゃん?」

「そうだよ。キラはなにになりたい?」

「きぁちゃはね〜うちゅーたんてーこにゃー!」

「宇宙探偵コナン?」

「ぁい!」

「宇宙探偵の変身セットはないなぁ…。」

「こにゃ、ない?」

「うん。でもキラの好きな『マジカル☆ラクス』ならあるんだけど」

「らくすちゃ?」

 

…『マジカル☆ラクス』…

プラントのアイドル、ラクス嬢がモデルの子供向けアニメを思い出す。

確か、マジカル☆ラクスの衣装はひらひらしたミニのドレスだったような…

 

「ほらっ」

 

ひらひらでふわふわのドレスをラスティがキラに見せていた。

真っ白で、レースがいっぱい付いていて、胸元にはリボンが付いていてそのリボンの中心にはラクス嬢のシンボルと言っても過言ではないピンクのハロ。背中にはぬいぐるみみたいな羽が付いている。

プラントの自宅でキラに付き合って見た『マジカル☆ラクス』の衣装に間違いない…

…なんであるんだ…?

 

「らくすちゃ〜」

「これでいい?」

「きぁちゃ、らくすちゃ?」

「そうだよ〜、ほら、ハロステッキもあるんだよ〜」

「はろ〜」

 

今度は、羽の生えたハロが付いている杖をだす。

…どうしてこう、次から次へと持ってきていないものが出てくるんだ!?

 

「……ラスティ」

「ん〜」

「その服と杖はどうしたんだ?」

「服はミゲルのおかーさんが送ってくれた。杖は俺が作ったのvv」

「…誰宛に…?」

「もちろん俺宛。ミゲル宛にすると送り返すでしょ?」

「当たり前だ」

「だからだよ。『マジカル☆ラクス』の衣装を着たキラの写真送ってねって」

「…おふくろ…」

「謎が解けたところで、はい、ミゲルの変装セット」

 

犬の耳と尻尾を渡され、ラスティの悪意のある笑顔と、キラの嬉しそうな笑顔に、何度目かわからないため息をついた。

 

 

 

Go to next