今月の『諸葛孔明 時の地平線

★『flowers』2003年3月号(2003年1月28日発売)

曹操軍との決戦に向けて乾坤一擲の作戦がとうとう始まった。万に一つの失策も許されない地点まで来て、士元の行動が大きな問題となり孔明にのしかかる。旧友を信じて孔明は大きな賭けに出た。

・誰が何と言おうと今月号のキーは士元です!(管理人は士元ファン♪)何ヶ月もの間疑問だった彼の気持ちや行動が少しずつ明らかになってきた感じがしますね。長い間「雛」だった鳳凰がとうとう真の姿になっていくところを見られた気がして、ファンにとってはこの数ヶ月のストレスが軽減。来月号で更なる展開が見られることを期待します。赤壁の戦いにおいて士元が果たす大きな役割もあることですし。(私はこのために曹操に接近していたのかな、と思っていたんですが、ネタバレのため詳しくは書けません。諏訪さんがこのエピソードを使われるかどうかもわかりませんし。孔明が士元に渡したメモが関係しているのでは、と思いますが。)

・それにしても後半、孔明と士元の火花が散るやりとりは読んでいてこちらもどきどきしてしまいました。二人とも言葉の表と裏にいくつもの意図を隠しての丁々発止の渡り合い、手に汗握る緊張感は今までの諏訪作品にはなかったような。誠意を尽くして率直に語り合う、というのは『玄奘西域記』のクライマックスや「シノワズリシリーズ」のラストにもありましたけど。

呉の家臣団に会ってからはほとんど髪を結っていた孔明が、この場面ではあえて以前の無造作に束ねた髪で士元に会ったのも印象的でした。

・そして今回一番印象に残ったのは、『紀信』以来諏訪さんの作品に連綿と流れている、「人を・己を信じることの尊さ、大切さ、それゆえの重さ」ということでした。孔明が士元を信じたのは自分の判断をも信じたことであり、その責任はよくも悪くも自分で取らなくてはならないのですね。また自分の信念の元に行動していた士元もその責任は取らなくてはならない、たとえ孔明が考えたように「残酷なこと」だとしても・・・。

★『flowers』2003年2月号(2002年12月27日発売)

孔明は呉の周瑜との共闘によりいやおうなく戦への道に踏み込んでいき、自分の人生を選び歩いていくことに強い覚悟を見せる。一方士元の不審な言動は子竜の目にもとまっていたが、それは曹操との情報を介したつながりからきたものだった。歴史に残る「赤壁の戦い」を間近に控え、さまざまな思惑が交差する。

・というわけで数ヶ月にわたる「士元の謎の言動」、理由の一端が明らかになったわけですが、なぜ彼がそういう行動をとるようになったのかは依然謎のままです。「なぜやってきた」と曹操に問われて一応の答えはしているけど、それだけとは思えません。再登場してからずっとお酒を飲んでばかりいるし、やはりなにか事件があったのでは。「ホウ家の存続」という言葉が鍵かな、と思っているんですが。そういえばいとこの山民と奥さん(孔明の妹)の隴があれっきりというのも気になります。そのへんがからんでいるのかなー、なんて・・・。

・張飛もお酒が好きなことでは有名で、今回もそれをうかがわせるエピソードが出てきました。豪放磊落なだけかと思わせるキャラクターですが、実は彼なりの繊細なところがある、というのがちらっと見えるようです。孔明は「ナイーヴ?あの人が・・・」とつぶやいているけど、周囲にわかりやすいかたちで表面に出てこないだけですよね。

・以前から蜀の人たちはお互いを家族のように思っているのだな、と感じていました。劉備、関羽、張飛は義兄弟で子竜も弟のようなものだし、きっと彼らは孔明のことも家族だと思っているのでしょう。子竜の姉に対する劉備の態度もそうです。そして彼らは自分の身近にいる人だけでなく、蜀の民にも多かれ少なかれ同じような気持ちを持っているに違いありません。

ここが曹操と一番違うところで、彼は「自分の身内」と感じる範囲がとても狭いんですね。だから側近だろうが農民だろうが不要と感じたら躊躇なく切り捨てるし、「腐ったやつらを一掃」という考えも出てくる。でも一人の人間の中に強さ・立派さ・弱さ・愚かさは同時にあるものだし、もちろん自分の中にもあることに気付かない。 「腐ったやつら」の中にもあるいいところをすくいあげようとはしない。曹操は一見とても強い人物のように見えます。たぶん自分でもそう思っているでしょう。逆に孔明は戦を嫌い、人を殺すことを避け、剣は使わないと明言する弱い人間のように見えるかもしれませんが、自分の中にある弱さや愚かさと正面から向き合うという点において、実はとても強い人なのだと思います。

・今回の士元と曹操の会話を読んでわかったのは、曹操(と孔明、たぶん周瑜も)は軍事・民政あわせて「政治」という観点から世界を見ているんだけど、士元は「経済」という観点から見ているんですね。以前作品紹介番外編の「フェアトレードとぼっちゃま」でも書きましたが、あの番組を見てすぐに士元の言葉を思い出したのも納得です。


★『flowers』2003年1月号(2002年11月28日発売)

瀕死の重傷を負った孔明だが、偶然江東を訪れていた許嫁・英に発見される。生死の境をさまよう彼のもとにやってきた医者は、安期生により曹操の手から逃れた華陀だった。一命をとりとめた孔明はついに曹操に対する反撃に出る。

・結局刺客を送った犯人はまだわからないんですね。諏訪さん、引っぱるなあ。でも状況証拠がすべて士元を指しているということは、実は真犯人は全く違うところにいるという可能性も考えられます。あっと驚く真相が待っているのかも・・・。(士元ファンの希望的観測か?)

・今回オールスター総出演の趣がありますが、『三国志』中で一、二を争う美女、小喬(しょうきょう)も一コマだけ登場ですね。(p295、2コマめ。周瑜の奥さんです。)

北方版『三国志』によると、市中で評判の美人姉妹だった大喬・小喬に一目ぼれした孫策と周瑜が、2人を誘拐して来てそのまま奥さんにしちゃったんだそうです。涼しげな2枚目のくせにやることは結構無茶じゃございません?

・しかし女性キャラといえば今回のスター(?)は何と言っても英さんでしょう。瀕死の婚約者を発見してもあわてず騒がず適確な行動&状況把握&発言。『時地』キャラの中で一番大人なのは実は彼女かもしれません。「人にはな・・・人を守って支える時期もあれば、人に支えられて力を発揮する時期もある」(『諸葛孔明 時の地平線』3巻より)という黄先生の言葉がそろそろ実感となってきたような気がしますね。

・それにしても、とうとう孔明が「降りかかる火の粉を払う」だけでなく、積極的に攻撃に打って出ることになる後半の展開を読んで、私はとってもつらくなりました。

これまでだって彼は「死んだ人・残された人の痛みや悲しみを抱えていく」と思っていたけれど、今までの戦はすべて、「向こうが攻めてきたから受けて立つ」というもので、その結果何万人と殺したり犠牲者を出したりしても、読者もまだ「しかたないよね・・・」と冷静でいられたのです。でも今回積極的に「敵の将軍を殺す」という策を取ってしまったわけで、その「もう戻れない一歩」を踏み出してしまった孔明の心中を思うと。今まで以上に「一生その痛みを引き受けていく」という彼の覚悟が感じられて、ああ、とうとうここまで来てしまったんだなあ、と、ちょっと泣きそうになってしまいました。

・余談ですが、諏訪さんが欄外のメッセージで「高校時代スティーブン・タイラーのファンでした」と書いてらっしゃいますね。私も同じ頃エアロスミスのファンでした。今でも現役でバリバリ活躍中のバンドですが、個人的には当時のアルバム「ROCKS」(3枚目・76年リリース)が一番好きだし、アメリカンハードロックが到達し得た最高峰の一つだと思っています。全編むちゃくちゃハードなんだけど決してヘヴィーではない、ものすごく疾走してるんです。次の「DRAW THE LINE」になるともう重くなっちゃってるんですが。唯一のスローバラード「HOME TONIGHT」も、メロディライン・歌詞共に泣ける美しい曲なんですが、これもハードロック以外の何物でもない、というすごいアルバムです。彼らのスタイルが後のロックバンドに与えた影響も計り知れないものがあります。興味がおありの方は聴いてみて下さい。今でもCDで売ってます。

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