5 ノロ搾り

 出来た鉄の塊には還元作用を受けた時に、地鉄の一部が酸化してノロとなり底の部分に固まって付着していますが、一部は塊の隙間に入り込んでいます。質の良い包丁鉄や鋼を作るにはこのノロを絞り出す必要がありますのでこの作業が必要になります。

 まず、出来た塊が熱い内に槌で打ち、まとめやすい形状にします。それをアク(藁灰)で包んで、更にその上から泥水をかけ表面を覆い火床に戻します。大量の松炭を地鉄に被せ強く加熱します。この作業では本場で使った炭よりやや小さく切った炭を使います。ここで地鉄の表面をアクや泥水で覆うのにはそれなりの理由があります。この後、炉の中で加熱されて溶けたアクや泥は地鉄の表面を覆い、地鉄が直接空気に触れないよう表面を保護する働きをしているのです。この働きにより地鉄を芯まで加熱する事が出来るようになります。アクや泥はちょうど天婦羅に付ける衣の様な働きをしている訳です。又、アクや泥は比較的融点が低く、下げの途中で出来た酸化鉄のノロと溶け合い、地鉄から分離しやすくすると云う重要な働きも有るようです。ちょうど「たたら」における釜土が良いノロを作る助けをしているのと同じと考えられます。

 実際の作業においては、地鉄は火床の中で回転させて全体をまんべんなく加熱するように心掛けます。十分温度が上がり地鉄の表面に付いた泥やノロが溶けて滴り落ちる様になると、炉から取り出し動力ハンマーで、四方八方から叩き締めてノロを搾り出します。この作業中に、時には地鉄の中からノロがニュルニュルと出て来る様子を確認する事も出来ます。この作業を四〜五回繰り返すと、かなり目減りしますが、出来た地鉄はきれいな鉄の塊となります。

  
ノロを搾り終えた地鉄

 私の工房では、出来た地鉄は最後に扱いやすいように二つに切り分け、次の水ベシの作業にまわしています。地鉄の目方はこの段階で概ね600匁台になっていますから、最初の材料の3分の2程度の歩留まりという事になります。

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