平成21年7月1日 ちょっと情報を仕入れてきました

 先週の週末からちょっと無理をしてに東下りをしてきました。6月の初めの日刀保の新作刀展覧会の見学以来3週間ぶりの事です。今回の主な目的は鉄鋼協会のフォーラムに参加する事でしたが、例年この時期カレンダーを制作しますので、付き合いの有る刀屋さんに挨拶回りをしたりと、営業活動にも精を出して参りました。このサイトを見ている人の中にはよく行っている人も居るかと思いますが、鴬谷の平成名刀会にもカレンダーを置いてきましたので、覗いてみて下さい。それから、普段田舎にいては会う事のないこの業界の関係者にも何人か会う事が出来ましたので。仕入れて来た現在の刀剣界の事情も少し書いてみます。

 このサイトにも時々書いていますが、日刀保の問題が表面化してここ数年、色々な事が有りました。日刀保の運営に異を唱える刀職者を中心とした人達は日刀保と袂を分かち、昨年暮れには日本刀文化振興協会(略称 刀文協)という新しい団体を立ち上げて法人格をとりました。当面、刀文協は日刀保の様な古い刀の審査などは行わない様ですが、現在は多くの刀職者や関係のある団体・個人に対して入会の勧誘活動をしていて、会の組織固めに力を入れている様です。

 また、日刀保から出て行った刀職者の団体は二年前から、夏から秋にかけて独自にお守り短刀展と名をうって現代刀や外装の展覧会を開催する様になりましたが、更に、来年からは刀文協が主催となって新作刀の展覧会を開催するそうです。この展覧会は文化庁の後援を得て文化庁長官賞ももらえる様になるそうです。これは大きな看板を獲得した事になります。まあ権威のある展覧会が二つある事それ自体は悪い事ではなく、むしろ良い事だと思います。ただ、来年は日刀保の展覧会と同じ頃に新作刀の展覧会を企画しているとの事で、この辺はかなりきな臭く感じます。

 また、独立間もない若い刀鍛冶には、同じ時期に二つの展覧会に作品を出品する事はかなり苦しいものが有ります。刀を仕上げるには研ぎ代などかなりの出費が必要です。しかしこのご時世、無鑑査や特賞常連組の刀鍛冶ですら刀を売る事には苦戦しています、ましてや、若い刀鍛冶の作品が右から左に売れるとは限りません。作品を出品してもその作品は不良在庫になる可能性が高いのです。これでは、多くの刀鍛冶にとってはどちらの展覧会に出品するのか、どちらの会が大切なのか態度を示す様に迫られている様な物です。間に立つ刀職者もきついですが、もうここまで来ると二つの団体は抜き差しならない所まで来ている感じです。

 この分裂状態は他にも刀職者の間に色々な影響を及ぼしています。例年なら春先は日刀保のコンクール用の仕事で大変混雑していて、コンクールに関係のない私の仕事などなかなかしてもらえない職人さんも多いのですが、今年は全くすいていたりとか、(まあそういった場合は私は助かるのですが。)日刀保側に立つ刀鍛冶や職方さんと反日刀保側の刀鍛冶や職方さんとはしっくりいっていない状況が有る様です。ある刀鍛冶がいつも頼んでいる研ぎ師さんに「日刀保の展覧会に出品する刀ならうちは研がない」と断られたとか聞いていますが、それが個人的な考えで行われているうちはまだましなのですが、上からの締め付けでそうなっているとしたら大問題です。上に立つ人達の争いで、せっかくうまく行っている職人のネットワークを壊す様な事が有ってはいけません。

 私はかねがね思っているのですが、職人は一人一人が独立して存在をして、それぞれのネットワークで仕事を進めていると考えています。お役所の様な組織に縛られて仕事をしている訳では有りません。しかし今回の騒動ではその弊害が隅々の刀職者にまで及んでいるようです。上に立つ人達は、本来影響を受けてはいけない末端の刀職者の事をもう少し考えて考えて行動をしてもらいたい物ですね。これまでうまく行っていた職人のネットワークを壊さないと、業界の体質の改善とか新しい形を作る事が出来ないのでしょうか?

 また騒動の中身が良く見えない一般の刀の愛好者には、刀剣界のごたごたもめている事だけが目立ち、業界全体のイメージダウンにも繋がると思います。この事は経済状況が悪い現在、刀剣商の人達も問題視しています。東南アジアの諺に「象が喧嘩をすると被害を受けるのは周りの草木だけだ。」と云うのが有るのだそうです。今の状況はまさにそんな感じですが、象の喧嘩を遠くから眺めている私が言うのは説得力が無いかも知れませんが....。それでもこの業界の片隅で仕事をしている私は、ぼやきを言わずにはいられません。まあ、こんな事を書いていると、どちらからも睨まれるだけかもしれませんがね。

 また新しい情報が入れば続きを書いてみます。

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