平成20年4月1日 ちょっと困った問題が起きています。

 ちょっと最近、日本美術刀剣保存協会と刀職者の間でややっこしい問題が起っている様です。どうやら日刀保が実施している重要刀剣などの審査で、不正が有ったのどうのという事で、昨年その事が国会で取り上げられて、文化庁から日本美術刀剣保存協会に改善命令が出たとか出ないとか。この辺りの委員会の様子は、国会のビデオライブラリにインターネットでアクセスすると観る事が出来ます。

衆議院のビデオライブラリー 
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.cfm

平成19年3月1日
衆議院予算委員会第4分科会
共産党の佐々木憲昭議員が取り上げ、伊吹文部大臣(当時)に質問

平成19年3月16日
衆議院文部科学委員会
保坂展人議員が取り上げ、伊吹文部大臣(当時)、文化庁次長が答弁
伊吹大臣、文化庁は、今年度末(要するに3月末まで)に改善案を出すことを強く指導し、そうでない場合は協会に解散命令まで出すような雰囲気で答弁しています。

平成19年3月27日
衆議院文部科学委員会
佐々木憲昭議員と保坂展人議員が質問し、参議院の文教科学委員会でも鈴木寛議員が取り上げた。
伊吹大臣(当時)も文化庁にはいらだっているようで「文化庁の次長には、もう決着をつけろと指示してある。大臣の指示に従えない次長なら、それは次長が自らの進退は判断することだから、指示通りに仕事をすると思う」と強い調子で答弁しています。

 でも日本美術刀剣保存協会は十分な改善を行わなかったようで、文化庁はしびれを切らし、去年の新作刀展では後援を取りやめてしまいました。当然、新作刀展では文化庁長官賞が無くなり、それにつれて高松宮記念の賞も無くなり、文化庁の後援が無いという事で、公共施設である大阪城での展覧会も無くなったとの事です。この事は去年の展覧会をご覧になった方はご存知かと思います。また、国庫補助事業であるたたらの運営にも悪影響が出ている様ですし、その上、去年は文化庁による新人刀鍛冶の講習会も開かれませんでした。この講習会に参加しないと、刀鍛冶の弟子は刀匠免許をもらえないのです。刀鍛冶を目指して何年もの間勉強して来た人たちには大変迷惑な話です。(去年の分の講習会は今年の5月に刀匠会の協力で、場所を変えて開かれる事になった様ですが。)それやこれやで、多くの刀鍛冶や刀職者は元々日刀保の下部組織に所属していたのですが、協会に自浄能力が無いと判断して、愛想をつかして日刀保から出て行ってしまった様です。

 これに対して、日本美術刀剣保存協会の機関誌の「刀剣美術」の記事に依りますと、日刀保は新たに刀鍛冶をはじめとする刀職者の組織を日刀保内に作る様で、今はその会員を募っているようです。私は一応日刀保の会員では有りますが、以前よりその方針には色々と疑問を持っていましたので、日刀保からは距離を置いていましたし、日刀保の言いなりだった当時の刀匠会からは、既に数年前に退会していますので、この件についてはあまり細かい情報は入ってきません。でも外から見ている限りでは、日刀保から出て行った急進派の刀職者と、今までの体制を守ろうとしている日刀保、そして双方に付き従う刀鍛冶やその他の刀職者の間で、中間派の刀鍛冶や刀職者を間に置いて綱引きをやっているように見えます。引っ張られる側の刀職者にしてみれば、皆それぞれに師弟関係や付き合いも有りますから、悩ましい問題だと思います。特に刀鍛冶に対しては、日刀保は刀鍛冶のアキレス腱とでも言うべき玉鋼の供給元でありますから、この件に絡めて無言の圧力をかけて来ています。

 そんな訳で最近になって私の所にも、日本美術刀剣保存協会から「貴方は我が日本美術刀剣保存協会の伝統技術保存部会の中の刀鍛冶の会に入会されました。」と通知が有りました。この部会に入りたくない人は、3月末日までにその意思を書面にて提出してくださいとの事でした。文書で入会拒否を表明しない限り、自動的にこの部会に入会させられてしまうとは、ちょっと驚きですが、まあ旗色をはっきりさせる為の踏み絵みたいな物ですかね。これには私も少々あきれてしまいましたが、まあこんな調子で、どちらに付くか迫られている刀職者の皆さんは、気の毒というか迷惑な話ですね。

 でも私が思うに、刀鍛冶を含めて中間にいる多くの刀職者は、ちゃっかりとどちらにも所属して、双方で開催する展覧会などの催しに出品したりして、成り行きを見守るのではないかとも思います。多くの人たちは、どちらか一方に忠誠を誓い危ない橋を渡るより、どちらにでも付ける様にして様子を見ているというか、かなり現実的で、したたかな対応を取るだろうと思うのですが.........。それに全体として見れば、コンクールは複数有る方が審査の基準が一方に偏らず健全ですし、また刀職者にしてみれば、発表する機会は多いほど良いわけですから、この事態を良い方向に取るのも一つの考え方かも知れませんね。

 とは言え今回のごたごたの根本原因は、日本美術刀剣保存協会が実施している審査をめぐる不透明さに端を発するわけですが、その後の混乱の中では、権力争いやお金が絡んでいるかの様な怪文書まで飛び交っています。この様な混乱は日本刀に対するイメージをはなはだしく悪くするのは確実ですし、大多数の真面目にコツコツ仕事をしている刀職者には、業界のイメージダウンは大変な迷惑です。この業界の指導的立場にいる偉い人達は、ここまで拡大した問題のかたをどう付ける気なのでしょうかね? 

 まあこの様に今はなんだかんだと好きなことを言っていますが、先行きを見てみると、今年の展覧会がどのような形で開催されるのかで、この問題の大体の落ち着き先が見えてくるのではないかと私は思います。今年の新作刀展の出品締め切りは4月16日に迫っています。そして表彰式の行われる展覧会初日は6月3日。それから、刀匠会主催の展覧会が8月に有るとか。それらの出品者の顔ぶれはどうなるのか。そして文化庁はどのように出てくるのか。ちょっと野次馬根性も有りで、私は事の成り行きを見守っています。

 余談になりますが、私はと言いますと、今までの経験から、つまらぬことに頭を突っ込むと、ろくな事は無いと既に学習していますので、どちらにも付かないように外から眺めていようと思います。材料の地鉄は自家製鋼で自給していますし、作品の発表はコンクールに頼らなくとも、自前で個展などを開き、発表の場を確保してきました。また、私と一緒に仕事をしてくれる多くの頼もしい職方さんもおられますし、このサイトを見て応援をしてくださる皆様もおいでです。皆様のお陰で、頼る所の無い私でも、細々とではありますが、これからも「自主独立??」をなんとか保って行けそうです。

ご意見ご感想など有りましたら、「読者の広場」等へお寄せ下さい。

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