平成20年5月28日 日本美術刀剣保存協会の裁判結果

 初めに、私は法律には全く疎い人間ですし、文章を読んだり書いたりする事もそれほど得意ではありません。以下の文章は内容が内容だけに慎重に書いたつもりですが、もし間違いや訂正すべき点が有りましたら下記アドレスまでご連絡下さい。
oyakata@sumihira.com

 東京地裁は20日、元日本美術刀剣保存協会(以後、日本美術刀剣保存協会は日刀保と表記します)の事務局長の後藤氏と職員2人が、日刀保が行った解職通知は無効であるとして訴えた裁判で、同解職通知は無効であると判断、原告勝訴、日刀保敗訴の判決を下しました。

 この裁判の本題は、元事務局長の後藤氏と職員2人が、日刀保が出した解職通知の無効を訴えた事で、それ自体は人事の問題で、私達にはそれほど関係のない問題の様ですが、その解職通知を出すに至った理由の正当性が争点になっていて、それにつれて私達にもかかわり合いの有る問題点が、色々現れてきました。ここでは、判決のうち、雇用関係に関する法律的な判断の部分は割愛しますが、大きな争点になっている、平成十三年以降、文化庁が日刀保に対して数回にわたってに出したとされる改善指導に関わる問題、刀剣美術5月号の「刀剣美術の愛読者の皆さんへ」にも取り上げられている内容を中心に書いておきます。

 この裁判における日刀保側の主張では、後藤氏ら一部の職員が平成18年になってから、ありもしない平成13年の文化庁の指導を持ち出し、それまで何も知らず重要刀剣等の審査の申請をした日刀保の理事達へ、その行為を「違反」と指摘し、文化庁へ虚偽の申し立てをしたのは不当だとする内容でした。しかし、刀剣美術にも記載の有った、日刀保側の言う「十三年問題」の全容とは異なり、裁判所の認定した事実は、平成13年の文化庁の指導は、文化庁と故鈴木専務理事個人の間だけの問題ではなく、その指導の趣旨は協会の部課長会議で幹部職員に伝達されていた事、それ以降も平成17年に同じ様な指導が有り、故橋本龍太郎会長も文化庁の指示に従う様、意見を表明していた事も明らかになりました。これにより、刀剣美術の記事の様に「平成18年5月になって、後藤氏ら一部の職員が突然、これを問題として取り上げた」というのは間違いだと裁判所は判断を下しました。

 また、平成18年5月から8月にかけては、文化庁の意向に従って、後藤氏の他、日刀保の林専務理事らが何度も文化庁へおもむき指導を受け、協会役職員とその家族は重要刀剣などの審査の申請が出来ないという項目を、刀剣審査規定に盛り込む形で改正案が作られていた事も明らかになりました。日刀保側の主張ではその改正案は、後藤氏らの作った「偽造文書」であるとしていましたから、それも間違いだったと判断された訳です。
(5月号の刀剣美術の記事では「現在、「李下に冠を正さず」の故事に習い当面の間、理事等は刀剣類の審査を申請しない。」と書ていますが、「李下に冠を正さず」の意味が分かっているのなら、最初からそれを刀剣審査規定に盛り込み、永久にそうするのが当たり前だと思うのですが、なぜそう出来ないのでしょうか?)

 そして平成18年8月、理事4人が欠席という異常な状況下で、突然開かれた緊急理事会の開催に関して、原告職員が専務理事の指示に従わなかった事や、その緊急理事会で会長に就任した佐々会長の指示にも従わなかった事も、当時の状況を考えればやむを得ないと裁判所は判断を下しています。(3人の解職通知は、緊急理事会が有ったその日のうちに発表されています。)

 その他にも日刀保側は、協会の財産管理に関して、後藤氏らは協会の規定を無視する運用を行ったと主張していましたが、後藤氏らに落ち度はないと裁判所は判断しています。また、後藤氏らが給料をお手盛りで増額したとする日刀保側の主張も、会長や専務理事の決裁は受けているとして退けました。よって東京地裁では、その他ここには書かなかった争点も原告側の訴えを支持し、後藤氏らを解職するに足る事由が無く、解職通知は無効であると判断し、日刀保側の全面敗訴の判決を下しました。

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