4、焼き入れの温度と時間

焼き入れで最も重要な要素は、焼き入れの温度と焼き入れにかかる時間です。一般的には0.8パーセントの炭素を含む鋼では、焼き入れ温度は750度前後が良いとされていますが、相対的に焼き入れ温度が低ければ匂い口は匂い出来で沸はあまり付かず、温度が高ければ鋼の粒子も大きく発達して沸の粒も大きくなります。又、焼き入れにかかる時間が短ければ、鋼の粒子はあまり大きくならず、時間が長ければ、鋼の粒子も成長して大きくなり、沸が付きやすくなります。ですから匂い出来の直ぐ刃や、丁字刃等は、短時間に低い温度で焼きを入れ、沸の付いた深い匂い口の互の目や湾れの刃は、高い温度で焼きを入れるのが一般的のようです。

実際の焼き入れでは、一々温度計で温度を計っている訳では有りません。炭が赤くなった火床に刀身を入れ、全体の温度を徐々に上げてゆき、刀身の赤くなった色を見て、思いの色になったところを見計らい、焼きを入れています。しかし細長い刀身を火床の中で短時間の内に均等に、しかも、ちょうど良い温度に赤めて、焼きを入れるのは大変難しく、相当な熟練が必要です。そこで昔から色々な方法が考え出されました。金網で細長い箱を作り、そこに炭と刀身を入れて全体に風を当てて均等に加熱して、焼きを入れる「田楽焼き」と言われる方法などは、代表的なやり方の一つです。こうして色々な工夫をこらしながら、細心の注意を払い焼き入れ作業を行います。しかし、最後は「運を天に任せ」、気合いと共に刀身を水中に沈めるのです。

出来るだけ合理的に物事を解決して行こうとしているつもりの私ですが、この時ばかりは「運を天に任せる」気持ちになってしまいます。

98.2.1

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