1、地鉄の性質

刀剣の表面は鋼で出来ています。この鋼は中に含まれる炭素とその他の不純物の量で性質が大変異なってきます。鋼に含まれる炭素の焼き入れへの影響は特に顕著で、焼き入れ後の鋼の硬さも違ってきます。

必ずしも総てにあてはまりませんが、鋼に含まれる炭素の匂い口や硬さへの影響は、大ざっぱに言って、炭素の量が多ければ硬く締った感じの匂い口に向いており、炭素の量が少なければふんわりした感じの匂い口に向いているようです。又、炭素の量が多過ぎると、焼きを入れた際に焼き割れが出たり、刃先が硬すぎて刃こぼれの原因にもなり、少なすぎると十分な焼きが入らず、刃先が柔らかくなってしまいます。私の場合、炭素の量は直ぐ刃を焼く場合0.8パーセント以下、互の目で0.6〜0.7パーセント程度を基準に考えています。とは言え、炭素の量は計測器で計っている訳では有りません。昔から、経験的に鍛練の時に手に感じる地鉄の具合などで、見当を付けています。

又、地鉄に含まれるノロは匂い口に大きな影響を及ぼします。ノロを多く含み鍛練の回数が多い地鉄は、地鉄の中にノロが細かく拡散しているため、沸が付きにくく匂い口に冴えが無く弱い感じになります。しかし有る程度のノロは地鉄に個性や表情を与えてくれるのも事実です。以上のように、目的に応じた地鉄を上手く作り出すのが、焼き入れを成功させる第一の条件なのです。

注:言う迄も有りませんが、現在の工業製品である電解鉄のような、全く不純物を含まない鉄に理想的な量の炭素を吸収させて刀を作れば、見事な匂い口の刀が作り出せます。それは下手な和鉄の刀より綺麗に出来ます。しかし地鉄や刃紋に個性や表情は有りません、そんな物は到底日本刀とは言えない贋物なのです。

98.1.18

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