製鉄の基礎知識

ここでは日本で古くから行われていた製鉄に範囲を限定して、使用する語句や鉄の出来る仕組みを、説明いたします。

鉄、鋼(はがね)、銑(ずく)

鉄と鋼と銑とはどう異なる判りますか? ここでは、純粋な冶金学的立場からは離れて、極おおざっぱな、分け方をしておきます。

鉄の中に含まれる炭素の量を基準に分類すると、殆ど炭素を含まない鉄のことを特に限定して「鉄」と言う場合があります。「鉄」の特徴は柔らかく常温でも曲げることが出来ます。赤く熱すると簡単に変形できます。又炭素を含まないため焼きを入れることは出来ません。このホームページに出てくる鉄の種類で言えば、包丁鉄(ほうちょうてつ)、錬鉄(れんてつ)、などがそれに当たりますが、混乱を避けるためこのホームページでは、炭素を含まない「鉄」、鋼、銑すべてを含む総称としてのみ鉄と云う字を使う事にします。

鋼とは大まかに言って、鉄の中に少しの炭素(1.85パーセント以下)を含む鉄のことで、特徴は少し硬く常温では簡単には曲がりません。赤く熱すると簡単に変形でき鍛造品を作るのに向いています。又、炭素を少し含むためため焼きを入れることが出来ます。完全に焼きを入れると非常に硬くなり殆ど曲げることは出来ません。無理に曲げようとすると折れてしまう事があります。この性質を利用して、特に強度が必要な物を作ったり、刃物を作ったりするのに使います。このホームページに出てくる鉄の種類で言えば、玉鋼、刀の部品の刃鉄や皮鉄などがそれに当たります。

銑、とは大まかに言って、1.85パーセント以上3パーセント以下の炭素を含み、ケイ素分が少ない鉄のことで、白銑(はくせん)とも呼ばれています。特徴は非常に硬く脆い性質をしています。無理に曲げようとすれば割れてしまいます。銑は赤く熱すると少し力を加えただけで崩れてしまいます。又炭素を多く含み過ぎるめため焼きを入れることは出来まん。焼きを入れようとすると割れてしまいます。しかし炭素が多いほど溶けやすく、溶けるとどんな形にでも鋳込めるため、鋳物の材料として幅広く使われています。

砂鉄と鉄鉱石

古来日本の製鉄の原料には砂鉄が多く使用されれ来ましたが、場所によっては磁鉄鉱(じてっこう)や赤鉄鉱(せきてっこう)、褐鉄鉱(かってっこう)なども使用されたようです。これら砂鉄や鉄鉱石は鉄分を含んではいますが、鉄そのものではありません。鉄の酸化物なのです。水素が酸素と結合して水になるように、金属の鉄は酸素と結合して酸化鉄になります。砂鉄や鉄鉱石はこの酸化鉄なのです。ですから金属の鉄とはまったく異なる物質だと考えてください。

自然界に多く存在する酸化鉄はFe2O3と Fe3O4です。赤目砂鉄(あこめさてつ)や赤鉄鉱、褐鉄鉱などはFe2O3が主体で還元(かんげん=酸化物からその成分中の酸素を取り除く事)しやすく、銑などを作りるのに向いています。

また、真砂鉄(まささてつ)や磁鉄鉱は Fe3O4が主体で若干還元しにくく、ケラ(玉鋼やその回りにある劣等鋼それに裏銑(うらずく)と呼ばれる銑などを含む、「たたら」炉の中に出来る鉄の塊のこと。)を作るのに向いています。

還元

酸化鉄の砂鉄や鉄鉱石から金属の鉄を作るには、まず酸素を取り除く還元反応を起こさなければなりません。それには反応を起こすのに十分な高温の中で、酸化鉄の酸素を奪い取る更に酸化しやすい炭素や一酸化炭素を反応させることが必要です。その炭素には、現在では石炭やコークスを使いますが、昔は日本中で簡単に作ることのできた木炭を使いました。

化学反応は以下のようになります。

300℃〜800℃では Fe3O4+CO→3FeO+CO2 

400℃〜1000℃では FeO+CO→Fe+CO2

銑押たたら

炉の中で酸化鉄から鉄は作れても、それだけでは金属の鉄としては使えません。炉の中には鉄以外の還元しきれなかった酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニュウムなどが一緒に混じって存在しています。この不純物を「のろ」又は「スラグ」と言います。この「のろ」を分離しなくてはなりません。鉄と「のろ」を分離するには、両者を溶けた状態にします。「のろ」は融点が低いので、わりあい簡単に溶けた状態になりますが、炭素を含まない鉄はそのままでは1500℃という高温でも、柔らかくはなってもどろどろには溶けません。しかし鉄にはおもしろい性質があります。高温で周りに炭素が多い還元雰囲気の中では、炭素が鉄の中にしみ込んで行きます。

化学反応は以下のようになります。

900℃以上では 3Fe+C→3FeC

そして炭素を吸収した鉄は性質が変わり融点(ゆうてん=溶ける温度)が低くなります。炭素を3%も含めば高温の炉の中では、どろどろした液状になってしまいます。そうすればお互いの比重が違うため、重い鉄は炉の底に溜まり、軽い「のろ」は池の水のように鉄の上に溜まります。その「のろ」を池の水を流すように炉の外に流し出してやれば、「のろ」を分離することができます。こうして炉の底に溜まった炭素を多く含む鉄が銑です。そして、この銑を作る「たたら」を「銑押たたら」と呼びます。

ケラ押たたら

又、別の方法では、炉の中で銑ほど多くの炭素を含まない鉄を作り、完全に溶けた状態にはせず、「のろ」の池の中で、柔らかい状態の鉄どうしがお互いにくっついて塊になるようにし、徐々に大きな鉄の塊を炉の中で作ります。「のろ」は融点が低いので炉の中では、鉄の塊の周りにどろどろに溶けた状態で溜まります。余計な「のろ」を炉の外へ流し出してやれば、鉄の塊と「のろ」は分離できます。こうして出来た鉄の塊がケラです。そしてこのケラを作る「たたら」を「ケラ押たたら」と言います。

97.7.31

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