Junji Matsuo
 

私の住宅設計論
はじめに

家は三度建てないと本当に満足出来るものにならないと言われています。
それほど、家づくりは難しいということだと思います。
しかし、一生で三度も家を建てられる人は非常に稀で、ほとんどの人にとって、家づくりは一生に一度の大事業です。
これを成功させるには、よい建築家や施工会社との出会いが必要です。

 1   住宅メーカーと建築家
更新日時:
2007/09/01 
住宅メーカーに依頼すると、住宅は商品として扱われ、個人的な特殊な希望に対しては高額な対価を求められる上、必ずしも夢が100%実現するわけではありません。
その意味では、経済合理主義と商業主義の色が濃い製品を選択し、購入するという感覚ではないでしょうか。
一方、建築家と建てる家は、住宅メーカーにはない手づくりのよさがあります。
建築家は、素人では考えもつかないような空間や間取りを建築主の予算に合わせてつくる能力があります。
それこそ無限に近い選択肢の中から、世界で唯一であり、初めてであるその建築主にとって最適な住宅を創り出すことが出来ます。

 2   家づくりは家庭づくり
更新日時:
2007/09/01 
私は、家づくりは家庭づくりであると思っています。
その家庭づくりの第一歩は結婚です。
極端な言い方をすれば、家づくりを住宅メーカーに任すことは、自分の結婚相手を人に依存するようなことだと思います。
建築家とつくる家は、建築主が建築家の住宅観を知り、自分の夢を語り、それを実現するために、協同で力を合わせることとなります。
その意味で、よい建築家との出会いは、よき伴侶との出会いと似ています。
それはよりよい相手を求める積極的な気持ちや行動によってもたらされるものです。

 3   住宅設計は楽しい
更新日時:
2007/09/01 
私は、これまでに自邸を含め、いくつかの住宅を設計して来ました。
確かに、家づくりは難しいと思います。
しかし、ほとんどの人にとって、家づくりは一生に一度の大事業である以上、建築家には満足のいく家づくりのための知恵と努力が求められています。
これまで私は長年建築の仕事をしてきましたが、住宅の設計ほど楽しいものはありませんでした。
当然建築主も私もそれぞれの意見を出し合います。
そうして意見を戦わせながら、与えられた設計条件の中で、最適と思われる建築に仕上て行く醍醐味は、言葉では言い表せないものがあります。
ここに私なりの住宅観を書き綴ることで、一般の方々へ建築家の考え方やその仕事の一端をお知らせし、今後の家づくりの参考にして頂きたいと切に願っています。

 4   第4回.家と弁当箱
更新日時:
2008/08/09 
どんな生活がしたいのか?
公共建築において、各地に多目的ホールや美術館、体育館等が建設されましたが、単に「はこ」を作っただけで「中身」がないケースがあり、批判にさらされることがしばしばありました。つまり弁当箱はあるが、おかずが入っていないという現象です。
家を建てることによりこれまでは実現出来なかった生活が出来てこそ、新しい家の価値があると言えます。「どんな家が欲しいかということは、どんな暮らし方をしたいか」ということに他なりません。

 5        〜居間〜
更新日時:
2008/08/09 
私はずっと住宅の中心は「居間」であると考えています。
しかし、残念ながら現代の住宅の多くの「居間」はとても中心とは言えない状況にあると思います。
昔の住宅には「居間」がなく、替わりに「茶の間」がありました。そこで食事をしたり遊んだり、家族の最も触れ合う場でした。戦後日本は欧米の生活様式を取り入れ、座卓式から、椅子式へ変わり、洋風の「居間」が「茶の間」に取って代わりました。ところが、洋風の「居間」はなぜかあまり使われていません。折角の応接セットが遊んでしまっているケースの多いことに驚かされます。それもソファを利用しているのは、その家のご主人でしかもソファを背もたれにして床に座ってテレビを見ているケースが一般的と思われます。家族にあまり利用されていない「居間」の例は枚挙にいとまがありません。
現代の家ではほとんど見られなくなった「応接間」を「茶の間」的に使う意図で「居間」が普及したのだと思いますが、「居間」という「弁当箱」が出来てもおかずがないという現実が、家の中心になり得ていない理由ではないでしょうか。

「西大津の家」の茶の間


 6        〜一家団欒の場〜
更新日時:
2008/08/09 
私も自分の家を設計する時にどうしたら「居間」におかずを入れることが出来るか、思いを巡らせました。
まず、暮らし方のイメージとしては、当然のことながら「家族の団欒の場」として利用される部屋にしたいと考えました。私の家族は食堂と子供部屋以外は座卓式生活をしていましたので、その生活を継続してはどうか、そのために床仕上げを硬いフローリングではなく、すわり心地のよいカーペットとする方がいいと思いました。さらに、食卓は台所のカウンターを朝昼用とし食堂をなくし、夜は思い切って「居間」に座卓を置き食堂兼用にすることとしました。その食卓は特注の1.2メートル角のジャイアントテーブルとし、私の家は4人家族だったのですが、来客を考え8人が座れるようにしました。このジャイアントテーブルは、仕事や勉強のための机ともなります。ヒーターを取り付けて、冬はコタツ兼用にしました。この「居間」は南側で日当りがよく、家中で最も明るく吹抜のある快適な場所となっています。インテリアとしても和紙製の装飾照明を天井から吊り下げ、幅85センチ縦105センチの大きな絵を飾り家の中心であることを示しました。テレビはこの「居間」のみに置き、テレビを見る時、夜食事をする時、冷暖房の欲しい時、自然にそして必然的に家族が「居間」に集まるようにしました。おかげで、子供が所帯を持った今も里帰りした時、唯一の団欒の場として役に立っています。ジャイアントテーブルを囲んで、身近な距離で等しく向き合い、和やかな時間を過ごすことが、私にとって幸せなひと時となり、この居間が私に深い満足感を与えてくれています。

「豊中本町の家」居間



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