「ボクのこと、忘れてください」

「・・・・え?」

「祐一君の記憶から、月宮あゆの名を、存在を、消してください」

「な・・・何を言ってるんだ?」

「ボクの願い・・・たった一つだけ・・・」

「お前は・・・それでいいのか?」

俺は声が震えていた。

「だって・・二度と食べられないはずのたい焼きも食べられたし・・・」

「・・・あゆ」

「大好きな祐一君と・・・もう一度逢えたから・・・」

涙が止まらなかった。

目の前のこの少女が死んでしまっているという事実を、

まっすぐ見つめられなかった。

「・・・行くな」

「・・・祐一君?」

「どこにも・・・行くな」

気が付くと、俺はあゆを抱きしめていた。

「・・・・・・祐一君」

「お前はここにいるじゃないか・・・なのに」

「ううん・・・もう、夢が終わる時が来たから・・・」

そう、俺はいつだって、つかの間の奇跡の前にいたのだ。

「俺もあゆが好きだ・・・この気持ちは嘘じゃない」

「・・・あはっ」

俺の腕の中で小さく震えるあゆ。

「嬉しいよ・・・例えまだ、祐一君の一番になっていなくても」

うぐっ・・・

「ああ・・・だから、・・・だから俺の前からいなくなるな」

その顔を見つめ、そして俺は・・・

「・・・・・・・ん」

優しいキスをした。

「大好きだよ・・・ちょっと意地悪な、でもとても優しい・・・祐一君」

夢が終わる日、

陽炎のように儚く、あゆは消えた・・・

俺はその場所に立ちつくすしか・・・無かった。


AfterKanon〜幸せのかけら〜

第一話「物語の始まり」


夢・・・

 

長い長い夢の中で・・・

 

大好きな人との再会

 

束の間の幸せな時間

 

だけどボクは知っていた

 

夢はいつかは終わることを

 

そしてこの日、

 

長かった夢は・・・終わりを告げた

 

 

「お帰り・・・祐一」

「な・・・・・・名雪!?」

一夜明けて商店街に戻ると、まだその場所に名雪が立っていた。

「あゆちゃんと・・・逢えた?」

「・・・ああ」

だがどうして名雪がここに?

俺の視線で意図を読みとったらしい。

「うん・・・きっと、祐一には、側で支える人が必要だと思ったから・・・」

「・・・余計なお世話だ」

だがその心遣いが嬉しかった。

事実を前に、一人じゃ耐えられそうも無かったから。

「あゆちゃんは・・・七年前に意識不明の重体で病院に運ばれたんだよね」

「・・・よく、知ってるな」

「お母さんに訊いて、古い新聞を図書館で調べたんだよ」

「・・・そっか」

名雪は、そして秋子さんは、

何もかも承知だったんだ。

「そういえば、さっきお母さんから手渡された紙・・・」

「ああ・・・空けてみるか」

ポケットから出してみる。

「ん?」

「なんて書いてあるの?」

「なんか・・・住所が書いてある・・・」

「・・・住所?」

「ここから・・・それほど遠くないな」

大体歩いて30分ぐらいの場所だった。

「・・・ここって、病院?」

「そうみたいだな・・・なんでだ?」

「祐一、どっか悪いの?」

「いや・・・そんなことはないが」

だが妙に気になった。

この住所、

何があっても行かないと・・・

「行ってみるわ・・・俺」

「うん・・・わたしも付き合うよ」

「そうだな・・・うん、頼むわ」

 

 

「ここは・・・」

総合病院だった。

紙に数字が書き込んであった・・・

俺は思わず走り出した。

「祐一!?」

名雪が何やら言っているが耳に入らない。

もしかして・・・

もしかすると・・・

それは推測ではなく、限りなく事実に近いはずの直感だった。

紙に書かれた数字は・・・病室番号。

ということは・・・

407・・・

 

408・・・

 

409・・・

 

410・・・

 

ここだ!!

 

ネームプレートには見覚えのある名前が書き込まれていた。

よほど長い年月がたったのか、

その字は色あせていた。

「あゆ!!」

もう遠慮なんかしていられなかった。

「な・・なんだね、君は!?」

中には白衣を着たおっさんと看護婦がいた。

側の機械はあゆに繋がっていた・・・

心拍数!?

素人目にも徐々に弱まっているのがわかった。

「あゆ・・・行くな!!」

俺は必死にあゆを揺さぶる。

「やめたまえ、君!!」

医者達の制止も俺の耳には入ってなかった。

「あゆっ、・・・あゆ!!」

俺は約束を守った、

今度はお前が約束を守る番だ!!

「あゆっ!!」

体を揺さぶる手が強まる。

だがその手は押さえられる。

「・・・・・あ・・ああ」

「痛いよ、祐一君」

ずっと訊きたかった声。

ずっと逢いたかった・・・

「奇跡だ!!」

医者達が騒いでいた。

だが違う・・・

そんな安易な奇跡なんかじゃないんだ・・・

「また・・・逢えたな」

「うん、嬉しいよ、祐一君」

あゆの目に涙が溢れる。

俺も前を見ていられなかった。

視界が薄れていったから。

・・・違う

俺は泣いていたのだ。

「今度こそ・・・運命の再会・・・かな?」

「ああ・・・そうだな。とびっきりのな」

「・・・うん」

新しい季節、

再び七年前に凍り付いた歯車が回り始めた。

 

 

つづく


えっと、夢と現の混じり合う場所管理人・諏訪ともうします。

今回はいつもお世話になってる杉菜さんのためにKanonSSを書くことになったのですが、

正直言って、何を書こうと悩みました・・・

んで、あゆED後の物語と言われたので、以前サークルFD用に書いた「AfterKanon〜もう一つの物語〜」

という作品の続編を書いてみようと思って、筆を執った次第です。

ですから第一話はその作品とかぶってます・・・

ただあゆの設定(母親が死んだ)という事以外全然知らないので、結構オリジナルな設定をつけてしまう

やも知れません。その辺はご了承ください(TT)

 

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