「最近・・・祐一さんとあゆさんが仲、いいんだ」

ぼそっと呟く栞。

それは妙に寂しげであった。

「・・・栞」

そんな妹を悲しげな表情で見る香里。

同時に祐一に対する怒りが沸々と湧いてきた。

(あたしの可愛い栞を悲しませた!!)

それは姉として純粋な怒りであった。

「任せておきなさい、栞」

「え? どうしたの? お姉ちゃん」

だが香里は答えない。

何やらぶつぶつと呟いていた。

「お・・・お姉ちゃん」

顔に巨大な汗が浮かぶ栞。

姉の行動にわずかに恐怖を浮かべる栞を後目に香里は一人燃えていた。


AfterKanon〜幸せのかけら〜

第二話「誤解から生まれた物語」


「相沢君、ちょ〜〜〜っと話があるの」

「どうした? 香里」

ある日の昼休み、

俺は香里に中庭に呼び出された。

何やらいつもと様子が違う香里。

また栞の病気のことかと不安になってしまった。

「相沢君って、あゆって娘と付き合ってるの?」

「え? 俺が?」

考えた事ない話題を振られて妙に焦ってしまった。

確かにあゆが助かった時心底嬉しいと思ったが、

それがイコールあゆを愛してるということに繋がるかというと甚だ疑問であった。

「えっと・・・そういうことじゃないと、思う・・・多分」

「・・多分?」

ぴくっと香里の右眉があがる。

「・・・・・恐らく」

「・・・・・恐らく!?」

額に怒りマークが追加される。

(ああっ・・栞はこんないい加減な男に振り回されてるの?)

我が妹ながらホント不憫だわ、

などと香里が思っていることを知る由もない俺。

俺には何故香里がこんな事を訊いてきてるのか全くさっぱり理解できなかった。

「まあ・・・多分付き合ってないぞ」

考えたらあいつに好きと言われた時、

俺もお前が好きだと答えた記憶も全くなかった。

ちょっと外道ちっくだったが、

まあ・・・言ってないから問題ないだろ。

「ふ〜ん、なら・・・いいけど」

再び何やら考え込む香里。

ここで俺はピンと来た。

(まさか香里・・・俺の事、好きなのか?)

確かに香里は美人系だし、

性格はちょっときつめだがその他はあんまり問題が見あたらない。

う〜ん、

もてる男は辛いぜ。

勝手に妄想が暴走し始めた俺。

 

「相沢君・・・実は」

何やら妙に可愛らしい香里。

「何も言わなくてもいいぜ、香里」

俺は自信ある左斜め四十五度の顔で答える。

「相沢君っ!!」

「香里っ!!」

薔薇を背景に抱き合う二人。

後はラブラブモード一直線ってな感じだった。

 

「相沢君の好みって・・どんな感じ?」

俺の妄想は香里の一言で一時的にストップした。

「・・・俺の好み?」

これまた厳しい質問だった。

全く考えたことが無かったからだ。

「そうだなあ・・・強いてあげていけば・・・」

「うんうん・・・」

香里には悪いが正直に答えることにした。

「うぐぅとかが口癖で・・・」

「ふむふむ」

「いつもくーとか寝てて」

「ふむふむ」

「つっこみ入れる時はチョップで」

「ふむふむ」

「でもちょっと病弱で」

「ふむふむ」

「時々悪戯してきて・・・」

「ふむふむ」

「でも天真爛漫のお嬢様系で」

「ふむふむ」

「頭なんか良かったりして」

「ふむふむ」

「料理が上手でジャム作りなんか名人級で」

「ふむふむ」

「人見知りするんだけど、実は情に厚かったりするタイプがいいな」

「ってどこにいるのよそんな娘!!」

思い切り怒鳴られる俺。

思わずびびってしまった。

「え・・・いや・・・・うーむ」

考えたら真面目に好みのタイプという物はないかも知れなかった。

「好みのタイプ・・ないかも」

「・・・!?」

再びメモを取る香里。

(好みのタイプがないなんて・・手当たり次第ってこと?)

香里がかなり自己葛藤してることなど俺がわかるわけもなかった。

(ジゴロじゃないんだから・・・ああ、栞ってば騙されてるわけ? この外道に)

ギンッと刺し殺しそうな視線で睨まれる。

「なっ・・・なんだよ?」

「な・・なんでもないわよ!! 相沢君の・・・バカ〜〜〜!!」

その時俺は俺は見た、

香里の頬に走る一条の涙を。

「香里・・・自分がタイプだって言って欲しかったのか?」

そして俺は勘違いしたままだった。

 

 

「栞・・・あんな外道はやめておきなさい。絶対後悔するから」

「・・・何のこと? お姉ちゃん」

香里は不憫で仕方なかった、

世の中の汚い部分を知らない栞が。

「あなたにはきっともっといい人が現れるから」

「え? 祐一さんと何かあったの?」

「忘れなさい、あんな男」

香里は姉として、祐一だけは許せなかった。

「ちょ・・ちょっと・・お姉ちゃん?」

一体祐一と何があったのか怖くてしょうがない栞。

姉とこれ以上話しても埒があかないのでしょうがなく自分自身で聞きに行くことにした。

 

 

「話ってなんだ? 栞」

その日の夕方、

噴水のある公園に呼び出される祐一。

「あの・・・お姉ちゃんの事なんです」

「あ・・・なるほど」

妙に納得する祐一。

何故なら彼はまだ勘違いしきっていたからだ。

「お姉ちゃん・・・何か言ってました?」

「ああ・・・香里には悪いことを言ったと思う」

「え!?」

「香里に伝えておいてくれないか? 俺は香里の事、嫌いじゃないって」

「えっ? えっ!?」

頭の中が真っ白になる栞。

香里は確かに自分と祐一の事を任せておけと言った。

だが話を聞く限り香里が・・・祐一を?

頭がパニックになって正常な判断が出来ない栞。

「まあ・・・話はそれだけだ」

「えっ、ちょっと・・祐一さん!?」

だが照れくさいのか走り去ってしまう祐一。

後には、

「・・・・お姉ちゃんの・・裏切り者」

一人絶望と怒りに燃えた栞だけが取り残された。

 

 

「お姉ちゃん、酷いよ!!」

帰って早々香里にかみつく栞。

香里としてもこんなに迫力がある栞は見た事が無かった。

「なっ、何!? どういうことよ?」

慌てる香里。

栞のためを思ってこそ、

栞を傷つけるような事はしていないつもりだった。

「私にあんな事いっといて、自分は祐一さんに告白するなんて!!」

栞は栞で完全に誤解していた。

「え? なんであたしが相沢君に!?」

「祐一さん・・・言ってたもん・・・俺は香里の事、嫌いじゃないって」

「え? ちょっ・・・どういうこと?」

「祐一さんは渡さないから!!」

それだけ叫ぶと自分の部屋に閉じこもってしまった栞。

香里がいくらノックしようと返事は返ってこなかった。

「ど、どういうことなの? 一体」

妹のためを思っての行動が、

その結果、妹のライバルになってしまったのであった。

 

 

「祐一さんは・・・お姉ちゃんにだって渡さない」

妙に気合いが入っている栞。

彼女がこんなに気合い入れているのなど、

生まれて初めてのことだったのかも知れない。

「祐一さん、お早うございます!!」

祐一と名雪が登校しようと玄関を開けるとそこには制服姿の栞が立っていた。

「おっ・・どうしたんだ? 栞」

「ええっと・・・祐一さんと一緒に登校してみたいと思って」

「そ・・そっか」

「おはよう、栞ちゃん」

一人状況の掴めない名雪。

それでも一応挨拶を交わす。

「おはようございます、名雪さん」

栞は栞で名雪をライバルだとは思っていなかった。

もしも彼女がライバルになるようだったら一つ屋根の下で暮らしてる以上、

とっくにそういう関係になってるだろうからだ。

「それでですね〜」

昨日あったことを報告するように祐一に話す栞。

だが祐一も気が気で無かった。

昨日香里とあんな事になって今日は今日はで栞と・・・

などと妙に女運が良い自分が怖くてしょうがなかったのだ。

そんな登校風景を目にしてしまった香里。

だが彼女は声を掛けられなかった。

昨日から栞は一言も自分と口を利いてくれなかったからだ。

「・・・・・相沢君」

それもこれも全てあの外道のような男のせいなのだ。

香里の中でこれまた勝手に祐一が外道扱いされていく。

「それじゃ祐一さん、また後で」

「ああ、じゃな」

教室の前でわかれる栞達。

だが誤解が招いた誤解はまだこれで終わりではなかった。

 

 

帰り道、祐一が一人で商店街を歩いていると舞と佐祐理さんに出会ったのだ。

「よっ、久しぶりだな。二人とも」

この春から大学生になった二人は、前以上に仲良しになっていた。

「久しぶり・・・」

「あはは〜、お元気でしたか?」

「ああ、この通り元気爆発」

力瘤なんか作ってみせる。

「祐一・・・一緒に牛丼」

「ん〜、たまにはいいか」

だが夕食の事もあるので一応家に電話を入れる祐一。

電話に出たのは名雪だったので夕食はいらないと伝えておく。

『あ、川澄先輩と一緒?』

「ああ・・・帰りは遅くなると思う」

『うん、わかった』

電話を切る名雪。

だがその直後に再び電話がなったのだ。

『もしもし・・水瀬さんのお宅でしょうか?』

香里としては祐一の口から誤解を解いて欲しかったのだ。

「あ、香里? どうしたの」

『あ・・名雪、相沢君、いる?』

「今日は川澄先輩とデートみたいで、まだ帰ってきてないよ」

『なんですって!?』

この上他の女とデート?

香里の怒りゲージがマックスまで上昇する。

「え・・なんか前から仲良しだったから」

『そ・・・そう』

それきり電話の向こうでは何の応答も無かった。

「もしもし? もしもし?」

電話は繋がっている物の、

返事が全く返ってこなかった。

 

 

「あの外道・・栞だけじゃなくて他の女まで毒牙に・・・」

プルプルと震える香里。

「相沢君のせいで・・あたしは栞に誤解されるし・・」

逆恨みに近かったが、今の香里にはどうでも良いことだった。

「絶対許さないんだから!!」

こうして美坂香里が一人祐一への復讐を画策している頃、

「あはは〜、たまには牛丼もいいですね」

「・・・かなり嫌いじゃない」

祐一は舞と佐祐理と久しぶりにのんびりとした時間を楽しんでいた。

 

 

つづく


あとがき:妙に久しぶりの続編になります。さぼっていてごめんなさい。

今回は前回とは180度変わって少々暴走気味の話になってます。

香里ファン(池○さんや○○Zさんなど)の方、ごめんなさい。

苦情のメールやら抗議のメール、ICQでの攻撃はマジで勘弁してください(笑)

まあ・・・少しでも反響があったりしたらそのうち続きを書きます。

今日はこれぐらいにしておきます・・・ってなんか謝ってばっかだった・・・

それではまた次作でお会いしましょう(某ジャンプ風に)

 

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