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3.コイル
小学校の電磁気学習は,鉄心にエナメル線を巻いて電磁石を作りです。その際,なぜ磁石になるのかという学びはなく,単なる巻きつけ作業に終始してきました。これではいけないと考えますが,従来,その課題に応える実験は容易ではなかったのです。そこで,S-cableを用い,以下のようなコイルの学習を行ないました。 『指導事例』(図2-1) S-cableに4A程度の直流を流します。 「S-cableの周りの磁力線の向きと指先の向きと一致させ,両手でつかみます」。 「そのまま電線を輪にしてみましょう。」 「指が一緒になったことから,A−B間の磁力線を束ねたことがわかりますね。」 「これがコイルの価値で,巻き数を増やすと電線を長く用いるので磁場も強くなります。」 つまり,コイルは「電線の周りの磁場を束ねる!」という素晴らしいアイディアなのです。ScienceというよりTechnologyといった方がわかりやすいかもしれません。 S-cableの利用によって,このような原理を初めて理解できるようになった(教えられるようになった!)と考えています。 コイルの中に方位磁針を入れてみましょう。方向性のある磁場ができていることが確認できます。また,方位磁針の動きを予想してから電流を流してみましょう。 一重巻きと三重巻きのS-cableのコイルの中に入れ,方位磁針の動きを比較してみましょう(図2-2,2-3)。巻き数が増えると,方位磁針の動きが激しくなります。図2-3の三重のS-cableは,ビニタイトで留めています。
『地磁気』 コイルの周りに出来る磁場と地磁気の関係を考えることができます。地球は,外核部における東から西へ渦状に流れる大電流によって地磁気が発生していると考えられて,その電流値も計算されています。 4.電磁石
「直径5cmの電磁軟鉄心を用いて4Aの電流を流した実験例」 ・5回巻→ゼムクリップ(中)100個がぶら下がった。 ・10回巻→ゼムクリップ(中)180個がぶら下がった。 太いS-cableは「巻き数も向きもわかりやすく!」,電流の向きから極性と方位磁針の動きを予想し,実験で証明することができます。また,方位磁針の動きから,電流の向きを考えることもできます。 こうして,教科書や問題集の数周巻きの模式図と同様の条件下で,証明実験が可能になりました。従来は困難だったわけで,画期的なことだと思います。 『最初の電磁石とS-cableの利用』 電磁石は,ウィリアム・スタージャン(William Sturgeon,英)が1825年に作りました。蹄鉄型の鉄心に数周巻いただけのもので,恐らく,大電流を利用したことと思います。当時は低電圧大電流による実験が主流。高電圧の利用が進んだのはエジソンの送電からです。つまり,S-cableの大電流による巻き数の少ない電磁石は,元祖に近いものだと考えています。 『小学校での電磁石学習の課題』 小学校では巻き数が課題となります。磁力が巻き数に比例するのは確かですが,「なぜ,巻くと電磁石になるのか?」という根本的な疑問に応えることはできません。また,巻き数に比例するといっても,電流が変らないことが条件です。つまり,原理がわからないだけでなく,抵抗を知らない児童に電流を考慮させるのは無茶です。 教科書では,巻き数による抵抗増加の影響を避けるため,同じ長さのエナメル線を用います(教科書の説明図は,少ない巻き数の電磁石に巻き余りが記入してあります)。しかし,その理由説明はなく,そもそも,エナメル線を100回程度巻いての確認実験は結構手間なものです。結果は,辻褄合わせの余分の電線は,中学入試などの難解なテスト問題に利用されるだけです。こういった無意味な指導は,S-cableによって克服できるようなりました。 『電磁石と方位磁針』 電磁石周辺に方位磁針を置いたり沿わしたりすると,永久磁石と同じであることを確認できます(図2-5)。
「備考1」 磁力で引き付ける鉄片は,演示に最適な大きさ(重さ)があります。各種サイズの釘やゼムクリップなどを用意して選択してください。 「備考2」 くぎ抜きなどの金属製大工道具やタガネなどを鉄芯にすると,引き付けられた釘の大きさによっては電流を切っても落ちないことがあります。永久磁石になったからです。落ちやすいサイズの釘を選択しても良いのですが,落ちない釘の存在も興味深く,教材として利用できます。 「備考3」 軟鉄芯は,商品の「二重コイル」の付属品が適しています(図2-6)。島津理化で単品購入もできます。私は3本をビニルテープで縛り,太くしてから用いています。巻きやすいからです。スチールウールを詰めたスチール茶筒を用いる方もあります。 『電磁軟鉄』 電磁石用の磁化しない鉄材として「電磁軟鉄」が市販されています。これが手に入れば最適です。私は,偶然,直径50×250mmの丸棒を入手しましたが,自動車の電磁クラッチの心棒でした(図2-6)。直径100×500mmの巨大な電磁軟鉄丸棒も入手しましたが,重すぎて実用的ではありません(約30kg)。
5.磁場の体感 (1)磁石で交流磁場の確認 「注意」磁石とS-cableを接触させると振動が抑制されます。両者を,ほんのわずかだけ離すようにします。
コップに入れた粒磁石を,輪にしたS-cableの上に置きます。交流を流すと,踊りだします(図2-9)。これは,直流で+−を切り替えて方位磁針を動かした操作と同じことを,1秒間に50,または60回行なっているからです。S-cableを数回巻くと,更に激しく踊ります(図2-10)。
「備考1」 粒磁石は肩こり用の小さな磁石で,教材用市販品もあります。ダイソーのマグネットピンから取り外したネオジム磁石がお薦めです。 「備考2」 電源装置を直流に切り替えても踊り続けることがあります。恐らく,平滑用コンデンサーが省略された脈流出力の電源装置だと思います。昔の理振備品の電源装置には,こういった機種がありました。出力端子に平滑用コンデンサーを接続すれば改善します。 (2)交流音で磁場の確認 (3)音で磁場の確認
「空き缶スピーカーに用いる磁石」 身近なフェライト磁石を3個程度束ねて用いれば十分です。スチール缶は,そのまま貼りつきます。アルミ缶は,図2-13のように,ビニルテープなどで貼り付けます。ネオジム系の強力なものを用いると,よりはっきり聞こえます。 「究極の簡単スピーカー」 一辺10cm程度の紙やOHPフィルムシートなどを両側から磁石(できればネオジム磁石)で挟んでコイルの上に置くと,究極の簡単スピーカーとなります(図2-14)。材質による音質の違いは興味深いものですが,共鳴箱がないので音は小さくなります。 「音源とアンプ,および,S-cableとの接続」 『実験室4』をご覧ください。 『質問』 「ノイズが入ってきれいな音での受信ができない。」という問い合わせがありました。 空き缶が原因で入ったノイズではありません。S-cableの代わりにスピーカを接続してもノイズが入っているはずです。「音源→アンプ→電線」とした時,音源の出力オーバー,次にアンプの出力オーバーを疑ってください。いずれにしても,まずはアンプ出力にスピーカーを繋いで,きれいな音の出ることを確認してください。 |
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