「パスカル電線(S-cable)Ver.2」
 4.配線とVer.2〜4 

  
★観察実験には専門知識と経験が必要です。本サイトの閲覧は理科教育関係者に限らせていただきます。★
1.はじめに   電流が流れると磁界が出来るという極めて重要な実験を,なぜ,説明しにくいOHPのステージ上でしなければならないのか?…という疑問から出発しました。先生が説明しにくいことは,生徒にとってもわかりにくいはずです。しかし,この実験は,このようにしなければならない裏の事情があったのです。そこを克服できないかという一つの回答が,「パスカル電線」です。1978年のことでした。

※なお,このページは,「3.接続ボックスの組み立て」で完成した接続ボックス内の配線作業の説明を兼ねています。

2.パスカル電線(S-cable)Ver.2の製作 (1)接続ボックス内の配線
  図のように,10色の電線を1段ずらしで接続します。1本ごとに長さを変えると,ずらしてあることがよくわかります。
  スライドスイッチは,左右位置で極性切り替え,中央位置でOFFとなります。

Ver.2配線
図1  接続ボックス内配線の完了したパスカル電線(S-cable)Ver.2
Ver.2拡大
図2  配線部分の拡大画像

(2)接続ボックスの蓋のビス留め
 
  ビニル10芯電線は,溝から少し頭を出すようになっています。そこを蓋と太目のタッピングビスで押さえることになるので,しっかりとビニル電線を固定できます。

※太くて目立つタッピングビスは,蓋を開けて内部を観察できることを示しています。

ネジ留め
図3  蓋をビス留めした接続ボックス部分

完成品
図4  完成したパスカル電線(S-cable)Ver.2
「回路の点検方法」

  15V程度の直流電源を接続し,スイッチの中間位置で電流が流れず,左右位置で4A近くの電流が流れれば問題ありません。

※下部の黒い箱は自作電源装置
(15V-5A:非安定化)

3.パスカル電線(S-cable)Ver.3の製作 (1)接続ボックス内の配線
  (Ver.3)は,コネクタ(サトーパーツ「マルチコンセントCN-35[10P])で接続ボックスと接続するようになっています。これによって,鉄芯などに巻きつけ易くなっています。

※東レ理科教育賞の受賞作品集には,このタイプを掲載しました。また,受賞賞金を利用した100台プレゼントも,このタイプでした。

 
・接続部で,10色の電線が1段ずらしに繋がる仕組みです。

・コネクタ端子が小さくて多いので,半田付けが多少難しくなります。

・100台プレゼントの蓋は,(Ver.2)同様のラワン合板製でした。

Ver.3配線
図5  (Ver.3)の配線

(2)接続ボックスの蓋
  透明アクリル板を,接続ボックスの蓋とした例です。左が蓋なしで,右が蓋ありです。透明は,中が見えてよさそうです。ただ,舞台裏であり,見せるのは最後にすべきだと思います。その意味で,透明でない方がよい…というのが私の考えです。
※この例は,研究会などで内部構造を紹介する時のために作りました。

Ver.3接続ボックス
図6  蓋を取り外した(Ver.3)接続ボックス
蓋付きVer.3
図7  透明蓋をした(Ver.3)接続ボックス

4.パスカル電線(S-cable)Ver.4の製作 (1)概要
  (Ver.4)は,(Ver.2)と(Ver.3)を組み合わせた形です。(Ver.2)は,1段ずらしで接続してある事が一目瞭然というよさがあります。(Ver.3)は,切り離せるよさがあります。そこで,この2者を組み合わせると,こういったものになります。

 
・中央部の黒いアクリル板を外すと,10色の電線が1段ずらしに繋がっているようすが見られます。

・コネクタ部では,10芯線が1段ずらしになっていません。同じ色の線が接続されています。

Ver.4全景
図8  (Ver.4)の全景

(2)接続ボックスの内部構造
  接続ボックス全面は透明アクリル板で蓋をして,1段ずらしの配線部分のみを黒色アクリル板で覆うようにしました。黒色アクリル板は,マジックテープで簡単に脱着が可能です。この例は,余裕のあった当時に作ったものですが,かなりの手間です。ここまで凝る事もないと思います。

Ver.4配線
図9  蓋を取り外した(Ver.4)接続ボックス
蓋付きVer.4
図10  蓋をした(Ver.4)接続ボックス

5.パスカル電線(S-cable)開発と実用化の経過 ○初めての電磁気の授業を行った後,その反省として開発を始めました。8芯〜50芯,長さ50cm〜20m程度のものを各種作りました。きっかけは,職員室で,配線がむき出しになっている校内インターホンの多芯ケーブルに気付いたことによります。OHPのステージ上での直径10cm程度のコイルと校舎内の多芯ケーブルが頭の中で渾然一体となったのです。1978年のことでした。

○インターホンケーブル(単線の8芯構造)は,ヒエン堂という電気店(廃業)で同じものを見つけました。50芯線は,電気工事をしている保護者から廃材をいただきました。大阪の日本橋だけでなく,東京の秋葉原まで出かけて探しました。このようにして入手したさまざまな線材を試しているうちに,「0.3mm2×10芯×6m」+「15V電源」という条件に行きつきました。

○プレゼントのタイプ(Ver.2)は,今の勤務先に異動した年(1987年)に,個人研究として製作したものです。教員研究講座を意識して,安価で作りやすい構造を工夫しました。

※「パスカル電線(S-cable)Ver.2」のプレゼントは,こちらのページ→「パスカル電線(S-cable)」をご覧ください。

○1992年,「東レ理科教育賞」に応募しました。これは,電源装置の直列接続によって6mという長さを超えることに成功したからです。理振の電源装置の利用を前提に,6m以上のパスカル電線も実用化したかったのです。また,「科学の祭典」で展示する機会を作っていただいた後藤道夫先生のお勧めもありました。

○応募がきっかけとなり,Ver.3や4のような凝ったものも次々に作りました。他にも,接続ボックスの両脇にコネクタを付けて,完全に電線を切り離せるタイプも作りました。これは,理科教材会社「リテン」などの製品の原型になっています。

○受賞をきっかけに,勤務先の教員研修講座で製作実習をする許可がおりました。従来なかった(教科書に掲載されていない)教具は,受賞のような公のお墨付きがないと講座のテーマにできなかったのです。今とは,ずいぶんと違った時代背景がありました。
   自由利用マーク  
《SUGIHARA  KAZUO》