「遊々サイエンス」書評  

  

  私たち「京都パスカル」が編集発行した「遊々サイエンス(新生出版)」は,さまざまなところで暖かい書評をいただきました。心から感謝します。その代表的な3編を掲載します。なお,他でもさまざまな場所で取り上げていただき感謝しています。本の前書きに出版意図を明記しておきましたが,こういった読者の評価が最も的確に内容を表していることと思います。

「盛口襄 先生」  渋谷教育学園幕張高等学校 「理科教室」新生出版  1997年8月号
   前から注目していたサークル「京都パスカル」が初めての快著をものにした。まずお目出度うといいたい。まえがきから,京都新聞の依頼による連載をまとめたものとわかったがそのためかたいへん読みやすい。また記述がゆき届いており,痒いところに手が届いている。わたしにも経験があるが書いた本人は無意識のうちに書き落としてしまう「些細なこと」に実は実験の真のノウハウがあることがよくあり,それが書いてないばかりに飛んだ回り道をさせてしまう。それがないというのは大変なことと思うが,それもこのサークルの息があっている証拠をみる思いがした。
  「遊々サイエンス」というネーミングがまたいい。かつて愛知岐阜サークルが「投げ込み教材」を提起したとき「おもしろいだけでいいのか」といった議論がまき起こり,その論議は今もあとを引いているようだ。しかし,科学のふるさとイギリスでは科学をホビーとする伝統があり,有名なルナソサイアティー,ファラデイレクチャー等々科学を支えるもう一本の柱にサイエンスホビーがあったことを思うと「科学を楽しむこと」を教えることも重要な科学教育の側面であることがわかる。いまわが国でもやっとのことでその風潮が一般化し,料学が学校を出て「市民化」することが不思議でなくなった。本書にもその傾向が色濃くみられる。教育が学校の専売でなく,競争にさらされることは我々教師の力量が厳しく問われることであり,それを承知であえて「学校外」へのりだした京都パスカルに拍手したい。
  内容に移ろう。さり気なく書かれてはいるか驚くべきアイデアが惜しげなくもりこまれている。たとえば「氷砂糖の大結晶」はつい最近までは作りたくても作れないものの代表だった。実はわたしもちょうど同じ頃少し違った方法で成功して得意になっていたのが,これを聞いてがっかりしたことを思い出す。だが不思議なことにおもしろい発見というものは同時に3人は思いつくものだそうである。要は出来上がった実験ではなく,それを発想する「自由さ」をこの本に学ぶべきではないかとも思う。その自信があればこそ惜しげもなく前人未踏の新実験が公閑されている。実験は想の奇抜さを競うものではなくより鮮明に「事実を知らせ,本質を浮き彫りにし,こどもたちに考える契機をつくり物に触れる喜び」をあたえるためのものである。そして「小さな発見」の喜びを教えるものである。本書がただ鵜呑みにされるのではなく,これを元にそれぞれの小さな発見の芽の育つことを筆者とともに期待したい。

「高橋哲郎 先生」  龍谷大学理工学部教授 「京都民報」京都民報社  1997年8月17日
"理科嫌い"なくす面白さ

  この本は理科教師の自主的な研究団体である「京都パスカル」が一年余、京都新聞に連載したものを一冊の本としてまとめたものである。国際理科教育調査によると日本の中学生の理科嫌いは世界一である。それだけに、「学ぶ楽しさ、科学的に考える喜び」を子どもたちにわかってもらおうと、この本が発行されたことの意義は小さくない。
  各自が持ち寄ったテーマを、自然破壊にならない、高価な器具・装置を用いない等の自主基準をもとに三割程度に厳選したというだけに、そこにはただ楽しいだけでなく、標本と生物、地形と地質、気象と天体観望、台所の科学、見えない力と物質の分析、ものの不思議な性質の探求、ものづくり等、自然と科学の本質にせまる実験観察五十一項目が収められている。
  ただ、不特定の読者対象なので、安全な観察実験だけを採用したとある。実験観察には冒険はつきものであり、冒険あってこその安全で、京都パスカルの本領が十分発揮されていないようで残念である。しかし、ハンググライターによる京都盆地横断から電池製作まで、話題は豊富で、子どもばかりでなく、現揚の先生や理科に関心のある方々には一読を勧めたい内容である。また、可能な実験観察は学校や家庭でも是非試みてほしいものである。
  教育活性化の原動力の一つは自由で自主的な教育研究の発展にある。京都パスカルの今後の活動の発展におおいに期待したいと考える。

「京都新聞」京都新聞社  1997年5月30日
楽しい理科実験満載「遊々サイエンス」本に

  観察と実験が大好きな京都市の理科教師たちが、このほど、生徒を対象にした「遊々サイエンス−生徒と探ろう!こんな理科もあったんだ」を出版した。子供たちの理科離れが進んでいるが、その気になれば観察でき、家庭でも実験できるテーマばかりで、一読するだけでも「目からうろこ…」の内容。
  執筆者は京都市立中学校の理科教師で結成した「京都パスカル」の十七人。一九九四年四月から翌年四月まで、京都新聞朝刊「NIE(Newspaper in Education)=教育に新聞を」欄に毎週一回、計四十三回掲載された「遊々サイエンス」に加筆する一方、新たに八テーマを加えて「生物と標本」、「地形と地質」、「気象と天体観望」、「台所の科学」などの七項目に再構成して、出版した。
  取り上げられたのは水耕栽培の方法、ドングリの食べ方や砂糖菓子、キャンデー、豆腐の作り方、それに観察で得られた雲、気圧などといった自然の不思議な現象や金属の溶かし方など、いずれも生物、化学、物理、地学の面白さを堪能させるテーマ。しかも実験は入手しにくい器具や高価な装置を使用せず、また安全に気を配ったために中学生はもとより、親子なら小学生も実験可能。また観察も身近な場所を選ぶなどの配慮をし、さらに各テーマごとに楽しく、わかりやすいイラストも付けられている。
  編集に当たった杉原和男教輸は「私たちは学ぶ喜びを実感する好奇心旺盛な教師だが、それだけに理科嫌いの子供たちがいると心配でならず、楽しい授業の実践を試みてきた。健康で文化的に生きるには理科の教養が必要だが、子供たちには科学的に考える喜びも知ってほしい。中学生向きに書いたが、ぜひ家庭でも試して話題にしてほしい」と保護者にも一読を呼びかけている。