…聖女と魔女は、紙一重…
「あああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アーサーの中で、少女が叫ぶ。
それは慟哭…
それは咆吼…
それは祈り…
それは召喚…
「くっ! キーワードに触れちまいやがった!!」
アーサーの中で、天使が歯がみする。
「どうする!? このまま行くか? 早いか! ちくしょう!!」
そう自分自身に大声で問いかけている最中…それが目に入った。
「な、なんだありゃ?」
ティベリウスと対峙するアーサー、それがものすごい光を放っていた。
「わからん! 妾にもわからんが…ヤバイ! なにかやばいぞ、九郎!!」
「ああ!」
最大速度と思われていたものから、更に速度をあげる。
「ちょーどいい! 助けやがれ!!!」
「へっ?」
「なっ!」
突如声が入ったと思ったら、アーサーの光が急速に縮まっていく。そして…
「…消えた?」
「…消えちまった…」
「…なんと無責任なっ!」
…全ては、光の彼方へ…
「え、ええぇぇいい! 今度の相手はあんたらね! きなさい!!!」
呆然とする一同の中、いち早く立ち直ったのはティベリウスだった。新たな標的をデモンベインとして、戦闘態勢を取り直す。
「こちらも行くぞ、九郎!」
「おう!!」
騎神と魔神の対決は、闘神と魔神の対決へと変わる。
一方、光の彼方へ消え去った二人は…
シュウゥゥゥウウゥゥンンン…シャババババババババババッッッッッッ!!!!!!!!!!
「なっ、ななななっっ!!」
「なっ、何ロボかっ!?」
「なんだっ、なんであるかっ!!!」
ぐちゃぐちゃになっているデモンベインの格納庫に、すさまじい光撃が発生する。
その光源は明滅を繰り返し、稲光を伴いながら、空中をフラフラと舞い踊る。
「なにっ! 今度はなによ!! またあんたか!! いい加減にしやがれ、こん畜生!!!!!!!!!!」
「うごっ! よせっ! 我輩…我輩ではないわっ! くるしっ、死ぬっ!!」
かなりテンパっていたチアキが、すぐ側にのほほんと立っていたドクターウェストのクビをつかむと、ぞうきんのように絞り上げる。
「おろ、おろろ…そっちへ行ったロボよ」
そんな二人を止めることなく、ただその光源だけを見つめていたエルザが、少し離れた所からそう警告…と呼ぶにはあまりにも緊張感のない声でそういった。
「なっ!」
「ぐおおおおおおぉぉぉ!!!!」
驚いたのか更に締め上げるチアキと、もはや土気色になった顔にありありと死相を浮かべるウェストの上空へとやってきていたその光は…
ッッッッカッッッッァァァァッッッッッッッッ…………ビシャアアアアアアァァァァァァンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!
…自ら稲妻と化して…落ちた。
そのもうもうとあがる土煙の中…
「おーい、生きてるロボ? 死んでたら返事するロボー」
「…し、死ぬところであったわ…」
「きゅぅうぅううう…」
その二人の背中の上に…
「けほっ、けほっ! 壊れた転移装置を無理矢理再構成しての転移は、やはり無茶だったか」
「ぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ……」
少女を抱える天使だった。そう、その二人は…
「…誰ロボ?」
…エルザの知らない二人だった。
「…それで、彼女の様子はどうですか?」
入ってきた執事に対して、瑠璃はそう問いかけた。
「はい、鎮静剤が効いたようで、今は落ち着いています」
ウィンフィールドは、そう主人に対して答えた。
「そうですか…良かった…んですよね」
「ええ。…それで、戦況のほうは?」
そう言って見上げた画面に映し出されるのは、アーカムの守護神…デモンベインと…
…巨大な黒い影だった…
「ちっ! ほんっきで、死にぞこなうやろうだな!」
デモンベインのコックピット内で、思わず舌打ちする。
「九郎! 文句はあとだ!」
同じく苛ついているアルから、そんな叱責が飛ぶ。
「だがどーする?」
「レムリア・インパクト…あれしかなかろう」
――――そうかな?
「それしかないかっ」
――――――――――そうなのかな?
「奴の核をみつけてそこにたたき込め」
―――――――――――――――――――――他にはないのかな?
「…………っっっっ」
――――そう、たとえば――
――――――輝く――――
tora――he―
「………九郎ッッ!!」
「…っ! な、なんだ、アル」
ぼうっとしていた意識が、アルの呼び声で引き戻される。
「また意識がどこかへ飛んでおったのか? とにかく、はやくやるぞ」
「ああ!」
「……んー、残念…最後のチャンスだったんだけどねえ…」
「…ん? なんだ?」
かすかな違和感を感じて、視線を下方から背後へと向ける。
そこにはなにもない…うごめく肉塊…のたうつ触手…それ以外にはなにもない…なにもない…なにもない…
…………はずだった…
「…残念…だよ」
「なっ!!!」
ありえない…ありえないはずだ…ここにいるのは、ここにあるのは、自分一人、己のみ、そのはずだったのに…
「…九郎…本当に、残念だ…」
「なっ! なぜだ!! なぜここに…こんなところにっ!!!」
「…本当に、残念だよ、九郎…」
つーっと、瞳から涙が流れる。
「なぜこんな所にいる! ネロッ!!!!」
ウェスパシアヌスの呼びかけもどこ吹く風で、ネロはただ涙を流し…
「…うう、うあぁぁぁあああぁぁぁぁああああぁぁぁ…」
…嗚咽をもらす。
「うぁあああぁぁ…うぁああああああぁぁぁああああああぁぁああああああぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!!!!!」
それはやがて慟哭になり、悲鳴へと変わる。
「……残念…本当に残念だったよね…」
「あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その叫びは…唐突に終わり…
…ゾフリ…ズ…ズズズ…ズブ…ボゾ…グバァァァアアアアァァァ!!!!!!!!!
生まれる…
生まれ落ちる…埋まれ…
…堕ちる…
「…あっ…ああっ…ああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!」
白い手、白い肌、金色の瞳…けっして輝かない黄金の髪…
…落とし子…堕とし仔…それは魔獣…
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!!!」
へたり込む、震え落ちる、金縛りにあう…其は全てが物語る…総てが知らしめる…
…大導師…マスターテリオン…そのものだと…
そのくすんだ金色の瞳に何をうつすか?
その変わらぬ表情の下で何をおもうか?
その清らかな邪悪な獣は何をのぞむか?
「…くっ」
仮面のような表情に、かすかに動きが生じる。
「…くくっ」
表情を隠すように、右手を顔に当てる。そこに浮かぶは怒りか、憎しみか、悲しみか、喜びか、悦楽か?
「くっ、くくくっ、くはははっ! あーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっははははははははは!!!!!!!!!!!!!」
金色の瞳がうつすのは、ただあの男のみ…
激情に彼をいざなうは、ただあの男のみ…
聖書の獣がのぞむのは、ただあの男のみ…
「…やってくれる、やってくれるよ、やってくれるな、大十字九郎!!」
へたりこむウェスパシアヌスには一切の興味も示さず、ただマスターテリオンが気にかけるのは…考えるのは…その男のみである。
「エセルドレーダ!!」
「はい、マスター」
先ほどまで影も形もなかった少女が、テリオンの呼びかけに姿を現す。
「これは何百…何千…いや、何億年の巻き戻りだ? アーカムだ! まだアーカムだぞ、エセルドレーダ!! あはははははははは!!!」
「………」
狂った笑いを浮かべるマスターに対し、一言の返答も持たないかのように最古の魔術書は押し黙る。
「我らが一歩ずつ、半歩ずつ進んできたことが、まるでスタートに戻れのようだ、あはははははははははははははは!!!!!」
「………」
「…どうしようか、エセルドレーダ? これはどこにぶつけたらいいだろうかな?」
まだ笑いに体を震わせながら、そう問いかけるテリオンに対して…
「…直接、ぶつけられるのがいいと思われます、マスター」
にこやかに、少女が告げる。
「…くくく、そうだな、エセルドレーダ」
レムリア・インパクトの大昇華、それによりかの不死身の蛆蠅が跡形もなく消え失せる。
「九郎! このまま一気にクトゥルーに向かうぞ!」
アルの言葉にシャンタクを大きく広げる。
「おお! このままあのでかぶつを落っことす!!」
その矢先だった。無限心母を…クトゥルーの腹をそれが突き破ってきたのは。
血の涙を流すクトゥルーの腹から飛び出たそれは、まるで生まれ落ちた仔のようだった…そう、それは…
「…くくく、言っただろう…」
「…すべてを早めるって…そう、まわす、まわす、カラカラとね…」
突然の事態に静まりかえる司令室の中、主がかすれた声をもらす…
「…うそ…」
巨神の中でも、魔道書が激昂する…
「…なぜここにいる! なぜ生きている!?」
騒然とした空気とはずれた白い部屋、その少女はかすかに瞳をあけるとぽつりとつぶやく…
「…早められた…」
「…バカな、そんな…」
思わずもれた言葉に対して、それはうれしそうに表情を変えると…
「はじめまして、大十字九郎」
…リベルレギスの掌の上で、大導師マスターテリオンは微笑みを浮かべた。
…まわす、まわす、カラカラと…
…運命をつむぐ糸車を…
次回予告
「マスターテリオンッ!!」
「大十字九郎っ!!」
「ナコト写本っ!!」
「アル・アジフッッ!!」
「…この世界も終わる…ボクの手でね…」
「俺様が生まれる前のことなんか、知ったこっちゃねえ」
「私たちが…変える」
「さあ、高らかに一つ目のラッパを吹き鳴らすぜ!!」
第5話 「
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