ヒュン…ビュビュンビュン!!

 

 ズバッズババババン!!

 

 四方八方から放たれた触手が、ある一定の距離に踏み込んだ瞬間、たちまちに切り刻まれる。

 その神速の剣閃は、ティトゥスもかくやと言ったところであった。

「聖剣…ね」

 余裕の態度を取りつつも、若干のいらだちを隠しきれないままティベリウスが口を開く。

「汚らしいものを、近づけないで」

 感情の色があまり見れない少女にも、かすかに不服の色が見て取れる。

「ジャンヌ、切り刻んで焼き尽くしてやれ!」

 肩の天使がなかなかに物騒なことを言う。

 

「ふふん、できるかしらね」

 

 

 

「我、埋葬にあたわず」

 

 エルザの叫びと共に、手に持った大砲が火を噴く。

 離れたら大砲、近づくとトンファー、性格と異なり実にバランスよく…そして高い戦闘力を見せつけてくるエルザ。

「くっ! やりづれえ!」

 トンファーをバルザイの偃月刀でさばきながら、愚痴っぽくそうどなっちまうのも、しょうがないと思う。

 確かにエルザはつええ、その戦闘力はたいしたものだ、本当にあのキチ○イが作ったのか疑わしいくらいだ。

「えっきし! ぬっ、風邪か? 天才は風邪をひかないという通説も我輩にはあてはまらないのだな」

 まじうぜえ! 離れたところで高みの見物を決め込んでいるウエストに殺意を抱きながらも、やはり、こいつらとはやりにくい。

 こいつらが本気でかかってきていないとは思わない。間違いなく本気だろう。

 しかし、こいつらが俺を本気で殺そうとしていないこともわかる。…まあ、攻撃全部がまともに食らったらしんじまう類のものなんだが、にもかかわらず殺す気はほとんどないと思う…

 

「ダーリン、エルザの愛で…エルザの胸で死ぬロボよ〜♪」

 

 …いや、ないと思うんだ、多分!

 だから、俺たちもどうしても殺す…破壊する気にならないと言うか…

 

「魔道書のナイチチよりも、きっと気持ちいいロボよ〜♪」

「ぶっ壊せ! 九郎!! 粗大ゴミの日に出してしまえ!!」

 

 

 …ならないんだよ、きっと!

 

 

「アトラック=ナチャ!!」

「きゃっ!」

 一瞬のスキをついて、エルザを糸で捕らえる。これでやっと…

 

「ふははははっ! こんなこともあろーと…ってやつであーる!!」

 

「なにっ?」

 

「てぇい! パルサイの偃月刀!」

 またパチモンかよ!!

 

 ズバッズバッズバン!!

 

 名前はAV女優のようにパチモンくさいくせに、威力はバルザイの偃月刀並で、エルザを捕らえていた糸を切り刻んでいく。

 

 ヒュウン!!

 

「ぬおおっ!」

 糸を切り裂いたパルサイの偃月刀は、トーゼンのごとくウエストの元に帰っていき、ウエストはすんでの所でそれをかわした。

「ふいー、あやうくまっぷたつになるところだったのである」

 汗をだくだく流しながら、天井に突き刺さったパルサイの偃月刀を見つめるウエスト…取れねえなら使うな!

「さあ、行くロボよー!」

「やってしまうのであーる!」

 戦意むんむんの奴らに対して、こちらは下がる一方の戦意と反比例するように高まるいらだちを隠せない。

「てめぇら…」

 いらだち…焦燥、あせり…なんとでも呼べる気持ち…それを口に出さずにはいられない。

 

「いい加減にしやがれ!!」

 

「ぬおっ!」

「ロボっ!」

 俺のいらだちの叫びに、バカ騒ぎしていた連中が黙り込む。

「こんなことやってる場合じゃねえんだ、こんなことしている状況じゃねえんだよ!」

「九郎…」

 

「…ふん、こんなこと呼ばわりか…」

 

 ウエストが、腹立たしげに…いや、正確にはどこか悔しげにそう言った。

「…はかせ」

「我輩はサンダルフォンのやつとおんなじということか」

 ウエストの口が、皮肉げにゆがめられる。

「…ウエスト」

 あまりに変わったウエストの反応に、あれほど抱えていたいらだちもどこか飛んでしまったようだ。

「やめだエルザ、やーめやめっ!」

「ええっ!! マジロボか?」

「ふんっ、マジだマジ!」

「…ウエスト」

 一方的に終了を宣言したウエストに、俺もエルザも呆然と奴を見つめるしかなかった。

「行くがいいさ、行ってしまえ!」

「ウエスト、本気か?」

「ふん、後ろから斬りつけられることが心配か? 見くびるなよ、そんなことはしない、我輩は世紀の大天才、ドクターウエストだぞ!」

 行け行け、行ってしまえというように手を振るウエストに、釈然としない想いをしながらも、他にもアンチクロスがいるという事実が俺の足を動かした。

「悪いな、行ってくる」

「ふんっ!」

 そう一声かけて、ウエスト達に背を向けて次の戦場へと向かう。

 

 

 

「…はかせ、これで良かったロボか?」

 そう声をかけてくるエルザに、ウエストは肩をすくめて応じる。

「我輩と奴が雌雄を決するのは、この場じゃあなかったってことだ」

「はかせ…」

「それよりもだ…」

「ロボ?」

 ふと思い付いたように、ウエストが口を開く。

「この戦いどうなると思う?」

「クトゥルー、なんかおっかないロボよ、ダーリン、大変と思うロボ」

 エルザが思ったことをそのまま口にする。

「ふん、では次回の決着の場のためにも、ここは一つ塩を送ってやるとするか」

 我が意を得たりという表情で、ウエストがそう言った。

「我輩はドクターウエスト! 常に体制に異を構える、反逆者なのである!」

 

 

 

 ベチャベチャ…

 

 這い回る触手、のたうつ肉片…

 

 グチュグチャ…

 

 肉片の中に転がる大剣…

 

 ズリズリュ…

 

 壁によりかかるように倒れている小さな天使…

 

「くす、くすくすくす…」

 

 いくつもの触手に絡み捕られ、持ち上げられた白い少女…

 

「くすくすくす…うふふ、ひひひ…ひゃひゃひゃひゃ」

 

 狂った笑いが、血池肉林の中を響き渡る。

 

 

 

「うふふふ、捕まえたわん」

 ティベリウスが、嬉しそうに口を開く。

 持ち上げた少女を、自分のそばへと引き寄せる。

「あ…うう…」

 少女は小さくうめくだけ。

「いろいろぶった切ってくれたわねえ、だからどーってわけでもないけど、イタイのはイタイのよ」

 少女の体の上を、触手が這いずり回る。それに反応するかのように、少女の端正な顔がゆがめられる。

「というわけで、串刺しのケイ♪」

 ティベリウスの股間がその言葉に反応するように、大きくうねる。

「泣いてもいいわよん。イイ声で啼いてくれたら、許してあげちゃうかもよ、くすくすくす」

 

 

 

 走る、奔る、疾る…

 飛ぶ、跳ぶ、翔ぶ…

 なにかにせき立てられるかのように、ただ駆ける。

「なあ、アル」

「なんだ、九郎」

 思わず知らず、アルに声をかけていた。

「何だろう、何なんだろうな?」

「何がだ、九郎」

 自分でもよくわからないことを口にしている、アルにわかれというのも無理な話なんだろう…でも…

 

「なにかが変わってきている。…よくわかんねえが、そんな気がする」

 

 そう、なんだか知らねえが、そんな気がする。

 

「そうか…そうだな…妾にもわからんが、そうかもしれんな」

 

 

 

 少女の手が、ゆっくりとうごく。

「あ…うあ…」

 小さく声が…息が漏れる。

 さまようように動かされていた小さな手が、ティベリウスの仮面に触れる。

「くすくす、どうかしたのかしら?」

 ティベリウスが楽しそうに少女の反応を見つめる。

「あ、ぅぁ…」

 少女の反応を見ながら、股間の大剣を少女の薄い布きれにこすりつける。

 凌辱を開始しようとするその剣に対して、少女のそこを守る盾はあまりにか弱かった。

 

 

 

 ガッガガガッガガガガガガガガァァアアアアーーーーーーーー!!!!

 

 

「うわっ!」

「なっ、なんだっ!」

 その爆音と共に飛び出てきたのは、白と黒の奔流、光と闇のダンス、メタトロンとサンダルフォンの壮絶な激突だった。

 壁も床も天井も関係ない、二人の攻撃は熾烈を極め、触れるものみな破壊していた。

「すげえなあ…この壁とか、対衝撃魔術措置を取ってるって言うのに」

「あやつらには、紙みたいなものだな。別のルートを行くか、通り過ぎるのを待つか」

「だなっ」

 

 

 

「さぁ〜て、いくわよん」

 舌なめずりとともに、ティベリウスが言う。

 うつろなまなざしのまま、少女の手がティベリウスの仮面をつかむ。

 

「…つかまえた」

 

 少女が微笑む…童女のように…白痴のように…

 その笑みは、その少女がするには驚くほどストレートな笑顔であり、その幼い容姿にかかわらず、性的魅力を備えたゾクリとするような微笑みだった。

「あっ…」

 ティベリウスも、思わずゾクリとする。

 …しかし、前述のような意味のような性的興奮によるものではない…

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 …恐怖からだった…

 

「…捕まえたのは私…」

 

「く…くく、あーっはっはっはっはっは!!」

 壁にもたれかかっていた天使が、突如、狂ったように笑う…嗤う…哄う。

「ィィッ…ひいいぃぃいいいい!!!!」

 ティベリウスは少女から逃れようと…やっと捕まえたはずの少女を、引き離そうと触手をうごめかし、奇声をあげる。

「知ってるさ、知ってるんだよ! てめえが切り刻んだくらいでどうにかなるようなウジ虫じゃねえってことはよ!」

「いやああぁぁ!!! 放しなさい! 放せ! 放してぇええぇぇ!!」

 狂ったように叫びながら、力を入れるのに、少女のか細い腕は…小さな手は、びくともしない。

 

「…串刺しの刑にするのも私…」

 

 自らの仮面を貫いている光線に、更に恐慌する。

「切り刻んでもダメならどうするか? 元からやらなきゃダメだろ!」

 天使は、祝福しない。…ただ、罰するのみ。

 その光線は、少女の小さな手から出ている。

 ティベリウスの仮面を貫き、頭を貫き、1メートルほどの長さで固定されている。

 ティベリウスがどんなに力を入れても、それは外れない、動かない、取れない。

 

「…私は知っている。だからこそ…」

 

「いやあぁぁ!! 許して! 許してぇえええ!!!!!」

 

「…泣き叫んでも、許してあげない…」

 

「いやぁぁぁああああああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

 そして天使が笑う…嗤う…哄う。

 少女がささやく…それは宣告…

 

「…ロンギヌスの槍…」

 

 

 

 ダガアアアアアァァァアアアアアアアァアァァア!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

「…!?」

「なんだっ!?」

 

 それは、地震かと思わせんばかりの振動だった。

 

 ズガアアアアァァァアアァアアアッァアアアァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 床を突き破り、更に衝撃をまき散らしながら、壁や天井を突き破る黒と白の竜巻…

 

「ナイスよ!! サンダルフォンちゃん!!」

 

 かすかにずれた槍…光線は、戦闘経験…くぐった修羅場の少なさが要因だったのか…そのスキを逃さず、ティベリウスは、首を自ら引きちぎって、光線…槍の範囲外へと放り投げる。

 

「くっ」

 

 ティベリウスの体が昇滅するのを、意識の外に追い出して、その本体…首を見つめる。

 自らの体が消滅するのを、苦々しく見つめながらも、それを行った少女…敵を見つめる。

 

 

「暴食せよ! ベルゼビュート!!!」

 

「降臨守護せよ! アーサー!!!」

 

 

 

「ウィンフィールド!!」

 

 瑠璃の絶叫が響く中、フラフラの体を刀で支える。

「ティベリウスのやつ、デウス・マキナを召喚したのか」

 目的は果たした、ウィンフィールドはまぎれもなく戦士だった。その戦士に勝ったのは、果たして自らの戦士だったのか…あるいは…

 

「とりあえず、ひくとしよう」

 

 …戦士に勝つのは、外道なのか…それはティトゥスの人生への問いかけそのものかもしれない…

 

 

 

「なっ、なななっ、なんだ、一体!!」

 響き渡る振動と、降りかかってくる瓦礫を避けながら、とにかく混乱を口にする。

「あわてるな、九郎! どうやら鬼械神を召喚したようだ」

「あんだって、この地下ん中でかよっ!」

「とにかく、急いでデモンベインを取りに行くぞ!」

「お、おうっ!!」

 

 無茶な展開には慣れたつもりだったが、さらにそれ以上に無茶な展開がてんこもり、そんなことよりも…

 

「なんだかっ! だんだんっ! 展開の中心から外れてきたというかっ! 流されてるだけのような気がするんだがっ! 気のせいかぁっ!! おいっ!!!」

「妾が知るか!!」

 

 

 

 

 それは、瓦礫の下…暗い影の中…闇の中から聞こえてくる。

 

「そうだね、その通りだよ、九郎くん」

 

 それは九郎に話しかけているのだろうか? …ならば、その相手はすでにいないことになる。

 

「ボクの描く脚本では、君が主役だ。君たちが主役なんだよ」

 

 闇に浮かぶは3つの光。

 

「ある程度のアドリブは許すけど、場違いなものが勝手に舞台にあがるのは、このボクが許さないよ」

 

 闇の中に潜む闇そのもの。

 

「ボクの世界を壊すのは、誰でもない、ボク自身なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

「はじめまして、ジャンヌ。俺の名前は大十字九郎、探偵だよ」

 

「…私は魔女だから…」

 

「…うそ…」

 

「何者だ、汝? いや、何モノだ…」

 

「ボクのことはどうでもいいんだ。さあ! 頼んだよ!!」

 

「俺様が生まれる前のことなんか、知ったこっちゃねえ」

 

 

「さあ、高らかに一つ目のラッパを吹き鳴らすぜ!!」

 

 

 

 

 

第3話 「Punishment of food on a skewer」 了

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