鬼畜王ランス列伝
山本五十六記
作:たのじ
幕間 其の一
ゼス王国王宮、そこではゼスの中枢を預かる達が間近に迫りつつあるリーザス王国の侵攻に備え、対策を巡って議論を戦わせていた。
参加者はまず政治を預かるゼス四天王達。
四天王筆頭の山田千鶴子、ゼスの王女でもあるマジック・ザ・ガンジー、強大な魔力と正確無比の判断力を持つ若き魔女ナギ・ス・ラガール、狂える女死霊術士パパイア・サーバー。
そして軍を預かるゼス四将軍達。
雷を操る老将カバッハーン・ザ・ライトニング、炎の魔術師サイアス・クラウン、氷の魔女ウスピラ・真冬、最年少の光の魔術師アレックス・ヴァルス。
現在国王たるラグナロックアーク・スーパー・ガンジーが不在のため、ゼスは彼らによって治められているという形になっている。
しかし、四将軍達はそれぞれの職分を充分に果たしているのだが、四天王達は不仲であったり政治に対する責任を果たそうという意識が薄かったり、また魔法使いとして優秀であっても人間としては失格以下の者が半分を占めるので、実質ゼスは四天王筆頭山田千鶴子一人によって治められているのである。
「さて、リーザスが我が国に攻め入ってくることはほぼ間違いないわ。これに対してみんなの意見を聞きたいのだけど」
千鶴子のその言葉に対して、四天王達はまともな反応を返さなかった。マジックなどは欠伸をしながら目をそらし、。小声で『学校の課題があるのよね……。早く終わんないかしら』などと言っている。ナギは我関せずとばかりに無言、パパイアは自分を狂わせた原因でもある、意志を持つ呪われた魔道書”ノミコン”と何やら常人には伺い知れ無い会話をしている。
その四天王達の様子に額に青筋を立てながら、千鶴子は今度は四将軍に視線を向ける。
「リーザスはヘルマンを攻めた時同様、シャングリラのルートを通るんじゃないですか?」
「アレックスよ、それがわかってもそれだけではどうしようもない。ゼスの砂漠と接する部分だけでもかなりの広さがある。その線の全てを守れるように兵力を配置するのは不可能じゃ、兵が足りん」
「カバッハーン老の言うとおり。それにアダムの砦も手薄にするわけにはいかないだろう? 側面に気を取られて正面を抜かれたりしたら目も当てられない」
「結局、今まで通りサイアスがアダムの砦を守って、私達が各々の管区を守る。それに加えてシャングリラ方面を警戒する。それしか無いんじゃないかしら?」
「ウスピラ将軍! そんな消極的な事じゃリーザスをつけあがらせるだけよ! ガンジー様からこの国を預かる私達の為すべき事は、奴らが二度とゼスを攻めようなんて思わないように徹底的に叩く事じゃないの!?」
平時であれば千鶴子の政治手腕は手堅いものであり、必要十分だったのだが、いざという時となるとゼスを預かっているという責任感が先行しすぎて現実が見えなくなる所がある。
千鶴子はあくまで魔法使いであり、政治家なのである、軍事に関しては四将軍にはるかに及ばない。そしてその千鶴この内面をよく理解しているカバッハーンが、言い聞かせるように発言した。
「そうは言ってもリーザスは今やヘルマンを占領し、国力・戦力共にこちらより遙かに上、正面から戦っては物量差で押し切られ、決して勝てはせん。地の利を生かして防御に徹し、奴らが音を上げて後退するまで耐えるしかないじゃろう」
「そんな! ゼスがリーザスのようなろくに魔法も使えない奴らに負けるなんて!」
「これは厳然たる事実じゃ。ひとたび戦場に立てば魔法は剣と何ら変わらん。ただの道具じゃ。数が多い方が勝つ、これは戦いの真理じゃよ」
千鶴子が産まれる前から戦場に立ち、ガンジー王と肩を並べて戦ったこともあるカバッハーンの言葉には、さすがに彼女も納得せざるを得なかった。
「それじゃあ、リーザスの侵攻を止めることは出来るの?」
「五分、でしょうな」
「意見があります」
深刻になった千鶴子とカバッハーンの会話に、サイアスが割り込んだ。
「リーザスはヘルマン侵攻の際、ヘルマン全土にバラバラに配備された各方面軍を個別に叩くという方法で総兵力に勝るヘルマンに勝利しました。我が国もヘルマンと同様の戦力配備をしていますから、このままでは格好の餌食です」
「それで?」
ウスピラが先を促した。
「私のアダムの砦守備隊以外の三軍は、戦力を集中させておくのです。ウスピラの守備するテープ近辺に軍を集結させておけば、シャングリラ方面からの侵攻にも、万一アダムの砦を抜かれた場合にも対応できるでしょう」
「じゃあさ、アダムに集結させちゃいけないの?」
マジックが口を挟んだが、その発言は軍事の素人と言うことをあからさまに感じさせる内容である。
「マジック、それだとアダムの砦を無視されたら、ゼスの中央部を守る戦力がなくなっちゃうんだよ」
「あ、そうか」
アレックスがそう説明すると、マジックは合点がいったらしく引き下がった。ちなみにこの二人は恋人同士であり、このように親しげに口をきくのが普通である。
「……カバッハーン将軍、どうですか?」
「基本はサイアスの案でいいじゃろう。細かい部分は儂らが煮詰めて後で報告すればよいかな?」
千鶴子は危機感を感じさせないマジックの様子に明らかに苛立っている。しかし、それを抑えてカバッハーンの答えを聞くと、とりあえずの決断を下した。
「よろしい! ではその線でお願いします。本日はこれで解散!」
「……では失礼する」
「それじゃあねぇ〜。きゃはははは」
終始無言だったナギが静かに、会議に全く参加せずにノミコンとのお喋りに興じていたパパイアがけたたましく会議室を後にする。千鶴子も頭を押さえながらその後に続き、四将軍も気を遣うようにアレックスを残して足早に去っていった。
ほとんど人が出て行った会議室、今部屋に残っているのはマジックとアレックスの二人だけである。
「アレックス、頑張ってね……」
「うん、王様が帰ってくるまで、この国をしっかり守らないとね」
心配そうに言うマジックに、アレックスは明るく答えた。恋人を心配させまいとする彼なりの心遣いなのだが、下手な演技にマジックが誤魔化されるわけもなく、彼女はアレックスも感じている心細さを見抜いていた。
彼女の父、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジーがいれば不安など欠片もなかったろうに。
彼女は苦々しくそう思った。
国王の責任を放り出すかのように諸国漫遊などに出掛けている彼女の父だったが、間違いなくゼスの全国民の尊敬と信頼を一身に受ける偉大な王なのである。
「ったくあのくそ親父、こんな時にいないでどうするのよ……」
「いないものはしょうがないさ。それに、戦争が始まれば王様も直ぐに戻ってくるよ」
「そうね……。それまでは私達で頑張らなきゃね!」