………とたたたたたたたたたたたた…………

 …ここはアイスの町。

 あれから半年と経っていないにもかかわらず、町自体はずいぶんと復旧していた。これも人間のたくましさゆえであろう。

 

 ……バーーーーーン!!!!!!!

 

「二十一ーー! …はあはあ…見て見て!

 ちょっと、これを見てよーー!!」

 ドアが壊れるのではないのかというくらいの大きな音を出して、少女が息を乱しつつ、大声をあげながら入ってきた。

 そして、その手には1枚の紙切れが握られていた。

「…シィル…はあ、…扉の開け閉めはもっと静かにしろって、いつも言ってるだろ」

 それに対して、少年はちっともあわてずに、ただやんわりと注意した。

「うっ! …ちょっと忘れただけだもん…」

 少女はぐっ…と、息に詰まりながら言い訳をした。

「それで、一体どうしたんだ、そんなにあわてて?」

「そう! これよこれ! ちょっと見てよ!!」

 少女はそう言いつつ、手に持って…いや、握っていてくしゃくしゃになっている紙を少年に突き出す。

「えー、なになに…第15回闘神大会…、今月10日から開催…」

 少年は少女の持ってきたくしゃくしゃの紙に書いている文字を読んだ。

「そう! 二十一も驚いたでしょ! あの最悪な大会潰れてなかったのよ!!」

 少女はいかにも憤慨そうにそう言った。

「…ふーん。…で、…闘神大会ってなに?」

 

「…へっ…」

 

 少年の素朴な質問により、少女のいきおいは完全にそがれてしまった。

「…ほんんっっっっっきで知らないの?」

「…う、うん…」

 なにか悪いことをしたのかなと思いつつ、少年は正直にそう答えた。

「二十一って、ほんっっっっっきに無知ねっ!!」

「…わ、悪かったな。…で、なんだよ闘神大会って」

「…まったく、これを読んでくれているアリスファンのみなさんの十中八九は確実に知ってるほぼ常識なんだけど、二十一のためだけに、た・め・だ・け・に、説明してあげるわね」

「…おねがいします…」

 

「闘神大会というのはね……

 

 …かつて、闘神ユプシロンの眠っていた堕ちたる都市イラーピュ…名づけて闘神都市。

 そこで1年に1度開かれた大会、それはその都市の名にちなんでこう付けられた、すなわち…闘神大会と。

 そのルールはいたって簡単、トーナメント方式で出場者の技と力を競い合うだけである。そして優勝者は「闘神」の称号と莫大な賞金、そして闘神都市における凄まじいまでの権利を得るのだ。

 そう…まさに神のごとき権利を。

 その大会が他の格闘大会と一線を画すのは、その優勝者に与えられる莫大な見返りと、…敗者に与えられる罰…またそれに付随する参加資格であった。

 

 …その罰と参加資格とは……

 

「なっ! なんだそれはーーーー!!!」

 少年…山本二十一が怒鳴った。

「ちょ、大声ださないでよーーー!!」

 少女…シルフィナ・ヴァルス・ガンジーは耳を押さえながら抗議した。

「これが怒鳴らずにいられれるかっ! 勝者は敗者のパートナーの女の子を一晩自由にできるだって! …物じゃないんだぞ!!」

「私がやってるわけじゃないわよ!」

「わかってるよ! 誰がそんなふざけた大会を!!」

 少女はすこし顔をふせて、言いにくそうにつぶやいた。

「…魔王…ランスよ…」

「えっ」

「闘神大会は今から14年前に、魔王ランスによって開催されたの。

 …もっとも、その大会の持つ意味は、今とはぜんぜん違ったんだけどね…」

「…どういう風に…」

「14年前というのは、世界の希望が完全にうばわれた時だったの。…つまり、聖刀日光を持った勇者…小川健太郎が殺された時…」

 

 

 ………14年前…

 

「魔王ランス! 勝負だ!!」

 ランスがサテラとホーネット、そして多数の魔物を引き連れて闘神都市を行軍していた時に、それは起こった。

 多数の軍を率いる魔王にたった1人で立ち向かう…勇気以前の問題である。無茶としか言いようがない、ドンキホーテも真っ青の行為である。

 当然、数体の魔物がその愚か者を殺そうと刃をかまえる。

「待て! ……どこの馬鹿かと思えば…、お前かサーナキア」

 ランスはその愚か者を知っていた。その少女は鎧を身にまとい、一見少年と見間違いかねなかった。

「…騎士として、お前に一対一の真剣勝負を申し込む!」

 そう言うと、サーナキアは腰に差した長剣をスラリと抜き放った。いい剣ではあるのだが…ただそれだけの剣であった。

「…なにを愚かな。だれかこの愚か者を駆除しろ」

 かたわらのホーネットがそう指示を出す。その指示に従い、先ほどより多くの魔物が動き出すが…

 

「待てって言ってるだろが!!」

 

 その魔王の制止により、凍り付いたように動きを止める。

「…魔王様…」

 怪訝そうなホーネットを無視して、ランスがサーナキアに言う。

「相変わらずの単細胞だな、サーナキア。そんな剣じゃあ俺様に傷一つつけらんないぜ」

「そんなことはわかっている!!」

 激昂するように、サーナキアは言った。

「それでも、……それでも勝負だ!!」

「ふっ、…そーいうことか…」

 

 …つまり、死に場所を求めてのものだった。

 

「…だが、なにか勘違いしてないかサーナキア」

「なにっ!」

「その愚かすぎる勇気と騎士道精神はある意味、敬意にも値する。

 …だが、わざわざ俺様が相手をしてやるほどの相手か、お前は?」

「…なにい!」

「…そうだな、面白いことを思い付いた」

 ランスは自分で思い付いた名(迷?)案に対してほくそえむ。

「…魔王様…なにをお考えで?」

 悪い予感がして、ホーネットがたずねる。

「サーナキア、お前のために大会を開いてやろう。その大会に優勝することができたなら、1年間この都市はお前にやろう」

「なっ!?」

「そんな! 魔王様なにを…」

「もちろん、ただじゃあない。…お前が負けた場合は体で払ってもらおうか…そう、お前に勝ったやつがお前を好きにできるわけだ。…どうする?」

 にやにやしながらランスが聞いた。

「…本当…だな?」

「ん?」

「私が優勝したなら、お前らはこの都市には手を出さないんだな?」

「ああ、約束しよう。1年間は手をださない。

 …そうだな、大会は毎年開いてやろう。そしてお前が勝ち続ける限り、この都市には誰にも手を出させないことを俺様の名にかけて約束してやろう」

「…わかった」

 サーナキアがうなずく。

「…交渉成立だな。大会の名だが…この都市の名前をもらうか…」

 

 ………闘神大会の誕生である。

 

 

「…そんなことが」

 二十一がつぶやく。

「そのサーナキアという人は猛修行をして、2連覇をしたらしいわ」

「…しかし、いつから今のような大会に?」

「3回目から…ね。それまではほとんどの出場者は魔物だったんだけど、そこからサーナキアさん以外の人間の出場も多くなったの、もちろん男性もね。

 そこでできたルールが今みたいなもの…というわけよ」

「なるほどな」

「その甲斐もあってか、結局魔物が闘神になることはなかったらしいわ」

 内容に反して、シルフの口調は暗かった。

「良かったじゃないか」

 怪訝そうに二十一が言う。

「…そうでもないのよ。闘神となった人間すべてがサーナキアさんのように正義感にあつい人ばかりじゃなかったの。

 …いいえ、その逆の人がほとんどだった…」

「…………」

「魔王によって支えられた、かりそめのものとはいえ、闘神には莫大な権利が与えられる。その欲に狂わないことの方が難しかったみたいね。

 …悲しいけど、それは魔物以上の暴君が多数出ていることによっても証明されているわ」

「しかし、魔王がいなくなったのになんで?」

「おそらく、今の権利を失うことをおそれた闘神達ね」

「えっ! 闘神って1人じゃないのか?」

「ああ、ごめん。まだ話してなかったわね。10回目からまたルールが変わったのよ。

 …あまりに強い人間が出てきたためにね」

「あまりに強い人間?」

「そう、そいつは5回から9回までの5連覇をなしとげ、まさに敵なし状態だったの。

 そこで魔王ランスが考えたのが、その男を『永世闘神』として、莫大な権利を保障することだった。

 そして闘神大会に勝った者は彼に挑戦する権利を得て、勝てば『永世闘神』、負けても彼のもとで闘神としての権利を行使できることになったの。

 また、1度その称号を得たものは彼が永世闘神であるかぎり、その権利を持ち続けることが許されたの…意味的には『永世闘将』ってとこかしら」

「つまり、その男が魔王にかわる今回の闘神大会の主催者というわけか」

 合間を見つけて二十一が聞いた。

「ええ、おそらくね」

 シルフがうなずく。

「じゃあ、そいつを倒せば…」

「…そういうこと…ね」

 シルフがにっと笑った。

 

 …HT暦元年10月……この2人が再び歴史の表舞台に顔を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中書き

 

  おや、なんだこの中途半端な項は…。

シルフ「私が作ったのよ!」

  なんだ、シィルじゃないか。

シルフ「だめぇーーーーー!!!」

  なにが?

シルフ「それで呼んでいいのは二十一だけなの!」

  へいへい……

シルフ「ところで、なんでこんな中書きを作ったのか聞きたくないの?」

  どーせ「真…」の後書きに出れなかったからだろ? 目立ちたがりやだからなー。

シルフ「ちっ、ちがうわよ!」

  うそばっか。

シルフ「違うって言ってるじゃない!!」

  うそうそ。

シルフ「違うって行ってるでしょーが! こんの物まね作家が!!!」

  ぐはああぁぁーーーーー!!! …な、な、なななにを根拠に……

シルフ「続編が『闘神大会』なんて、展開がのるんさんの『Waiting Reset!!』とおんなじじゃない!! このまねしー!!!」

  ほああああーーーーー!!!! …そ、そ、そ、そんなことは…。

シルフ「のるんさんが自分の学校の後輩と知って強気になってんじゃないわよ!!」

  …ち、ち、ちがうぞ、それはちがうぞ。ちがいますよ、のるんさん。

シルフ「まあ、今更やめろとは言わないけどね。ただ……」

  ただ……?

シルフ「この次にルドラサウムがどーこーなんて言い出した日にゃあ、わたしゃあ恥ずかしくってあんたのキャラをやってけないよ」

  そ、それはないと思う。だって話でかすぎ。

シルフ「だといいけど…」

  ま、まあ、とりあえず、ここでのるんさんにおわびをしておこう。

シルフ「本来なら前書き、…いいえ、書く以前に断ることよ。夜中の料亭で黄金色のまんじゅうくらい持ってかなきゃ」

  無茶言うなよ。

シルフ「とにかく、誠意をもってちゃんとお詫びしておくのよ! いいわね!!」

  わかりました。

 

 というわけでもないのですが、のるんさんにつつしんでおわびを申し上げたいと思います。

 「Waiting Reset !!」を読んで、…闘神大会か、やってみたいなあ…と思ったのはまぎれもない事実なので、再度、おわびしておきます。

  ゆるしてね。てへっ。

シルフ「てへっ…じゃなーーーい!!」

 

 

 

 


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