その朝は唐突に、朝日の前にやってきた。

 

「ZZZ…うーん、んがっ、…むー、……ぱちっ」

 なんとなく目が覚めて、ゆっくりと視線を時計の方へと向けた。

 …5時43分。

(…ちっ、ぜんぜん早えーじゃねえか)

 なんとなく損した気になり、再び眠りの国へと向かおうとする………が…

(……くそうっ、寝れん! 妙に目が覚めちまった)

「………ちっ!」

 舌打ちをして、しょうがなく体を起こす。

(…………んっ、なんか妙だな…)

 珍しく早起きしたせいなのか、なんだか妙な違和感を感じる。

(…気のせいか? …いや、やっぱなんか変だ!)

 眠気まなこであたりをうかがいながら、違和感の元を探ろうとする。

(………ぬぅー…一体何が…)

 視線が布団…いや、布団の中にある自らの下半身に行ったとき、違和感の元に気づく。

(…どーも調子がでんと思ったら、朝立ちもしてねーじゃねえか)

 自身のハイパー兵器の元気ないことが違和感のもとと考え、手をそこへとのばす。

(……ぬっ!?)

 妙な感触に…いや、あるべきはずの感触をさがして、手をさまよわせる。

 そして、その結論は……

 

「なっ! ないっ!! …おっ、俺様のハイパー兵器があああああぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

 そして、自らの発した妙に高い声にさらに驚く。

「あっ、あぁーー、なっ、なんだ、この妙にかん高い声は!」

 発声練習を交えつつ、何かがおかしいことを確認し、さらに視線をきょろきょろと動かすと、窓の向こうから顔を出していたシィルと目があった。

「おっ! シィル! なんか変なんだ! 俺様は一体どうなってんだ!!」

 窓の向こうのシィルも、なんかパクパクと口を動かしているのだが、全然聞こえない。

「聞こえねえっ! 一体なんて言ってんだ!!」

 相変わらずシィルが口を大きく開けて、何かを言っているようなのだが、まるで聞こえない。

「だから何言ってんだ!!」

 シィルもさっきから同時に口を開いているのに、自分の声しかランスには聞こえない。

「同時にしゃべるな!!」

 やっぱりシィルも一緒に口を開く…そう、全くの同時に…

 

「…ま、まさか…」

 

 ランスが右手を上げる。

 …同時にシィルも左手を上げる。

 ランスが右手を下げて、左手を上げる。

 …同時にシィルも左手を下げて、右手を上げる。

 ランスがニヤリと笑う。

 …同時にシィルも、シィルらしからぬニヤリとした笑いを浮かべた。

 

「し…シィルになってるじゃねえかっ!!!」

 

 ランスがその驚くべき事実に気づいた瞬間、廊下からドタドタという音が響き…

 

 バアァァァーーーーン!!

 

「わっ、私っ! 起きたらランス様になってましたあっ!!!」

 

 部屋に駆けこんできて、そう声をあげたのはどう見てもランスなのだが…おそらく、シィルなのだろう。

 

「は、…はは…」

 

 シィルになったランスは、ただ笑うしかなかった。

 

 

 

 ……………

 ……

「…とにかく、一体なにが起こったかだ」

「…はあ」

 テーブルに偉そうに肘をついているシィルと、上目遣いに落ちつかなそうにしているランス…非常に妙な構図であった。

「…昨日寝る前までは、確実に俺様は俺様だった」

 可愛い声で、偉そうな言葉遣いのシィル…中身の入れ替わったランスが、確認するように言った。

「…はい。…私も、私でした」

 応じるように、ランス…中身の入れ替わったシィルが答えた。

「わかった! 昨日のカレーがすっごく辛かったのが原因だ!!」

 シィルになったランスが、間違いないと言わんばかりに言った。

「…あ、あの、昨日はカレーじゃなかったですけど…」

 ランスになったシィルが、おずおずと訂正した。

「ぐっ! …じゃ、じゃああれだ!! 昨日食ったきのこが…」

「…きのこも、入ってませんでしたけど…」

「くそっ! あの作者なら恥ずかしげもなく、そういうのを使うと思ったのに!!」

 ランスが失礼なことを言い放った。

「…あ、あの、…それで、これからどうしましょうか?」

 憤慨しているランスに、シィルがおずおずと聞いた。

「……むうう、そうだなあ……………ぐうう…」

 シィル…いや、ランスのお腹が鳴って、朝の相談はうち切られた。

「シィル、とりあえず朝飯だ」

「あっ、はい!」

 そう言って立ち上がったランス…いや、シィルはそこで思い出したように尋ねた。

「…あ、あの…」

「…なんだ?」

 シィルはおずおずと…

 

「…は、裸エプロンはどうしましょうか?」

 

 ………

 …

 

「自分のけつなぞ見たくもないわあっ!!」

 

「し、失礼しましたあっ!!」

 そそくさと、シィルはキッチンへと消えた。

 

 

 ………

 …

「ぬう、もうお腹一杯になってしまった」

 自分専用のどんぶりの半分も食べないところで、シィルになったランスが言った。

「…それで足りてるのか…って、いつも思ってたが、足りてたんだな」

 ランスがなんとはなく感想を述べた。そんな言葉に…

「ふふっ、そうですね」

 微笑みを返すシィル…なのだが、ランスの体なので非常に違和感が…

「…まあ、とにかくなんか対策を考えんとな」

 足と腕を組んで、ランスが言った。

「…あの、この前の私の時みたいには?」

 シィルが、うしにされた時のことを持ち出した。

 

「絶対にダメだあああぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」

 

「あっ、はあ?」

 すさまじいばかりの拒絶を受け、シィルはそれ以上聞けなかった。

 

 なにがあったんでしょうねえ(笑)

 

「あっ、私、お昼の買い物に行ってきますね」

 逃げるように、シィルはそう言って買い物へと向かうのであった。

 

 

 

 ………………

 ……

(…ランス様、ホ・ラガさんのところで何があったのかな?)

 シィルはそんなことを思いながら、買い物かごを持って商品の物色をしていた。

 彼女にとっては普段通りの行動なのだが、いかんせん今日は違う。シィルの姿は、今はランスなのだ!

 アイスの町の商店街は、この驚くべき異様な光景にあぜんとするばかりだった。

 そんな彼女の目に、知り合いの背中が入ってきて、思わず…実に自然に声をかけてしまった。

「あっ、かなみさん!」

「んっ、…ゲッ、ランス!!」

 かなみは不幸の元凶に会ったかのように、いやーな顔をした。

(…そうでした…今、私はランス様の姿でした…)

 かなみの表情を見て、シィルはその事実を思い出した。

「あっ、こんにちは」

 シィルがぎこちなく、それでもあいさつをした。

「…こ、こんにちは」

 な、なにごと? …と言わんばかりに警戒しながら、かなみもあいさつを返す。

「い、今は散歩ですか、それとも仕事です…えっと、仕事か?」

 シィルがなんとかランスらしい話し方をしようとしたのだが、怪しさ倍増であった。

「…し、仕事だけど…あれ?」

 ランス…実はシィルなのだが…の持っている買い物かごに、かなみは気づいた。

「…どうしたの、それ?」

「えっ、買い物です…だ」

 

「えっ、…ええええぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 かなみが大声を上げて驚いた。…まあ、当然の反応と言っていいだろう。

「ら、ランスが買い物…し、シィルちゃんはどうしたの!?」

「え、えっと、その…」

 私がそうです…とも言えず、とりあえず…

「…ちょっと、病気で…」

 …と、そう言った。それに対して…

 

「えらいっ!!!!」

 

「はっ?」

「すごい! 見直したよランス! …シィルちゃんが病気で寝込んでいる時、代わりに買い物をする。なんかすっごく感動した!!」

 妙にテンションの高くなったかなみの反応に、なんとも言えない顔をするしかないシィルだった。

「うんうん、いいところあるじゃない。

 そうだっ! 看病とか大変じゃない? 私で手伝えることがあったら言ってね、協力するから」

「あ、ありが…っと、わるいな」

「ううん、そう言うことなら話は別だからね。シィルちゃんのこと、大事にしてあげてね」

「…ど、どうも」

 なんだか押し切られるように、シィルはそう答えた。

「うん、じゃあ」

 かなみはなんだか機嫌良さそうに去っていった。

 

 

 ちょうどそのころ…

 

「ぬうううぅぅぅーーーーー!!!」

 シィルとなったランスは、お昼の奥様よろしくゴロゴロと魔法ビジョンを見ていた。

「つまらんつまらん! 暇だ暇だ!!」

 ゴロゴロ転がりながら、そんなわがままを言う。

「おーい! あてなー!!」

 ランスは暇を持て余し、あてな2号を呼びつけた。

「はぁーい、なんれすか、シィルちゃんになっちゃったご主人さま」

「そんなのは別につけんでいい、とにかく暇でつまらんのだ!」

 やって来たあてな2号に、ランスが言った。

「Hがしたいのれすか?」

 あてな2号がズバリと要点をついた。

「…ぶっちゃけた話、そうだな」

「レズプレイですか、ご主人さま?」

「…ぬっ!」

 あてな2号が身も蓋もない言い方をした。

「…ぬうう、Hはしたいが、…レズかあ。逆にさらに欲求不満になりそうだなあ」

 やはり入れてなんぼだろう…と、ランスは思った。

「ご主人さまになっちゃったシィルちゃんが帰ってきてから、Hするれすか?」

 そのあてな2号の発言に…

「やっ、やめろっ! そんな趣味はない。入れるのがいいのだ!」

「入れられるのもいいれすよ」

「…そう思ってしまうようになるのが怖い」

 それは、まぎれもないランスの本音だろう。ワーグの夢の時だって…

 

「やめろぉーー!!!」

 

 切実そうだから、この話はここまでにしましょう。

「…と、とにかく、なんとかしなければ、欲求不満で死んでしまう」

 ランスは事態を非常に深刻に受け止め、その対策に真剣に考えを巡らせた。

「…よし、フェリス!!」

 何かを思いついたように、ランスが契約している悪魔…フェリスを呼び出した。

 その呼びかけに応じて、黒煙と共に…悪魔フェリスが現れた。

「………ん、あれ?」

 フェリスはきょろきょろとあたりをうかがい、ランスの姿のないことに怪訝そうな顔をする。

「ここだ、ここ」

 シィルとなったランスが自分を指さして言った。

「…ん、体は違うけど魂はランスみたいね」

 フェリスが納得したというように、うなずいた。

「うむ、なんだかわからんが、そういうことだ」

 シィルの体で、ランスは横柄にうなずいた。

「それで、用事はなに? …Hじゃあないでしょうね」

「直す方法はないか?」

 単刀直入でランスが聞いた。

「…そうね、魂と肉体の入れ替えなんてのは上級の悪魔や天使にとっては割と簡単なことだから…」

「…おっ、できるのか!」

 フェリスの言葉に、ランスがつめよる。

「…だから、上級のって言ってるじゃない。今の私にはちょっと無理よ」

「ぐぬぬ」

 歯ぎしりをするランスをしり目に、フェリスは言葉を続けた。

「上司に頼め…なんてのも無理よ、魂の入れ替えの呪いの解呪なんて悪魔の仕事じゃないから」

 フェリスとしては最後通告のつもりだったのだが…

「…のろい…か」

 ランスはそうつぶやくと、シィルちゃんの顔でニヤリと笑った。

「ランス?」

 怪訝そうなフェリスのつぶやきも無視して…

 

「なーんだ、簡単なことじゃねえか! があぁーはっはっはっはっ!!」

 

 シィルちゃんの体で、ランスはガハハ笑いをしたのだった。

 

 

 

 ………………

 ……

「…解呪の迷宮…ですか?」

 ランスになったシィルが問い返すように、その単語をくり返した。

「うむ、そうだ。…なんたって神の呪いだって解いてしまう泉だからな、この程度の呪いは簡単に解けるに決まってる」

 シィル用の小さな茶碗で、ガツガツと昼飯を速攻で食べ終わったランスは、シィルの食べ終わるのを待つのももどかしそうに、そう言った。

「どうしてこうなったかは知らんが、とにかくまずは呪いを解くぞ!」

 ランスのその宣言に対し…

「わかりました、それではさっそく行きましょう!」

 シィルもそう答えた。

「よしっ! 善は急げだ! あてな、留守番は任せたぞ!!」

「はいれす!」

 意気揚々と、二人はいざ解呪の迷宮へと向かったのであった。

 

 

 

 ……解呪の迷宮…

 ……ここには2種類の強力な泉が存在している。

 …そのうちの一つが、成長を著しく促進させる『成長の泉』…

 …そしてもう一つが、迷宮の名にもなっている、この大陸の呪いという呪いで解けないものはない『解呪の泉』である。

「ふん、やっとついたか!」

 腰に魔剣カオスを差したシィルちゃん…の格好のランス。

「ええ、ようやく着きましたね」

 荷物のほとんどを背中にしょったランス…の格好のシィル。

 

 …普通の男女のパーティとしては、別段へんな取り合わせではないが、この二人ではかなりの違和感があった。

 

「いざ出撃だあぁっ!!」

 

 勇ましく、シィルちゃんの声で雄叫びがあがった。

 

 

 ……そのわずか数分後…

 

「く、くそおっ!!」

 シィルとなったランスが重そうに魔剣カオスを構え直し、敵へと突っ込む。

 …剣技というのは、体に覚え込ませる、体に染み込ませる…という言葉があるように、肉体のしめる割合が極めて高いものである。

 そして、当然シィルちゃんの体にそんなものは染み込んでないし、覚えてもいない。

「でやあ!」

 かけ声とは裏腹に、魔剣カオスはヘニャヘニャと目標を大きくそれて地面に到達した。

「あぶないっ! ランス様!!」

 そう言いつつ、シィルが魔法の構えをとって…

「炎の矢!」

 敵へと向かって魔法を放とうとした。

 …しかし、ランスの体で魔法が使えるわけもない。

「ハニーフラッシュ!」

 なんとかその一撃をかわすと…

 

「ぐぬぬぬぬぬぬううぅぅぅ………戦術的撤退だあぁっ!!」

 

 1Fの、それも入ったばかりで出会った…グリーンハニー如きに、ランス達は逃走するしかなかったのだった。

 

 

 

 ………………

 ……

「うううっ、むかつくむかつくむかつく」

 あきらめて帰路に就いていたランスは、道中ぶつぶつと文句をくり返していた。

 王座につく前、超A級の冒険者コンビであった二人が、わずか一体のグリーンハニー如きに手も足も出なかったのだ、いらつくのも仕方がないというものであろう。

 …剣の使えないランスに…

 …魔法の使えないシィル…

 

 ……もはや、役立たずコンビでしかない…

 

「くっそう、いらつく! すぐそこに裸のねーちゃんがいるのに手が出せないみたいで、すっげえむかつく!!」

 ランスがのしのしと歩きながら、文句をぶーたれ続けた。

「…どうしましょうか、ランス様ぁ?」

 シィルがおずおずと聞いた。

「…とにかく戦力が必要だ。あてなを連れてくる」

「…ですね」

「あとは、志津香は…いねえんだったな、マリアか」

「…マリアさんは志津香さんから手紙もらったとかで、遊びに行ってるはずですよ」

 シィルが口をはさんだ。

「くっ、この大事なときに!!」

 世の中の全てのことにむかついてくるランスであった。

 

 

 

 ………………

 ……

 …意気揚々と出ていったはいいが、一週間を無駄に過ごして帰ってくることとなったランス達。

「今帰ったぞ!」

 不機嫌をむき出しで、そう言ったシィルになってしまったランスを迎えたのは…

「お帰りなさいなのれす」

「ああ、帰ってきた。…駄目じゃない、病気のシィルちゃんを引っぱりまわしたりしたら」

 あてな2号とともに、かなみが出迎えたのであった。

「ぬっ、かなみではないか」

「……あれっ? 元気そう…」

 かなみの目には、シィルは小憎たらしいくらい元気そうに写った。…ただ、なにかが確実におかしいことはうかがえた。

「いや、えーと、…病気だって聞いて任務が終わったから、お見舞いに来たんだけど…ね。

 …だ、大丈夫なの? シィルちゃん」

 おずおずとシィル(ランスだけど)に聞いた。

「…んーっ? 何言ってんだ、お前?」

 なんとかランスの真似をしようとしていたシィルと違い、相手のとまどいも気にせず、堂々と地をだすランスであった。

「…えっと、あの…」

 シィルがなんとかフォローを入れようとするが、そんなものお構いなしに、ランスは話を続ける。

「…だいたい誰が病気に……はっ!」

 そこまで話して、何かを思いついたようにランスは言葉を止めた。

「…ちょっと待ってろ」

 かなみにそう言うと、ランスはシィルを廊下へと引っ張っていった。

 

「??? …どうしちゃったの、シィルちゃん?」

 

 ランスを強引に引っ張っていくシィルの図…かなみにはとても異常な光景に写った。

 

 

 ………

 …

「…どうしました、ランス様?」

「ふふん、あいつは使える」

 シィルの問いに、ニヤリと邪悪そうな笑みを浮かべてランスが答えた。

「…ああ、かなみさんにもついて来てもらうんですね」

 シィルがわかったというように聞いた。

「ふっ、まあ一言でいうとそういうことだが…

 …あのバカは俺様に惚れてるくせに、妙に意地っ張りだからな」

 相変わらず自己ちゅーな発想をするランスであった。

「俺様が呪いにかかったと言っても、素直にならずに足下を見やがる可能性がある」

 ランスが割と正確な予測を立てる。

「…どうするんですか?」

「つまり、お前…シィルが呪いにかかったということにする。あいつは病気になったと思ってるようだからちょうどいい、実は呪いだったという風にすればいい」

「……うー、なんだかかなみさんに悪いような気が…」

 シィルがおずおずとそう言うが…

「…お前が呪いにかかってるのも事実だ」

 ランスは、完璧だと言わんばかりにうなずいたのだった。

 

 

 ………

 …

「…えー、かなみさ…あー、かなみ」

 シィルがかなみに話しかける。

「あっ、ランス!

 ……なんか、シィルちゃんの様子がすっごく変なんだけど…ものすごくタチの悪い病気なんじゃないの?」

 かなみは最後の方はランス(実はシィル)にしか聞こえないように、耳元でしゃべった。

「え、えーと、あの、…実は病気じゃなくって、呪いだったらしい」

 最後につけようとした『の』の字を飲み込んで、シィルが答えた。

「えっ! 大変じゃない! それでどうするの?」

「それで、解呪の迷宮へ行こうと…」

 おずおずとシィルは言葉を紡ぐ。

「よし、わかった。私も手伝ってあげるよ」

 かなみが胸をたたいてそう言った。

「…ありが…すまんな、この礼は必ずするから」

「ふふ、すなおじゃない。期待してるわよ」

 かなみはそう答えると、笑顔を浮かべた。

 その笑顔に、シィルはすまなそうな表情をし、ランスはしてやったりという感じで笑ったのだった。

 

 …かなみがこのことをモーレツに後悔するのは、そう遠くない話であった…

 

 

 

 ………………

 ……

「…はー、…ひー、…ふー、…へー、…ほー」

 解呪の迷宮…地下…そろそろ10F辺りであろうか…

「はひっ、…ふへっ、…ほー」

 なんとか敵を退けたかなみが、肩で息を切らしていた。

「だ、だいじょうぶで…大丈夫か、かなみ?」

 シィルがおずおずと聞いた。

「だっ、だい、…大丈夫なわけ、な、はーはー…ないでしょう」

 へたりこみながら、かなみが答える。

「呪いで魔法が使えないシィルちゃんはともかく、あんたもちょっとは手伝いなさいよ!」

 ここまで、かなみとあてな2号しか戦っていなかった。

「…すいません」

 ランスになったシィルは素直に謝った。

「…うー、そう素直に謝られても…」

 怒りづらくてたまらないというように、かなみは言葉をにごした。

「ま、先へ進むわよ」

 なんとか気力をふりしぼって、かなみは立ち上がった。

「おら、さっさと行くぞ!」

 ランスが何もしてないくせに、偉そうに言う。

「ぐっ、くく、…呪われてるとはいえ、このところのシィルちゃん…かなりムカツク」

 

 

 …そんなこんなで…

 

 

 …最下層…

 …そこに広がる美しい泉…

「…着いた…」

 シィルになったランスが、感慨深そうに声を絞り出す。

「…く、くうぅーー、かれこれ十日ばかり…じつに長い道のりだった」

 拳を奮わせて感動するランスに…

「…良かったね、シィルちゃん。…そこまで喜んでもらうと、私の苦労も報われるよ」

 なんだかんだ言いたいこともあったか、かなみも喜んでいるシィル(ランスなんだけど)の姿を見て、素直に良かったと思った。

「良かったですね、ランス様」

 シィルも思わず、ランスにそう声をかけた。

「…へっ? …何いってんの、ランス?」

「…え、ええっと、その…」

 なんとかフォローしようとしたシィルだったが…

「おーい、なんか俺様が入っただけでは効かんみたいだ。お前も来い! シィル!!」

 泉に入っていたランスから、そんな声がかけられた。

 

「……? …? !? …何!? 一体どういうこと!?」

 

 かなみにはもはや現状が把握できない。そんな中…

 

 パアアアァァァ!!!!!

 

 ランスとシィル…二人が泉につかったとき、その効果は劇的であった。

 

「があぁーーはっはっはっはっはっはっ!!!!!

 ランス様、だあぁーーいふっかあぁーつ!!!!!」

 

 泉につかっていたランスが、雄叫びをあげた。

「え、えーと、…呪われてたのはシィルちゃんで、それで………はいっ?」

 いまだに何がなんだかさっぱりわからないかなみに…

「ご主人様がシィルちゃんで、シィルちゃんがご主人様だったのれす」

 あてな2号からそういう風に教えられた。

「…つまり、二人が入れ替わってたってこと?」

 かなみのその問いかけに…

「ま、そういうことだ!」

 泉から上がってきたランスが答えた。

「……………

 …はあぁー、道理でランスの様子もすっごくおかしかったわけだ」

 ようやくわかったというように、かなみはため息をついた。

「すいません、騙してしまったようで」

 泉から上がったシィルがそう言って謝った。

「ん、…まあいいわよ。シィルちゃんも呪いが解けたみたいだし、結果良ければ全てよしってね」

 かなみはシィルを励ますようにそう答えた。その時…

 

 

「がああぁぁぁーーーーーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」

 

 

「なっ、何っ!?」

「ら、ランス様!?」

「ご主人様、びんびんれす!」

 高笑いに振り返った3人が見たものは、ハイパー兵器を臨戦態勢…パワー充填率900%にさせたランスの姿だった。

「十日も我慢したんだ! シィル、さっそくやるぞ!!」

「こ、ここでですか?」

 おずおずと問いかけるシィルに…

「とーぜんだ! もう我慢できるか!!」

 思いっきり言い放つランスだった。

「ふう、…やれやれ」

 苦笑するしかないかなみの目が、ランスとあった。

「な、なにっ、その目っ!?」

 ランスがニヤリと笑う。

「ちょっ、何よ、その笑いはっ!?」

 嫌な予感がして、かなみはじりじりと後ずさる。

「…そういえば、かなみにはちゃんとお礼をしてやらないとな」

「いいっ! いらないっ!! 気持ちだけでいいっ!!!」

 じりじりと後ずさるかなみの背中が…

 

 ドンッ!!

 

「!!」

 …壁に当たった。

 

「がああぁぁーーはっはっはっはっはっは!!!!」

 

「ひぃーーーーん!! こんなのお礼じゃなぁーーい!!!」

 

「ランス様ぁ!!」

 

「れすれす!」

 

 

 

 

 

……めでたしめでたし

 

 

 

 

 

「めでたくなあぁーーーい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ちなみに…

 

 

「ダーリン遅いなあ」

 リアが玉座でそんな言葉をもらした。

「…リア様、十日まえからそんなことをおっしゃってますが、また何かされたんですか?」

 側に控えていたマリスが確認するようにリアに聞いた。

「えっ! …り、リアは何もしてないよ!!」

 思いっきりうろたえるリアに…

「…このようなものをリア様のお部屋で見つけたのですけど…」

 マリスはそう言って、一冊の本を取りだした。表紙には『呪い大全』と書かれてある。

「あうっ!」

「…さらに、このページに栞がはさんでますけど…」

 そのページに書かれていたのは、『性別を入れ替える呪い』であった。

「あうう!!」

「…そのうえ、ここに書かれてある材料の残りの全部が、リア様の部屋から見つかったのですが…」

 

「う、ううー、だってだって、あの奴隷が男になったら、ダーリンがきっと帰ってくるって、そう思ったんだもーーん!!」

 

 びええぇぇーー!! …と玉座で泣き出すリア。

 

(…リア様、ちっとも懲りてられないんですね)

 

 マリスもため息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 ………ちゃんちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 くああ、やっとできた!!

 

 …ああっ! しまった、第一声がこれではまずい!!

 

 …ええ、皆様、50000アクセス大感謝です!

 ついにここまで来ることができました! 実にめでたい!!

 

かなみ「はうう、私出る予定なかったのに…」

  いやー、やっぱそう言うわけにもいかんだろう。かなみちゃん教徒としては。

かなみ「…あうう、出さなくていいのにい」

ランス「…どうでもいいが、読む方は混乱せんか、この話」

シィル「…ですね。入れ替わってますから」

  うーん、とりあえずしつこいくらい入れ替わってることを説明したつもりだけど、わかりづらいかな、やっぱり。

あてな「あてな2号、初登場れす!」

  おっ、そういえばそうなのか。お前を書いた話は全部ボツにしてきたから、そうなるのか。

あてな「れすれす」

シィル「あの、今回は私をメインヒロインにしたそうですけど」

  うん、そう言う内容になってるでしょ。

シィル(…そうでしょうか?)

  どうでしょうか?

 

 

 ではでは、最後にもう一度…

 

 50000アクセスありがとうございました!

これからも末永くよろしくお願いします!!

 

 

 

 


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