シフトレバーの話。



「エス」のシフトフィールは素晴らしいものだ。そのタッチは、当時の広告、オートスポーツ表4のシリーズ広告に、「これがホンダタッチです。」と言うのがあったのを記憶しているが、言うまでもなく「エス」のそのフィールは数ある「エス」の素晴らしい魅力の中で上位 に位置するもので、そのソリッドでけじめのあるシフト感は他にないものだ。その短いシフトレバー、さらに短いそのストローク、素晴らしいフィールを提供するロックボールにセレクター、シフトロッドの設定。それらが相まって、あのフィールが生まれている。以前ゲストにお迎えしたNS−Xのラージプロジェクトリーダーである上原氏に「エス」をドライブしていただいた、もちろんレーシングコースでである。氏はなんと予定より遥かに多くラップを重ねられた。そのドライブをみて私たちは安心したのである。ホンダのスポーツカー最高責任者が、やはりそういった人物であったこと、とても好感を覚えたのを記憶している。その後のインプレッションで氏は「エス」のシフトフィールに触れられて氏の絶賛コメントをお聞きした。この部分はNS−Xの負のようなことをおっしゃったのだが。理論では当然ワイヤーコントロールのNS−Xの方が分が悪いことはわかっていたのだが、後日NS−XtypeRに試乗する機会があり、そのことをさらに確認した次第である。しかしそのシフトレバーの小ささは尋常ではなかった。あの大きなNS−Xに何と小さなシフトレバーであるか。グリップすると手の下側がもうトンネルに接してしまうほど短いのだ。これは少々過激に過ぎる思いでドライブさせていただいたのだが、やはり「グスッ」としたフィールで「エス」のモノとは違うものだった。でも短かさではNS−X方が短いものだった。ともかくも、あのフィールは「エス」だけなのだ。それにあのシフトノブのカタチ。これは趣味の問題ではあるが最高のフォルムをしていると思う。あのシフトノブ、当時のレーシングモデルにかなりの数が使われていたように思う。とにかくあのフォルムはレーシングそれもフォーミュラベースデザインで、現在でもよく似たものが採用されている素晴らしいフォルムだと思う。基本的に、あのカタチはサイドから、シフトレバーに直角に延ばした手で自然に握れるようになっている。他のクルマでは大抵上方から握る様になっていて球体のものや、ずんぐりしたものになっている。それはドライビングポジョションの違いを端的に表していて、「エス」のように低くすわりストレートアームに近い姿勢で乗るには最適なカタチといえる。それはフォーミュラ等のレーシングモデルとよく似たドライビングポジションといえる。シートに座り極く自然に左手を伸ばすとそこにシフトノブがあるということ。スポーツの世界である。そのシフト操作にまつわる種々雑多なハプニングについて記したいと思う。シフト操作は、ステアリングホイールやペダルと共に、ダイレクトインターフェイスであり。それに起こる様々なトラブルは緊張をもたらすのは当然で、慌てることになるのももっともである。特にシフトに関するトラブルは致命的なものから、ほんの簡単なものまで色々とバリエーション豊かにあるけれど、起こったときは、先述のようにどれも深刻に思うのが常である。ここではその考えられるトラブルのその真実と対策を記してみようと思う。ただし今回、記するものは、誌面 の都合上「エス」での確率の高いものを取り上げるため、少ない確率で起こるものは外してあることをお断りしておく。まず現象的なもので挙げると、ギア鳴りしてシフト不可の場合。シフトレバ一がコントロール出来ない場合。さらに特定のギアの変速不可の場合。と大きく分けて3パターンが考えられる。最初のギア鳴りする場合は、ほとんどがクラッチトラブルで特にS600の場合は 圧倒的にリリースシリンダーのエアーロックで起こる。ヒルクライム等の登りで多発する。以前に記したようにサイドに寄ったリリースシリンダーがその下のエグゾーストマニフォールドからの熱を受けやすく、またリリースシリンダー自体のエアー抜きが完全でないことがエアロックを生み、クラッチ切れが果 たせなくなる結果で、ほおっておけばすぐにシフト出来るようになるはずである。ギア鳴りはまずクラッチを疑うとしておくことがベスト。次にシフトレバーがコントロール不可の場合は、数種類の現象がある。最初にシフトレバーがフラフラに なってシフト不可になる場合は、比較的軽症でシフトガイドピンのガイドからの脱落で、これば室内からブーツを取り外しビス4本を取ってシフトレバーを外し、チェンジクランクをセンターに寄せ、再びシフトレバ一を2にはめ直せばおしまいである。ただしチェンジクランクがセンターに寄らなけれぱチェンジクランク周りにトラブルが発生している可能性がある。その第一候捕はチェンジアームのガタツキ から起こるセレクタートラブルを思えばいい。ともかくシフトレバ一が異常な方へ倒れこんだ場合はガイドピンがガイドからはずれていることを理解すれば、おのずと対処方法は決まってくる。 この場合、ボールホルダースプリングシートを固定する4個の6mmビスは、キャップボルトに換えてえておくことをお勧めする。オリジナルのプラスビスはインパクトドライバー等で回さないと外れないもの や、プラス溝が潰れてしまったものだと路上でそれが発生したような場合、致命的な要素となって自走不可の場合も考えられるから。もっとも日頃エンジン脱着にはげん でいるオーナ一にとっては問題ないことではある。ただ、どちらにしてもこの4個のビスはキャップボルトに換えておくほうが作業性が圧倒的にいい。次の場合はノーマ ルやチェ一ンドライブでは起こりえないトラブルでリジッドアクスルのレーシングバージョンのみに発生するもの。つまり車高を抵く設定した場合でノーマルの場合図の 4の位置にプロペラシャフトがあり2の隙間も少ないがそれなりに空いているが、車高を下げると接近。リアアクスルのボティ接近に伴ってプロペラシャフトは3のようにシフトガイドプレートカバーに近づき、接触してしまう。上のフォトがその接触あと。ただし車高をさげなくてもリアのストロークアップをなんらかの方法で達成す ればフバンプ時にも同様のことが発生する可能性がある。このことはその接触によってガイドプレートカバーとそのすぐ上にあるシフトガイドプレートに変形を与え、シフトガイドピン4の動きを制限するようになってしま う。下方からプロペラシャフトの接触で盛り上がったカバープレートが1のピンをジャンプさせ、あらぬ 位置へ押し込んでロックさせてしまうトラブル。もっと恐ろしいのはフジのストレート終わり1コーナー寸前に発生したシフトレバーの異常振動によるギア抜けで、ギアが抜けるだけでも怖いものが、次のラップでその発生を押さえるために手で押さえ込んだ時の街撃は凄まじいものがあった。腕がバラバラになりそうなぐらい凄い衝撃が走って瞬時に、それから手を離していた。考えてみれぱ至極当然でフジストレートの終わりではエスでも時速200キロ前後だ。プロペラシャフトを手で押さえ込めるはずもない。余談ではあるがその結果 エンシンリアカバーにクラックがはいってしまった。あの鋳鉄のものがである。プロペラシャフトの押し上げでトランスミッションが持ち上げられリアカバーが割れたのだが、凄いのはリアカバーをボルトオンしているアルミブロック部分にはなんの問題も生じてていなかったこと。当然プロペラシャフトやゴムジョイントはだめだったが。このことから、それが最大の原因ではないにしてもゴムジョイントよりはクロスジョイントのほうがソリッドで振れを考えるとベストだと思う。振動でのコントロールの効かないシフトはこう言ったレースでの特殊な場合ではあるが。シフトレバーがフラフラになってしまうものはよく発生するもの。特にS600にはなぜか多い。先述のようにシフトガイドプレートから脱落した場合やガイドピンの折損、の場合は路上での完全修理は不可。また不適切なピン(2タイプある)の装着、なんとガイドピンにスプリングワッシャーを着けたためガイドプレートを乗り越え、(シフト操作時にば結構思わぬ 力がかかっている)それがガイド外部でロックしてしまった場合等、結構これが発生する。が、先に記したように、これらは、シフトトラブルでは軽症の部類で、ミッショントラブルと大慌てをする必要はない。ほとんどが路上で直せる場含が多々あるので落ち着いて対処されたい。次に記するのは路上では修理不可能な重症ケース。特定のギアのみシフト出来ないもの、他のギアにはなんの間題もなくシフト可能で、まったくの異音もしない状態でのそれは、先日のTlサーキットでの耐久レースでのことだった。スタートして数ラップした時になんと4速に入らなくなってしまった。止めようかとも思ったが4速のみのトラブルで他はまったくモンダイがなかったので続行を決め込んで周回を続けた。当然ペースダウンにはなったがそ れでもとうとう最後まで走り完走となった。ただし最後尾完走で。昨今のヒストリックレースは過激にはしり、クラッシュ等が続出する場合が多い。今回も又、その例にも れず多数リタイアや周回数不足の結果、なんと優勝だと知らされた時は耳を疑った。「冗談でしょう。」が本音で.バカにするない、とも思ったのだが、先程のように多くのクルマがリタイアしたため最後尾で優勝なんてばかげたリザルトとなってしまった。4速が使えれば.最後尾にはならなかったけれど結局は同じ結果 だというヘンな結末 だった。ともかくも4速×の状態でも問題なく走れたのだが、トラブルの原因はトランスミッション内部にあった。当初はガイドプレートカバーの変形、プロペラシャフト接触により4速部分のそれが隆起してシフト不可にしていると考えていたのだが、ガレージにてチェックすると、どうもそうではないらしい。そこで、めんどうなり、とばかりにさっさとエンシンを下ろして調べると、やはりガイドプレートは、まったく関係ないのが判明。そうなると答えは、ほぼひとつ。シンクロだ。そう決めて、せっせとミッションバラシに移った。ミッションケースを二つに割り、4速側のシンクロをチェックすると、やはりそれが原因だった。シンクロナイザーリング、パーツリス トではブロッキングリングとなっているが3個あるシンクロキーの逃がし箇所からl箇所完全にクラックが入り開くようになってしまっていた。これではまったく同期できない。音もなく拒否された訳だ。このト ラブルは何度があって、またかと思った。実は前回このパーツ危険だとは思いつつ手持ちのシンクロリングの中で使えそうなもの内で、組み込まれていたものと同じものを着けた。ところがまんまとはずれ。もう1つあった着けられうなパーツ、そのシンクロキーの切り欠きが完全に抜けていた、もの、今回手持ちのパーツはそれしかなかった。シンクロキーが接触するのではないかと安全策で前回装着を見送ったものしかなかった。果 たしてそれをセットするとごく僅かのクリアランスを残してクリアーすることが判明。何のことはない前回装着を諦めたものは改良品だった分けだ。これをチェックするには実際に組んで初めて判明するもので、安全策をとって切り欠きが完全に抜けたものを選んだ選定ミスみたいなものだ。とは、いってもけっこうそのままで乗れたからまったくのミスともいえないが。それにそのリング現時点でまだ走行していないので基本的にはOKだとは思うが一抹の不安もある。もう一つガイドプレートの不良がその制御を超えた範囲でシフトレバーがオーバーストロークすると、とんでもないことが起こる。まずオーバーストロークしたシンクロナイザースリーブから例のシンクロキーが飛び出してしまう、もうそれでおしまい。トランスミッションバラシが待っている。またガレージ等で下からガイドカバーを取り外しシフトロッドをいじるとやはり制御されないそれはシフトキーが飛び出して同じことが起こる。以上シフトのチェック項目に付け加えていただければ幸いである。それでは、今年もスズガの空の下で。

(1996/10 Tanimura)

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